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第9話「男を選べ」

 15回。

 私がこの村に来てから求婚された回数だ。

 もちろん冗談は除く。


 前世のクラスメートであれば金持ちが金持ちと付き合うことの重さを理解しているので一人もやらなかったのだが。

 この村では違う。

 クラスの男子が遊びの女を捕まえてデートするのと同じ感覚で、彼らは求婚をする。


 超迷惑。


 会って2、3日の相手にプロポーズとか。

 ありえない。

 ほんとうにありえなすぎる。

 さすがに断れば音沙汰はなくなるのだが。

 それでも気がめいるし。

 信じがたいことに、プロポーズをきっちり断ったのになお食い下がる男と言うのもたまにはいた。


「なぜあんな男で満足しているんだ?」


 小作人頭の大男。

 名前は……どうでもいい。

 やや精悍。

 筋肉質で村娘からもモテる。


 数人の小作人をまとめている立場のため、少し増長しているところがある。


 それで勘違いをしたのか。

 告白を断ったにも関わらず逆に説教をされた。


「俺の方がファビオより圧倒的に力がある。苦労はさせない」


 大男は身の丈をはるかに超えた大嘘をほざいている。

 するよ。

 何をどう考えても小作人頭と一緒になった方が苦労するにきまっている。


 金はない。

 立場もない。

 あるのは体力だけ。

 使い捨てられる労働者の典型のような男が。

 どうやったら私に苦労をさせずにいられるのだ。

 まるで意味がわからない。


 そんな嘘を堂々とつけるところが気に入らないし。

 ファビオと比べてはなあ。

 男としての器量も。

 金も。

 権力も。

 個人的な性格や顔の好みでさえも、こいつはファビオより下だ。


 いったい何をどう増長すればこうなるのか。

 理解不能だが。

 まあ、世の中にはたまにこういう男がいるらしい。

 小学校時代に学んだ。

 世の中には下等なゴミのような立場でありながら自分が偉いと信じているマッハバカもいるのだ。


 ただ。

 決して絶対に間違いというわけでもない。

 男の好みというのは千差万別であって、そういった種類の相手を好む女というのもたまにはいる。


 勇気を出して告白して。

 それでうまくいく。

 そういった奇跡が起こった例は、枚挙にいとまがない。


 私は全然違うが。

 あくまでも私は上方婚至上主義であり、自分より目下の人間と付き合うなんて絶対にごめんこうむる。

 ファビオであればともかく。

 もしくは苦しい時に助けてくれた、ティッキーのような男ならばまだしも。

 あるいは……ありえない仮定として、前世のクラスメートであれば生理的に無理な数名を除いてぜんぜんOK、なのだが。


 こいつはなあ。


「ファビオなんて、俺がいなけりゃなにもできないんだ! 実際に仕事をしているのは現場にいる俺だ! 後悔はさせない! 俺はいずれもっと大きくなる男だぞ!?」


 なわけねーだろ。

 あほか。

 この村にかわりのきかない小作人なんて1人もいないのだ。


 彼が大きくなるためにはファビオからの引き立てが必要であり。

 いっぽう。

 ファビオのほうは彼がいなくてもなんら問題ない。


 適当に指導者を選んで。

 おまかせ。

 それで解決する。

 小作人を指揮して面倒をみるなんて、どれだけ高く見積もっても10人に1人程度の才覚があればできることだ。


「それに……俺の方がファビオよりも善良だ。あいつは腹黒い。ファビオはお前が思っているほど善意の男でもないんだ」

「ああ、そりゃあそうでしょうね」


 珍しく正論を言う男。

 それについては全面的に同意できると思うが。


 当たり前だ。

 個人が善良なのは当たり前である。

 人に使われる立場の人間が悪であれば解雇されてしまう。


 彼がファビオに対して善良を強いられているのは権力が低いからであって。

 生まれ持った性質自体が清いからではない。


「俺とファビオとを比べれば、明らかに俺のほうが勝っている。あんなナヨナヨとした優男、カエデには似合わない。俺を選ぶのがカエデの将来のためだぞ」

「…………」


 いったいなんなんだこいつは。


 仮にファビオと私では釣り合わないから妥協しろ、と言われたなら、多少はうなずけるが。

 ファビオのほうを落とすのは無理である。

 身の程を知らなすぎだろう。


 いらいらする。

 抑制が効かなくなる。

 私はともかく、ファビオの悪口を言われたせいで理性がとんでしまった。


 いいだろう。

 真実を教えてやろうじゃないか。


 私は怒りとともにこう言った。


「…………あなたのどこがファビオに勝っているというのです?」

「な」

「私から見て、あなたは完全にファビオよりも下にしか見えません。自分の身の程を知りなさい」


 塩の柱と化した男を一瞥し、私はその場を立ち去った。


 この件の後。

 カエデはお高くとまっているクズ女だという悪評が広まるようになった。

 はあ。

 言いたいことを言ってくれる。

 告白を断るだけでも嫌な気分になるのに。


 悪いうわさまで流すなんて!

 ひどい!

 そこまでやるなら、こっちにも考えがあるぞ!


 というわけで。

 ファビオに報告したところ。

 小作人頭さんはさっさと退職金を出されてお役御免となった。

 反省。

 少しやりすぎてしまったな。

 ファビオに誤解されるのが怖かったのでついつい密告したわけだが、それでも職を失わせるまでするのは過剰防衛である。


 ううむ。

 失敗した。

 もっと優しく断れるように精進するべきだが。


 上のような事件が何度か起こるにつけて。

 私もさすがに。

 いつまでもファビオをキープし続けるわけにはいかないのだと。

 そう思うようになった。


 全ての原因は、私が特定の相手を作っていないことによる。


 身を固めて。

 特定の相手を作って。

 他の男どもを諦めさせて次へ向かわせるのが、超一級の美少女(そろそろ自覚)たるものの使命というものだ。

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