第8話「メイドをしばけ」
さて。
そんな感じで。
いまでこそ毎日の料理は、私がある程度仕上げることに落ち着いたが。
当初はトラブルもあった。
例えば。
屋敷に住んでいるメイドさん。
ファビオの部下としては私よりも先に来ていた使用人。
先輩。
メイド。
そこそこ可愛い18歳ぐらいの女の子。
そんな彼女から。
私はひんぱんに雑用の指示を受けた。
パシリだ。
どうやら嫌われているらしい、と理解したのは、だいぶたってからだが。
先輩メイドさんは他に仕事がないにも関わらず。
私を呼び出して。
お使いやら掃除やら料理やら、ありとあらゆることを私に命令した。
とくに料理に関しては、ほぼ全部。
下ごしらえ。
火入れ。
味付けなど。
料理における重要行程をすべてやらせておいて。
そのくせ盛り付けだけは自分でやって、さも全て作りましたと言う態でファビオに提出するのだ。
たまならそれでもよかったが。
頻度が上がって来た。
毎日何度も、というレベルになると、さすがに私も困ってくる。
ううむ。
このままでは仕事に支障が出てしまう。
だんな様に相談してみよう。
私は。
家事と仕事の。
どちらを優先すべきか。
話を聞いたファビオはその日のうちにメイドを呼び寄せて説教した。
「君の仕事はカエデのサポートだ。サポートさせてどうする。どちらが重要であるかぐらいは理解できないのか?」
「で、でも、たまに頼みごとをするぐらいで」
「聞いた話によると、最近君が出した料理はほぼ全て、実際にはカエデの手によるものだそうだが」
「それは……でも、その子はいつも暇そうだし」
「わかった。もういい」
雇用者じきじきの呼び出しで説教を受けたメイドさん。
彼女は反論し。
放逐と。
そういうコンボを食らった末、再雇用してもらった本家のほうでもやらかして村から追い出されたそうだ。
この世界で村から追い出されることは死を意味する。
かもしれない。
が。
注意を受けてなお反抗的なメイドなんかをのさばらせた日には、運を吸い取られて殺されるのは雇用者のほうである。
まあ、あれだ。
もともとだいぶできの悪い子だったからな。
仕事を雑にする上に人の足をひっぱって、さらには上司に口答えまでしたわけだから。
解雇もやむなしか。
メイドさんの世界には雇用保障という概念は存在しないらしい。
しかし、いつも暇そうとは。
心外だ。
私が暇そうに見えるのは人の3倍の速さで仕事を片付けているからであって。
実際には暇ではない。
休息も仕事なのだ。
労働者なんかは忙しそうに見せないと余計な仕事を押し付けられるからしかたがない面もあるにせよ、暇そうは無茶苦茶である。
ううむ。
今の私は労働者なのだからな。
忙しそうにふるまって人の不興を買わないように見せる訓練するべきか。
いや。
ファビオはけっこうその辺に理解があるタイプの上司である。
常にだらけていても。
結果さえきちんと出しておけば文句をいうことはない。
てゆーか。
私はだらけてないし。
常に服装にも気をつけて働いてるアピールしてるし。
料理研究やら村の視察やら聞き取り調査やらを暇そうというのなら、それは単なる誹謗中傷である。
しょせんはメイドの卑しさか。
彼女は自分のやっていることのみが仕事なのであって、他人の努力というものを理解する知能がないのだろう。
ともあれ。
この件の後、私はこの開拓地区では一番権力がある女だとみなされるようになり。
人からの妨害はすっとなりをひそめた。
そのかわり。
ファビオに体で取り入ったあばずれだとかの誹謗中傷が回るようになったが。
まあな。
しょうがない話だ。
ぽっと出の女がしゃしゃり出てうろちょろしているわけだから、目障りに思われるのはやむをえまい。
女がらみのトラブルはそれぐらいである。
あとは。
男がらみのトラブルというのも、遺憾だが多少あった。




