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第2話「逃げても無駄のようです」

 自販機にコインを投入してパック入り飲料を購入する。

 相変わらず音はない。

 機械の稼働音もなければ商品がぶつかる音もしない。

 しかし。

 とりあえず買うことはできた。

 ジュースやらお茶やらを5つほど購入し、うち一つにストローを刺して口に含んでみる。


 ……味がしない。


 普段は色鮮やかなパッケージに包まれている乳酸菌飲料に甘みがついていない。

 あるのは食感だけ。

 冷たくてややとろり。

 この商品に100円を出す価値は明らかにないと思う。

 そもそも栄養はあるのか。

 より根本的には、この世界において栄養は必要なのか。

 一切は不明である。


 まあいい。


 とりあえず水分のあてを得た私はそれを部活用のスポーツバッグに放り込み。

 続いて活動拠点を確保することに決めた。

 私は寮住まい。

 学校から3キロほど離れた場所にある山中の女子寮に住んでいる。

 一人一人に個室がある上に使用人なんかも暮らしているゴージャスな建造物だ。

 そこには私の部屋があり。

 私の私物も置いてある。


 寮に戻って何をするかだって?

 決まっているだろう。

 ねる。

 まずはぐっすりと眠るのだ。

 ベッドに体を横たえて眠りに落ちれば全ては解決する。

 これは夢だった。

 そういうオチを期待したいところである。

 

 現実逃避はよくないという声が聞こえてくるようだが。

 落ち着いて考えてくれ。

 そもそも。

 私に何ができる?

 この事態は明らかに一介の女子高生が対応できるレベルを超えているだろう。


 ビームも出せない。

 空も飛べない。

 瞬間移動も空中二段ジャンプもステッキ変身もできない私なのだ。

 こんな乏しい戦力で。

 この悪夢のような現実に立ち向かえるわけがない!


 もしも。

 仮にこの異常を解決できるなにがしかが校舎にあるのだとしても。

 それに向き合うべきなのは、きっと私ではない。


 そのはずだ。


 英雄願望のなかった私は早々に事態の解決を人にゆだねることにした。

 てくてくと。

 学校から女子寮までの慣れた道を歩く。

 人っ子一人いなかったが。

 それは想定通り。

 うちの学校は奥深い山の真ん中に建てられている。

 一般の住民はいない。

 見えている範囲の土地全部が理事会の所有だという話なので。

 人と会うわけがないのだ。


 私の見たところ、学校関係者については全員が消滅している。

 動物もいない。

 残ったのは物質だけだ。

 空気は吸えるので酸素はあるようだが。

 この異常事態が世界規模のものなのか学校周辺だけのものなのか。

 そんな基本的なことでさえ、私にはわかっていない。


 なので。

 とりあえず。

 私は今後の予定を、様子見のために費やすことにした。


 様子見。

 それはつまり、時間を稼ぐこと。

 誰かの助けを待つこと。

 まずは寮に帰り。

 布団に入って眠る。


 そして祈りをささげる。

 どうか世界が普通でありますように、とか。

 おおむね、そんな感じで。


 もしも目が覚めた時に世界が異常なままなら、さすがに諦めて活動的な服に着替えて校舎の探検をしよう。

 うん。

 そうしよう。

 私はそのように決めた。




 …………予定というのは基本的には乱れるものである。




 てくてくと道を歩く。

 女子寮までの道中。

 世界から色が消えて、およそ一時間。


 私の脳内に、突如として次のようなメッセージが響いて来た。




『1時間が経過しました。キャラクターメイキングを終了します。強制転移を発動……失敗。キャラクターメイキングが開始されていません。チュートリアルステージへと強制転移します』




 舗装された道のただ中に突如として大穴が空いた。

 一瞬の浮遊感。

 私は落下していた。

 迫りくる衝撃に備えて身を固めることしばし。

 ポヨヨン、とマシュマロのような地面に弾き飛ばされて。

 私はごろごろと転がった。


 世界に色が戻った。


 薄暗い洞窟の中で無数の光源がゆらゆらと揺らめいている。

 釣鐘状の花弁を持った無数の植物の群れ。

 その花の内部が光の粒子を放ちながら風になびいて怪しく明滅していた。

 ライトグリーンの輝き。

 幻想的な光だ。

 どうやら傍観者でいることは許されないらしく、強い風が洞窟の奥へ奥へと向けて私の背中を押している。


 ああ。

 わかった。

 わかったよ。


 逃げることを諦めた私はこの事態を解決するために、先へと進むことにした。

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