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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
5章 浮き沈みの激しい季節になりました
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第2話「山賊に襲われました」

「行きますか」

「はい」


 家を出ててくてくと。

 街道を歩く。

 徒歩だ。

 けっこう寒いので、私も聖女様も分厚い毛皮の服を着こんでいる。


 馬車はちょうど切らしているらしい。

 帰りはわからないが。

 行きは少なくとも歩かねばならないようだ。


 問題ない。

 私はもとより、聖女ロロットも相当な健脚のようで。

 若いころには冒険者活動などをして、各地の魔物を倒して回った経験さえあるという。


 ありあまる体力にものを言わせて、大きな荷物を背負って。


 歩いて。

 歩いて。

 歩いて。


 村の外れに来て。

 誰も守る者さえない無人の関所をくぐって。


 それは。


 何の脈絡もなくやってきた。


 私の視界に、赤い点の群れが大量に表示された。


(……なに?)


 地図の端にあらわれた不気味に明滅する赤マーカー。

 なんだろう。

 獣の群れ……なのだろうか。

 モンスターとは少し違う形なので、たぶんそうだと思うけど。


 はじめて見るタイプだ。

 いや。

 これは。

 そういえばどこかで。

 難民キャンプにいたときに、少しだけ同じものを見たような?


 100ぐらいの赤マーカーは村へと一直線に向かっている。


 ちょっと危ない気がする。

 どうする。

 戻るべきか?


 いや。

 しかし。

 獣を追い払うぐらいなら村の自警団がやるだろう。


 私は聖女様と一緒に気にせず歩き続けた。


 赤い点が村に到着する。

 明滅。

 村人を表しているらしい青い点が消えた。


 え。

 消えた?

 しばらくしてから村の方角を見ると、もくもくとした黒煙が上がっている。


 なんだ。

 なにが起こっている。


 遠くから風に乗って人の声が聞こえてくる。


「……戦の気配がしますね」

「姉さま?」

「嫌な雰囲気です。悲鳴も聞こえるし……このまま急いで村を離れましょう。おそらく、近づけばただでは済みません」


 煙が増えている。

 2本。

 3本。

 炎で空の色が変わりつつあった。


 悲鳴。

 歓声。

 鬨の声。

 遠くで運動会でもしているかのような、人の集団同士が生み出す叫び声。


 私は。

 戻ろうとした。

 しかし。


 妖精さん達がそれを押しとどめた。


『ぜったいだめー』

『よていどおりー』


 よてい。

 予定とはなんだ?


『もうせいこんずみ、だからー』

『ざいさん、まるもうけー』


 何を言っている。


『このりょうちの、ほうりつ』

『おくさんとこども、ゆうぐう』


 なんの話だ。


『だんな。しぬ』

『おくさん、よろこぶ。どこもおなじ。ちょうはっぴー』


 ようやく理解が及んだ。


 それは。

 つまり。

 これから。


 ファビオが死ぬと。

 そういう話なのか?


『らくできるよー』

『ここでまとー』


 いったい。

 なにを。

 いっている。


 私は。

 この世界に来て、はじめて。


 妖精さんが得体のしれないバケモノのように感じられた。


『違う。私は……そんなことは望んでない』

『それならー』

『てぃっきーをー、みかぎること、なかったよー』


 だまれ。


『黙れ!』


 的確に私の心をえぐる妖精さん。

 それを叫ぶことで否定する。

 違う。

 あの時とは違う。

 わたしは。


 もう、帰れないと決めたのだ。


「…………姉さま。姉さまなら、街まででも一人でたどりつけますね?」

「それは……できますが。カエデは?」

「ファビオを助けに行きます」


 聖女様はきょとんと目を丸くした。


「え、本気ですか?」

「もちろんです」

「危険ですよ? ものすごく。死にますよ? 痛いですよ? わかっているのですか?」

「わかっていません。でも、私は行くと決めたのです。後のことはよろしくお願いいたします」


 まぶしそうな目で私を見る聖女様。

 

「ああ…………私にもそんなころがありました。他人のために身を削っていた時期が。でも、やめておくといい。自分より大切なものなんて、一つもあるべきではありませんよ」


 聖女ロロットは私を引き止めている。

 心配しているのだろう。

 たぶん。

 彼女がどのように生きてきて何をなくしたのかなんて、私にはわからないけれど。


「カエデ。こわくないのですか」

「こわいです。でも行きます。姉さま、お元気で」


 返事を待たずに駆けだす。

 急がないと。

 いや。

 もちろん。

 まだファビオが死ぬと決まったわけでもないが。


 妖精さんは言った。

 ファビオが。

 死ぬと言った。

 私はもう妖精さんの言葉を信じられなくなっていたが。

 しかし。

 何度も私の危機を救ってきた、その絶対的中の予言のごとき能力のほうは信じている。


 走る。

 間に合え。


『やめてー!』

『そっちはだめー!』


 景色が高速で後ろに流れていく。

 見えた。

 村だ。

 ロックフィードの村だ。

 顔見知りのみんなが賊に襲われている。


 私は。

 頭にかっと血がのぼり。

 感情のままに動いた。


「お前らああああああああああああ!!!」


 蹴った。

 子供の髪を捕まえて引きずっている男を全力で蹴り飛ばした。

 バキバキとした感触。

 干物の骨を折るがごとく。

 賊は吹き飛んだ。


「な、なんだ!?」

「女……おお、すげえ美人だぜ! こいつはラッキーだ!」

「お前ら! 囲め! 殺すなよ!」


 見る。

 周囲を見る。

 1、2、3……7人。

 剣を手にとって村人を脅し、広場へと誘導していた山賊たち。


 今はその暴力を私に向けている。


 なめるな。

 ここは。

 お前らのような下郎が好き勝手にしていい場所じゃない!


「でりゃあああああああああああああああああああ!!」


 踏み込む。

 ぎょっとした表情を浮かべる賊徒たち。

 殴る。

 容赦なく顔面を拳で打ち抜いてやる。

 バキリと。

 骨が砕けた感触。

 勢いのままに振りぬいた私の右こぶしは、山賊男を2転3転させて地面をくるくると舞わせた。


「げっ!?」


 次だ。

 高速で動く。

 敵はまるで反応できていない。

 足を蹴る。

 折れる。

 細い木の棒がそうなるように、派手な音を立てて男の片足が砕けた。


 こいつら、弱い。


 寄ってくる男をつかんで差し上げる。

 軽い。

 人というのはこんなにも簡単に持ち上げられるものなのか。

 ぐしゃり。

 顔から地面に勢いよく落とすと、頭蓋骨がひしゃげて体液が飛び散り、首の骨も折れた。


 死んだ。


 の。

 だろうか。

 かもしれない。


 殺した?

 私が?


 いや。

 いい。

 今はそんなことを考えている余裕がない。


 私はひるんで棒立ちになっている賊のみぞおちにつま先を蹴り入れる。

 吐しゃ物をまきちらせて男が崩れ落ちた。

 男たちは遅くて弱く、私の速さについてこれないようだ。


「て、てめええ!」

「……っ!」


 横から殴られる。

 衝撃。

 いたい。

 でも軽い。

 お返しに拳を打ち込む。

 男の気が飛んだ。

 暴力を受け入れた腹いせに服をつかんで持ち上げ、そのまま勢いよく地面に叩きつけた。


 頭蓋骨が砕け、眼窩から眼球が飛び出し、脳漿がぶちまけられた。

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