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第1話「叩いて砕け」

 うっそうとした山の中にある、一面の平地。


 それがロックフィードの村だ。


 右を向いても山。

 左を向いても山。

 村の真ん中には清流。

 平地部分には家やら田畑やらがびっしりと埋まっていて。

 果樹園はたわわに実がなっており、収穫も間近という感じである。


 見た感じ、開発の余裕はなさそうだが。

 上へ上へ。

 川の上流へ進むにつれて、あまり人の手が入っていない原野も散見されるようになった。


「盆地ですね」

「うん。一番おいしいところの開拓は終わってるんだけど、飛び飛びで開発できる場所もあるんだよね」


 斜面は田畑にしにくい。

 家も建てられない。

 不便だからだ。

 人が活用できるのは、あくまでも平坦な場所。

 それが人類の限界。

 ロックフィード村の水資源にはかなり余裕があり、開発できる原野も相当に多いそうだが。


 平坦な場所にある原野。

 だとしても。

 そのままでは利用できない。


 川の支流を整備して。

 森を切り開いて。

 地面を耕して水を引き込んではじめて、立派な田んぼになる。


 今はその過渡期。

 ロックフィードの村がロックフィードの街へと変わるための成長期。


 開発ラッシュに沸いているロックフィードの村は大変な賑わいであり。


 交易都市マッパライダーの食料需要や労働力需要をまかなう衛星都市として、今後ますますの発展が期待されているという話である。


「あ、なんか作業中ですね」

「うん。水路の拡張作業だね」


 村のあちこちで上半身裸の男衆が地面を掘っている。


 岩起こし。

 根起こし。

 草引き。

 道づくり。

 水路づくりなど。


 開拓の基礎を築くために、あれこれと動いているようだ。


「というと……私は明日から、あそこに混ざればいいのですね」

「いやいやいや。そんなことさせられないから」


 ファビオは心外そうに首を振った。


「あの仕事は地味で単調で工夫もいらないし、力を使うから相当な激務だよ。カエデちゃんは僕の直属なんだから、もっと身近なところから」

「そうなのですか?」

「うん。ほら、あの辺一帯が僕の担当なんだけど」


 一面の荒野。

 作物なし。

 道だけ。

 広々とした平野に水が流れており、農道も整備されている。


「これ、もう開拓は終わっているのでは?」

「そうだね」

「なにか仕事があるんですか?」

「いよいよこれから生産って感じなんだけど……小作人に土地を貸して指示とか出さなきゃなんだよ。その手伝いを色々してほしいっていうわけ」


 なるほど。

 作業員というよりは秘書みたいな扱いだな。


「だんな様……私は肉体労働のつもりで応募したのですが」

「僕もそのつもりだったけど。適材適所ってあるでしょ。カエデちゃんは教育水準も高いみたいだから、指揮役もしてもらわないと」


 ええー。

 管理職かあ。

 なんとも疲れそうな話である。


 とゆーか。

 それは15歳の小娘につとまるものなのかしら。


「えっと、肉体労働がなくはないのですよね?」

「うん。当面は僕の家に住んでもらって、その日の仕事をいちいち指示する感じかな。細々とした雑用をしてもらうから、よろしく」

「かしこまりました、だんな様」


 ということで。

 私はファビオの家に住み込みつつ働くことになった。




 開拓地の中心部。

 一軒家。

 400平米ぐらいの平屋が、ファビオの家らしい。


 初日は荷物を置いてあいさつ回り。

 次の日は地理の確認。

 3日目から小作人と個別に面談して、収穫予定やらの聞き取り調査。

 で、メモを起こして。

 通年の予定をこまごまと確認して。


 5日目あたりから少し手が空いたため、現場に出て労働の感じをつかもうということになった。


「カエデちゃん、無理はしなくていいからね?」

「だいじょうぶです」


 ハンマーを手にして職場に向かう。

 仕事は岩くだき。

 一番重労働だそうだ。

 地面を掘り進める過程で現れた巨大な岩を動かすために、小さく粉砕して運びやすいサイズにまで縮めるという話である。


 とりあえず、やってみた。


 ガン。


 ガン!

 ガン!

 ガン!


 おもしろいように割れる。


 ノリのいい作業員さんが多いようで、私が一発割るたびにヨイショを入れてくれる。

 暇人か。

 もちろん一日通して働き続けられるわけがないので、それはそれで退屈を紛らわすための常道なのかもしれないが。


「いよっ!」

「すげえぞ嬢ちゃん!」

「てーか美人だな! 気に入った! うちへ嫁に来い!」


 おまえら仕事しろ。

 でも。

 あれだな。

 楽しい。

 ほめられるのは嬉しい。


 ファビオの加護によって身を隠す必要のなくなった私は素顔をさらしている。

 そのため。

 物珍しさもあり。

 休憩の時には男衆がわらわらと寄って来て、口々にほめたたえた。


「嬢ちゃん、どっからきたの?」

「名前は?」

「彼氏いる?」

「次の休みはいつなの?」


 ……なんだか邪(よこしま)な目的の男が多いようだが。

 まあいいさ。

 ちやほやされるのには慣れている。

 適当にあしらって冗談や質問を交え、再び仕事に戻る。


 水路掘り。

 岩砕き。

 岩運びなど。


 最初はひたすらほめてもらえたのだが。

 続けているうちに。

 だんだんと心配声が混じるようになって、ついには止められるようになった。


「嬢ちゃん、働きすぎだ。少し休め」

「だいじょうぶです!」

「そのペースだともたねえ。水は飲んだか? 塩は? そもそも今日はもう終わりにして、雑用にまわるべきだぞ?」

「私は平気です! さあ、がんがんやりますよー!」


 いくらでも働ける。

 ちからが無限に湧いてくる。

 みんな優しいし。

 ちやほやと。

 ひたすら持ち上げて働かせてくれるので、やっていて気持ちがいい。


 そして、夕刻前。

 調子に乗って働き続けていた私に、何の前触れもなく。

 いきなり限界が来た。


 岩を粉砕して気を抜いて天を仰いだ瞬間に、忘れていた疲労が一気に押し寄せてきたのだ。


「……あれ?」


 天地がぐらついている。


 めまい。

 どうき。

 いきぎれ。


 どの症状がどうということはなかったが、異様なほど気持ち悪い。


 ……ううむ。

 きょうはこのへんにしとくかあ。


 早引けすることを作業監督に詫びてから家に戻り。

 食事をへろへろと取って。

 吐き気を感じたので、ベッドにもぐりこんですぐに寝た。

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