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第2話「寝込んでしまいました」

 で、次の日。


「す、すいません。動けません」

「あー。やっぱり」


 起き上がれなくなった私をファビオが見つめている。

 ひんやり。

 濡れタオルを押し当てられた。

 とてもいい気持ち。

 優しく微笑んだファビオは「めっ」という感じで額をぴしっと叩き、そして立ち上がった。


「寝てていいよ。普通の人が一週間でやることを……老人なら一か月がかりのことをしてくれたわけだしね。しばらく休んでいい」

「あ、あの。簡単な仕事なら」

「休むのも仕事だから」


 ファビオはぴしゃりと言ってから部屋を出て行った。


 うう。

 情けない。

 調子に乗りすぎてしまった。

 前世的には限界ラインをはるかに超えていたが、魔力があるからいけると思ったのに。


 岩は圧倒的。

 何をどうやっても勝てない。

 それがよくわかった。


 いくら私でも100人分は働けない。

 というか。

 10人分でも無理だ。

 魔力が強いというのはあくまでも瞬発力が優れているというだけで。

 技巧や持久力が求められるような仕事であれば、1人はしょせん1人でしかないのである。


 私は昨日一日でうんざりするほどの数の岩を砕いたが。

 ぜんぜん足りていない。

 この村に道を作るなんてことは、しょせん私一人が一日二日でやれるような規模の話ではないのだ。


 みんなで。

 何年何十年もかけて。

 少しずつ進めていく。

 開拓とはそういうものか。

 前世の日本があれだけ便利だったのは、何億何十億という数の人が千年二千年がかりで開発し続けた結果なのだろう。


 ……はあ。


 私はため息をつき、しかし休める環境を得られたことに安堵の息をついた。


 実のところ。

 今回のことは、一度はどこかでやるべき失敗だった。

 限界を知る。

 その重要性は大きい。

 子供であれば運動のやりすぎでゲロを吐いて倒れるのは誰もが通る道だ。


 私はもうそんなことはなくなったが。

 この世界では違う。

 魔力というよくわからない概念を体で知らなければならない。

 永遠に使えるものなのか。

 限りあるものなのか。

 どうやら後者らしい、という最低限のことを調べるぐらいの実験は、いつか試す必要があったのは間違いない。


 今まではできなかった。

 難民だったから。

 そう。

 難民の世界で体力がなくなれば待っているのは「死」だ。

 誰も助けてくれない。

 うずくまったまま列の最後尾から零れ落ちていく病人や怪我人たち。

 私はそれを毎日何人も見た。

 彼らは死んだ。

 みんな。

 そのはずだ。

 そんな環境で実験もなにもない。


 あの時の私には常に「死」がとなりにあって。

 それに飲み込まれないためだけに、必死になって生きていた。


 ……でも。

 ここでならと。

 そう思ったのだ。

 今の状況であれば、寝込んでも誰かに助けてもらえるかもしれないと。

 私はそう思った。


 冷静に考えれば雇われてすぐやるような冒険でもなかったが。

 思ったよりも私は。

 ファビオに甘えているらしい。


 ファビオ。

 ファビオかあ。


 優しげな雰囲気。

 整った顔立ち。

 育ちの良さから生まれる上品さと余裕。

 うん。

 どんぴしゃだな。

 超好みだ。

 濡れタオルを頭にのせられたときとか、思わず顔が赤くなってしまった。


 怒られるのが楽しみだ。

 なんて。

 ちょっと自分でも調子に乗りすぎていると思うけど。


 私はにやにやと笑いながら。

 ひとまずは。

 一刻も早く回復するために、ベッドに深く潜り込んで呼吸をしずかに整えた。




 ブドウを収穫する時期がきた。


 ブドウ酒は腐らない飲料としての強い需要がある。

 もちろん生でも食える。

 保存は効かないが。

 酒の状態まで発酵させれば飲み物として常飲できる。


 厳密には腐らないわけではなく。

 酵母菌をガンガン増やして細菌界の覇者として君臨させるわけだが。

 発酵とはそういうものだ。

 味噌にせよ醤油にせよヨーグルトにせよ、あれらはみんな腐っている。


 山のあちこちにあるブドウ畑。

 そこから房をもぎ取り。

 極上品については生食用に個別包装し、その他は樽に入れて。

 仕込み。

 熟成させるか。

 もしくは。

 その場で街へと向けて出荷して、金を得ることになる。


 ブドウは金になる。


 課税方法は検地による広さごとの定額徴収制。

 便利な土地でも。

 不便な土地でも。

 同じように同じ額が一律で召し上げられる。


 ただし。

 ある程度規模の大きい農家の場合には、売上課税方式を採用することになる。

 そのほうが税率は低い。

 かわりに。

 取引明細のあれこれを帳簿として提出する必要があるため、零細農家はやらない。


 やらない。

 とゆーか。

 制度上できない。

 お上からしても小規模農家の脱税をいちいちチェックするなんて事実上不可能なので。

 お前らは田畑の広さに応じて金を払えと。

 かわりに守ってやると。

 そういうシステムになっている。


 ちなみに、農村の権力ランキングは大地主>小規模農家>小作人である。


 大地主はファビオのように巨大な土地を管理して大々的に運営している人。

 小規模農家は小さいながらも独立した個人企業。

 小作人は正社員もしくはアルバイトだ。


 小作人は一切徴税されない。

 せいぜいが人頭税。

 ぐらい。

 お上から税の重圧をまったく受けない一方、給料はただ同然なのでほとんど奴隷扱いだ。


 徴兵されるし賦役もあるし保護もされない。

 かわりに。

 税金も払わなくていい。

 露悪的に言えば馬やら牛やらを少し上等にした下等生命体。

 それが小作人である。


 小規模農家はピンキリ。

 兼業も専業もいる。

 大地主に雇われて小作人を兼ねているケースもあるし。

 自分の土地だけで完結している金持ちもどきもいるようだ。


 小作人がランクアップすると小規模農家になる。

 基準は納税額。

 彼らは一定額の税金を納めた段階で徴兵や賦役から解放され、犯罪から保護もされる。


 たとえば、雇用者から犯されたり殺されたりした場合。

 小作人であればそのまま泣き寝入りだが。

 小規模農家であれば官憲がやってきて、雇用者に罰を与えてくれるケースもあるようだ。


 大地主は言わずもがな。

 彼らは大量の田畑を持ち、制度的にも優遇を受けるその土地の支配者だ。

 ファビオなんかは100人以上の小作人を雇っている。

 小規模農家の部下は10人ほど。

 そのそれぞれに数十人の小作人がついていて、ピラミッド型の階層社会を形成しているというわけ。


 大地主は小作人から搾取して大々的にもうける。

 そのかわり。

 もうけの何割かは自動的にお上が奪っていく。


 小作人数百人がかりで作った大量の収穫物。

 それを召し上げて。

 商人に渡して。

 売上を計上して。

 そのうちの1~3割を国に納付すると。

 だいたいそんな感じか。

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