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第11話「デートしてゴールイン」

『妖精さん……この世界の宗教と神様との関係は?』

『さー』

『たまにしんたくとか、するかもー』


 しんたく?

 信託……神託か。

 神が直接、神職者に指示を出して道を示すことだが。


 たまではな。

 空想癖がある者の妄言と区別がつかないだろう。

 強いて言えば、災害予知。

 これを何度かやって。

 信頼を得てから人を動かす分には、ある程度できるかもしれない。


『神様からのフォローは期待できるのか?』

『むりー』

『すきるがふぉろー』


 なるほど。

 この超魔力やら妖精さんやらを与えてくれたのが神様からのフォローだと。

 それは十分ありがたいが。

 しかし。

 これ以上の助力は期待できないと。

 そういう話のようだ。


 ともあれ。


 教会で歌と酒を楽しんだ私たちは、小腹がすいたので屋台通りへと赴いた。


 焼き鳥。

 牛串。

 餃子。

 まんじゅう。

 ピザ。

 パイ。

 シュークリームなど。


 多種多様な匂いがごちゃごちゃになって、ひどく雑然とした感じ。


 私が最近広めた料理がけっこうある。

 おお。

 プリンがあるな。

 あれはみんなから大人気。

 養鶏場をガンガン増やそうという意見が可決されるレベルらしい。


 みたらし団子やらせんべいなんかも広めたが。

 そちらの反応はビミョー。

 お菓子はクリーミーさや甘さ、脂肪のコクや食感なんかが重要だそうだ。


 どうもこの世界。

 いわゆるあんかけやらモチモチ食感やらは好まれないらしい。

 もちろん人によるが。

 和食好きの私としては不満なところである。


 ベーコンなんて極力食べたくないのに。

 この世界の人はみんな、ハム、ソーセージ、ベーコンが大好きなのだ。

 いやまあ。

 保存の観点からすれば当たり前なのだが。

 加工された肉を食うなというのは前世の顧問やら家族やらから口を酸っぱくして言われたことでもある。


 スポーツをやるなら、煮ろ、ゆでろ。

 焼くな。

 揚げるな。

 油を取るな。

 美少女でいたいなら砂糖を取るな、などなど。


 余計なお世話だ、とものすごく思ったが。

 運動会で一番にテープを切るときの快感には代えられない。

 それに。

 女の子が甘いものをゼロにできるわけもなく。

 私はけっこうパクパク食べていた。

 特に問題はなかった。


 かわりに。

 野菜やら茶やらコーヒーやら。

 毎日取っていたわけだが。


 この世界では高い。

 買うけど。

 私はファビオに対して、給料ぜんぶ野菜と茶とコーヒーに変えてほしいと言ってある。


 あとは研究用の食材か。

 値段は不明。

 私はこの件に関して無知でいることが身を守ることだと考えているがゆえに。

 質問したこともない。

 なんどか説明されそうになったが。

 そのたびに私は逃げた。

 立場によっては金に興味を示すことが危険ということもあるのだ。


 まあ。

 さすがにそれは。

 考えすぎなのかもしれないが。


「だんな様。何が食べたいですか?」

「カエデちゃんの手料理が食べたいかな」

「そ、それはすごくうれしい言葉なのですが……でもまあ、こういうのは雰囲気なので」

「そうだね。じゃあ、いくつか買おうかな」


 サンドイッチ。

 串焼き。

 焼きおにぎりなど。


 適当にぱくぱくとつまみながら村のあちこちを回る。


 まずは公園。

 興業に来ていたサーカスの一団に出くわす。


 ナイフ投げを披露するピエロ。

 玉乗り猿。

 笛吹き蛇とラッパ鳥。

 色とりどりのテープを空に放ち、手品を披露するマジシャンたち。


 おもしろい。

 華やかだ。

 ぱちぱちと拍手してからシルクハットに投げ銭し。

 ファビオとああだこうだ言い合いながら次の見世物を探す。


 中央広場のイベント会場では、拳闘大会の真っ最中。

 ドラがじゃんじゃんと打ち鳴らされ。

 そして大歓声。

 男と女の殴り合い。


 うわあ。

 この世界。

 普通に女ファイターが存在しているようだ。

 無差別級すぎる。

 しかもけっこう女ファイターが強く、きわどい服装で暴れまわって観衆を魅了している。


「へそ出しルック……」

「自信があるんだろうね。腹筋われてるし、確かにかっこいいかな」


 ファビオなんかは好意的な感想をもらしているが。

 私はドン引きである。

 いや。

 男と女での殴り合いって。

 ちょっとセクシャルすぎるのではなかろうか。

 確かにかっこいいし野性的で美しく、見世物としては一級品だと思うけど。


「カエデちゃんが出たら、たぶん優勝だろうね」

「だんな様。それはさすがに……いえ、命令とあらば…………やりますが」

「いやいや。さすがに冗談だよ」

「安心しました」


 ほっとする私。

 いやまあ。

 もはや前世的なモラルとかどうでもいいと思ってはいるのだが。


 あんな水着とフリルを合体させたような体型丸わかりの恰好をして。

 しかも観客の前で動き回るだなんて。

 どんな罰ゲームなのだ。

 それでもスポーツであればかろうじて理解できるが、殴り合いは無茶苦茶である。


 しかも。


 この拳闘大会。

 普通に怪我人、というか。

 死者も出るようだ。

 いやはや。

 異世界というのはすさまじい。

 人の命が軽すぎる。


「貴族領によっては、女の人が自分の体をかけて戦ったりするケースもあるらしいよ?」

「え……それは、公式にってことですか?」

「うん。僕らのいる領地では違法なんだけど、その地方では大々的に興業としてやるみたい」


 げええ。

 聞くもおそろしい話である。

 なんでも。

 この種の大会はだいたいが賭けと連動していて、女性であればハレンチな格好をすればするほど集客力と収入が上がるらしい。


 ふむ。

 つまりはビジネスなのか。

 だったら。

 しょうがないのかな。

 金と体力がなくなって野垂れ死ぬよりはましだろう。

 あれでも娼婦よりはむしろ健全な仕事だと言えないこともない。


「あ、決着した」

「みたいですね」


 女ファイターは最後まで男を寄せ付けず、普通に殴って勝った。

 そして。

 15分後ぐらいに連戦してぼこぼこにされて、顔を腫らして退場。

 悔し涙を流していた。

 なんか戦闘中に普通にセクハラとかもされていたので、ものすごく気の毒な感じである。


「これ、過酷すぎませんか?」

「うーん。5人抜きは設定無茶苦茶だよね。カエデちゃんぐらいしか達成できないんじゃないかな」


 いやいや。

 なぜそんなにも私を出場させたがるのだ。

 たぶん。

 勝てるけど。

 あの勇敢な女ファイターにセクハラしやがった男に関しては、骨の何本か折ってやりたい気持ちもあるけれど。


「ちょっと居心地が悪い気がします。他に行きません?」

「そうしようか」


 私たちは中央広場を後にして他の見世物を探した。


 酒飲み大会。

 大食い大会。

 ミスコン。

 腕相撲。

 ダンスやかけっこや即興詩。

 などなど。


 普段は見ない風変りなイベントが、あちこちで繰り広げられている。


 これらの催し物はしかし、珍しいものではない。

 みんなが参加者でありかつ企画者だ。

 ちょうど。

 学園祭の出し物みたいなノリなのであって。

 毛色の違うところでは、美術展やら歴史資料展やら剥製展示会なんてのもあった。


 実は私も、料理研究の発表をテーマに店を出そうとあちこちから誘われていたのだが。

 すべて断った。

 ファビオがそういったのだ。

 デートするための時間がなくなるから、出し物はやめてほしいと。


 ううむ。

 期待してしまうじゃないか。

 もう少し待つべきなのではないか。


 いや。

 しかし。

 当初の目的を思い出さなければならない。

 最近起こったトラブルの数々を。

 そのいくらかは、この私にも責任があるがゆえに。


 私はもう。

 待つのはやめると決めたのだ。


 夕暮れ。

 アルコールを摂取して幸せな気分になりながら山間の道を歩く。

 崖の傍に出た。


 高い。

 こわい。

 風が火照った体をなめていく。

 景色は絶景だ。

 ちょっと信じられないほど壮観で、パノラマに村全体が見渡せる。


「ここがこの村の……僕の知る限りでは一番きれいな場所かな」

「だんな様、すごいです」


 風の音が聞こえる。

 木々のざわめき。

 夕焼け空。

 青から緋色へとうつろいゆく世界。


 泣きたいぐらいに綺麗だ。

 前世でみたどんな景色よりも、たぶん。


 この気持ちはなんだろう。

 郷愁か。

 それとも別離だろうか。

 言葉にできない。

 悲しいような感情の波が押し寄せて、それを抑えるために必死になる。


 もう。

 帰れないのだ。

 私はそう決めた。


「だんな様!」

「な、なにかな?」


 ちょっと引いているファビオ。

 かまわない。

 こういうのは勢いだ。

 酒に酔って雰囲気がよくて覚悟を決めたこの場所で、それで告白できないのであれば一生何もあるまい。


「あの、私とですね!」

「うんうん」

「けっ、けっこ……じゃなくて、私が好きなのは、じゃなくて、ええ、あれ、ちょっと待って」


 てんぱる。

 だめだ。

 言葉が出てこない。

 恋愛経験値ゼロの私である。

 私は男を振るのにはすっかり慣れているが、自分から告白したことなんて一度もない!


 混乱する私。

 を、見たファビオは。


 何かをさっしたらしく。

 真面目な顔になり。

 ざっと距離を詰めて、私の肩をがしっとつかんで言った。


「カエデちゃん」

「は、はい?」

「僕と結婚してほしい」

「…………………………………………はい」


 と。


 いうことで。


 私はファビオのお嫁さんになった。

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