第1話「わたしたち結婚しました」
籍が入った。
「え?」
披露宴の日取りが決まった。
「あ、あれ?」
ファビオとの結婚はとんとん拍子に進んだ。
まずは成婚。
プロポーズの翌日に村役場に行って手続きをして事実が確定し。
そのまま本家へと。
ファビオの実家で両親やら兄弟やらにあれこれ紹介され。
驚かれ呆れられ祝福されて。
反対もされて。
しかし。
もはや結婚してしまったものはどうしようもない、ということで。
そのまま正式に。
村全体にその事実を広めるために、大パーティーを開くという話になり。
私は村のあちこちを巡って。
ファビオの新妻として。
あいさつやら式の手配やらと、忙しい毎日を送っている。
結婚は。
ジェットコースター。
私はそれをよく理解した。
とにかく忙しい。
やることがたくさんだ。
気の早い人からは結婚祝いがどしどしと送られてくるので。
肉筆で手紙を書き。
お礼の品を添えて。
式にはぜひ出席してくださいとか、適当に誘いも入れて。
ようやく少し落ち着く。
ふう。
あまり考えている余裕がなかったが。
結婚。
してしまった。
これでよかったのだろうか。
ファビオの社会的地位は高い。
開拓地区の指導者であり。
村長の血縁にして、本人も大地主だ。
部下も山ほどいる。
総資産で言うと……たぶん数億から数十億というところ。
前世の私なら。
あるいは。
余裕で釣り合った、かも、しれないが。
今の私にとって。
ファビオは少々高めの男すぎるという感じもする。
難民崩れの住所不定無職。
親の加護もなければ財力もまったくない。
ちょっと求人を眺めただけでも、私の暗い未来というのはたやすく予想できる。
狩人仲間だった難民のティッキーと同じ。
社会の最底辺。
それが今の私だ。
ティッキーに求婚された時には自分の身のほどがわかっていなかったが。
ある意味、彼は私に釣り合う相手ではあった。
そして。
私は断って。
上を目指すと決めて。
結果として最上とは言えないまでも、身の丈をはるかに超える男をゲットした。
そう。
ここが妥協点。
このあたりで結婚しておかないと、次ははずれをひくかも。
うん。
そうだよな。
しょうがねえよなあ。
えへへ。
内心の建前思考とはうらはらに。
気分はうきうき。
ほほがゆるむ。
からだが熱くなって叫びだしたいほど。
好きな人との結婚。
それはやはり。
女の子にとって、永遠の夢であるがゆえに。
幸せだ。
うん。
よかった。
この世界に来てよかった。
私は結論を下した。
オーケー。
結婚してぜんぜん問題ないと納得し、いよいよ準備に入る。
初夜。
は、もう少し先。
この世界では披露宴の当日か翌日あたりにするのが一番倫理的らしい。
いやまあ。
フライングする事例なんて腐るほどあるけれど。
ファビオは異様なほど紳士的というか。
私を大事にしてくれるので。
その時まで待つつもり。
らしい。
嬉しい反面。
ちょっと物足りないような感じもする。
さて。
披露宴。
披露宴である。
この世界では前世結婚式そのまんまのウェディングドレスがあるらしく。
私はその手配をするためにロックフィードの村を出て、交易都市マッパライダーへと泊りがけの旅行をすることになった。
「ついでに小道具もいろいろと買いましょうね」
「はい」
「必要なものはリストにしておきましたが……他に欲しいものがあったら、なんでも言ってください」
「はい。お姉さま、ありがとうございます」
深々と頭を下げる私。
ついてきてくれるのは、ファビオの兄嫁である元聖女のロロットである。
聖女様。
それはみんなのあこがれ。
ボエボエ聖教における広報宣伝担当の超美人。
なのだが。
この時期はひたすら暇であるらしく、私の面倒を見る余裕さえあるようだ。
季節は冬。
そろそろ村中。
家で引きこもりをはじめるころである。
晴耕雨読というか。
春耕冬読なのだ。
日本みたいに一年中働いている環境を知れば地獄としか思えないだろう。
私の料理教室は娯楽としての人気があるようで、けっこう人も集まる。
しかし。
さすがに毎日はやっていられないし。
子供たちに教師のごとく勉強を教えている聖女ロロット様も、週に2日ぐらいはやはり暇になるのだ。
ということで。
一緒に行くことになった。
買い物ぐらいは一人でできるにせよ、やはり結婚経験者の意見を聞けるのはありがたい。
元聖女のロロット様は綺麗な人だった。
おそらく。
単純な外見では私よりも上ではなかろうか。
シミのない肌。
長くて手入れの行き届いたブラウンの髪。
冬服なので体型は不明だが、少なくとも太ってはいない。
顔も整っている。
目もぱっちり。
人ごみの中にぽいと放り込んでも、きっと一番注目を集めるだろうという。
そんな感じの美人だ。
ただ。
どことなく覇気がないというか。
聖歌隊の中心でキラキラと輝いていたあの少女と比べれば、だいぶ擦り切れた感じはする。
年のせいかもしれない。
10代と20代とでは生命エネルギーが違って当たり前だし。
子供も何人かいるようだったので。
育児に疲れたとか。
そういう話なのかも。




