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第8話「村に向かって、レッツゴー!」

 再会したファビオはぱりっとした服装に身を包んでいた。

 ジャケットとシャツとズボン。

 新品同然。

 縫製もしっかりしていて形も整っており、ちゃんとかっこいい。


 髪はさっぱり。

 肌はつやつや。

 瞳はきらきら。

 どこに出しても恥ずかしくない好青年という仕上がりだ。

 ううむ。

 あの貧民ルックはなんだったのかと思うほどの変身ぶりである。

 

 思わず胸がきゅんきゅんとなってしまうが。

 期待しすぎるのはよくないな。

 初日に告白とか。

 まずない。

 村にはライバルの女の子もいるだろうし、競争率が高そうな物件という感じである。


「待たせちゃったかな?」

「いえ。今来たところですから」


 あいさつもそこそこに。

 食事を注文し。

 これからの予定を詰める。


 買い物その他の用事を済ませたというファビオ。

 今日はこの街で一泊し。

 明日の朝一で村から農作物を運んできた馬車に乗り、そのまま帰るそうだ。


「えっと……私も乗れるのでしょうか? それとも徒歩で?」

「いやいや。なんでそんなに鬼畜設定なの。村までかなり遠いよ?」

「足には自信が」

「歩かなくてもいいから」


 どうやら馬車に乗せてもらえるらしい。

 ラッキー。

 別に歩くのが嫌いというわけでもないが、ゴロゴロできるのはありがたい。


「そういえば」

「なに?」

「これ、お返しします。金貨袋。身の回りの買い物はすませました」

「うーん」


 ファビオは悩まし気に眉を寄せた。


「それ、あげたつもりなんだけど。給料の前払いもかねて」

「働いてもいないうちから給金をいただけません」

「まじめだねえ」

「普通です」

「まあ、そういうことなら……あれ? 銅貨が多いのかな。ほとんど減っていないけど……」

「がんばって増やしました」

「なんで増えてるの……」

「転売で」

「す、すごいね」


 引いたように金貨袋を見つめるファビオ。

 いやまあ。

 元手があってのことだし。

 妖精さん倉庫の中に少しだけプールしているわけだから、実態は横領者である。


 ううう。

 良心が痛む。

 悪い子になってしまった。

 ばれなければよかろう。

 職業犯罪者のように内心でふぁふぁふぁと笑いながら、私は食事を取りつつ雑談と給仕でファビオの機嫌を取る。


 程よく酔っぱらったファビオ。


 宿まで一緒。

 部屋は別。

 ……よかった。

 ここで性接待を命じられていれば、いくら好みのイケメンであっても逃げていたのは間違いない。


 部屋に入る。

 寝る。

 起きる。


 で、翌日。


 私たちは馬車に乗り、朝一番でロックフィードの村へと旅立った。




 ガタゴト。

 ガタゴト。

 街道で馬車が揺れている。


 ロックフィード村御用達の馬車は簡易な二頭立て。

 幌なし。

 屋根なし。

 オープンカー。

 馬と荷台とを棒で繋いだだけ、という単純なものである。


 スプリングやらクッションなどといった小賢しい小道具はついていない。

 ので。

 すごく揺れる。

 おしり痛い。

 雨が降ったらずぶぬれになってしまうため、豪雨なら野宿することもあるそうだ。


「カエデちゃんのカバンって……」

「これですか?」


 道具箱の入ったスポーツバッグをひょいとかかげてみる。


「うん。変わった形状だよね。どうやって開け閉めするの?」

「ファスナーです」

「ファスナー?」

「はい。線ファスナー。ここをこうやって……ひっぱると、開閉ができます」

「おお!?」

「紐でくくるよりも少しだけ便利かもしれません」

「いや、これ、すごいね……なにここ、金属なの。どうやって冶金したの。ちょっと見たことないレベルの繊細な仕事なんだけど」

「さあ……もらいものなので。出どころまでは、ちょっと」


 ファスナーはこの世界の技術レベルで作れるものなのだろうか。

 できるかもな。

 プラスチックでも作成可能なわけだし。

 歯を思い切り荒くしておけば、少なくとも似たものはつくれるはず。


「これ、いくらぐらいするの?」

「不明です。もらいものなので」

「誰にもらったの?」

「昔に通っていた学校指定の業者からです」

「え、カエデちゃん、学生だったの?」

「はい。言いませんでしたか?」

「東のほうの国から戦火に追われて逃げてきた……って聞いたけど」

「はい。その通りです。大変でした」


 ちなみに私は、大陸の東のほうにあるニホンという国の平和京村という隠れ里。

 そこ出身という設定になっている。

 船で最短数か月。

 戦争あり。

 治安も最悪と言うことなので。

 仮に調べようとしても事実上不可能であるらしく、よほど変なことを言わなければ問題ない。


「カエデちゃんは国に帰る気はないの?」

「ありません。もうないので」

「お家再興とか」

「下っ端だったので、現実的ではないかと」

「家族とかいなかったの?」

「親族は死にました。同窓の友達は……一緒に逃げてきたのですが、はぐれてしまって。その服と同じものを着ている人を見かけたら、ぜひともお知らせいただけると嬉しいです」


 私はスポーツバッグにしまわれたセーラー服を指さした。

 平和京高校の制服。

 かわいい。

 人気がある。

 かなり有名なデザイナーが手掛けていたらしく、この服を着るために平和京高校を目指す人もいるらしい。


 まあ。

 それは。

 さすがに冗談かもしれないが。


「へー。これってすごくいい素材だよね。珍しいし。バッグもすごいし。カエデちゃんって故郷では貴族とかだったの?」

「いえ、単なる商家です」

「扱ってる商品は?」

「情報機材全般……あーっと、郵便の統括のようなことを」

「情報? 郵便? それって諜報員ってやつ?」

「え、ええっと」

「坊ちゃん、坊ちゃん」


 発言に窮した私に御者さんが助け舟を出した。


「あんまり根掘り葉掘り聞くもんじゃねーぜ。難民まで落ちてるやつには普通事情があるもんだ。説明するだけでかなり苦痛だろうから、ほどほどにしとくべきだ」

「あ、そりゃそうか……ごめん。気づかなかった」

「いえ。気づかいありがとうございます」

「おーう」


 鷹揚に手を振る御者さん。

 いい男だ。

 別に企業秘密で押し通せなくもないが。

 やはり嘘を考えるのは疲れるため、そもそも一切聞かれないほうがありがたい。


「……」

「……」


 ガタゴト。

 ガタゴト。


 沈黙が続く旅路。

 困ったな。

 詮索はされたくないが。

 質問や世間話はして欲しいのが、微妙な乙女心というものである。


「あ」

「どしたの?」


 怪訝そうな顔をする村長次男のファビオ。

 妖精さんマップだとアラートが鳴っているので明らかだが。

 肉眼だとちょっと見づらいか。

 道の先。

 ここから300メートルぐらいのポイントで、魔物が居座っている。


「いえ……野良モンスターのようです」

「ええっ!? どこどこ?」

「前方280メートル……ぐらいの距離ですね。そろそろ見えてきます」

「ああっ! 本当だ!」


 驚いているファビオ。

 うむ。

 やはりかっこいい。

 私はこの手の素直な反応をするイケメンがドストライクである。


 イケイケの俺様とか見栄っ張り男とか。

 全然好みじゃない。

 素のまま。

 ほぼ飾らない素材のままのような男の人が好きだ。

 一緒にいると落ち着くし。

 特に何もしなくても、そばにいてくれるだけで安心できる気がする。


「て、停車! 停車して!」

「あいよー」


 御者さんが馬にストップをかけた。

 止まる馬車。

 さて。

 これからどうなることやら。

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