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第7話「買い物が楽しかったです」

 夏である。

 夏野菜と果物なのである。

 安くてうまい食材というのは季節ごとにこれと決まっていて。

 前世のように年中何でも手に入るということはない。


 まずはベリー類。

 あらゆる野菜と果物のなかでもポリフェノールで最強かつ最安値。

 続いてモモ。

 ブドウ。

 スイカ、メロン、マンゴー。


 野菜はトマト。高原キャベツ。ナス。キュウリ。オクラ。唐辛子。

 ついでに魚介。

 肉類など。

 腐らないのをいいことにぽいぽいと放り込んでいく。


 あと、欲しいのは発酵食品か。

 レンネットは妖精さんが簡単に見つけてくれた。

 味噌や醤油、ソース、鰹節、アンチョビ、漬物なんかも普通にあるようだ。

 ううむ。

 こうなると、村長次男のファビオに相談したかったな。

 村で手に入るものなら買わなくてもいいわけだし。


 とりあえず、大量の塩と味噌。

 水。

 分厚いマント。

 あとは炭水化物さえあれば、村を放り出されても生きていける。

 

『妖精さん……この世界の主食は?』

『こめー』

『むぎー、いもー』


 前世と変わらないな。


 基本的にはたんぱく質や脂質ばかり食べていると寿命が縮んでしまう。

 炭水化物は自然には採取できない。

 買わなければ。

 コメや小麦は通貨代わりに使われることもあるほど保存が効く、重要極まりない物資だ。

 できれば1俵。

 仮に3俵(180キロ)もあれば、1年ぐらいは余裕で生存できる。


 それと鍋とがあれば。

 欲を言えば家。

 安定した働き口やら社会的身分など、入手すべきものは多い。


『ちょっと……使いすぎたかな』

『きんか20まいはー』

『ちょっとじゃないよー』


 妖精さんから厳しいつっこみが入る。

 ううむ。

 買い物が楽しすぎていろいろと買いすぎてしまった。


 無駄遣いはしなかったつもりだが。

 妖精さん倉庫が便利すぎるのが悪いのだ。

 いやしかし。

 どうしよう。

 預かった金を初日から金貨20枚(20万円)も溶かすとか。

 いくら自由に使っていいと言われていたとしても、体裁が悪い気がする。


『妖精さん……魔法でお金を増やせたりしないかな?』

『むりー』

『ないそではふれぬー』


 容赦なく現実を告げる妖精さん。


『でもー』

『ひとからうばうのはー、ありかもー』

『……奪う? それは強盗とかそういうのか?』


 それはちょっと。

 なんというか。

 いくら難民の身の上でも、良心の呵責を感じるのでやりたくない。


『そうじゃなくてー』

『ごうほうてきにー、しょうばいでー』

『商売? できるのか?』

『うんー』

『たぶんー』


 というわけで、やってみることにした。




 結果。

 なんとかなってしまった。


 妖精さんサーチ。

 これをカモサーチと名付けよう。

 カモサーチの力で周囲一帯を探せばあら不思議。

 このあたりいる商人の群れの中で、これから損をする人間が表示されるらしい。


『すごいな』

『でしょー』

『もっとほめてー』


 どういうわけか男限定の能力であるらしく、女の行商人には反応できないようだが。


『それはねー』

『どうせいあいしゃって、あんまりいないからー』

『なるほど』


 何がなるほどなのか。

 自分でもよくわからないが。

 ともかく。


 市場で掘り出し物を見つけて店主と交渉すると、おもしろいように安値で買えてしまう。


 骨董品。

 芸術品。

 宝石の原石。

 奇貨。

 化石。

 錬金術素材。

 収集家向けの希少品など。


 本来の価値を知らないおろかな商人さんが捨て値で手放してくれた。


『おもいー』

『かいすぎー』


 スポーツバッグいっぱいに詰まった貴重品各種。

 じゃま。

 売らなければ。

 私はマップに表示されている古物商を渡り歩き、売却交渉を進めた。


「だめだめ。そんな値じゃ買えないよ」

「でも、これは本来なら金貨30枚ぐらいはする品のはず。金貨5枚での買取なら破格なのでは?」

「つーても、わけありだろ? 買えねーって」

「わけありじゃないです。そこらの店で売ってました」

「ふーん」

「無理ならカロンさんの店で売りますが」

「……わーったよ。それでいい」

「あとですね。この彫像なんですけど」

「まだあるのか」


 10ほどの店を回り、少しずつ売りさばいていく。

 買い叩かれそうになると妖精さんが助けてくれるため。

 あまりトラブルが起きない。

 らくだな。

 適正価格がわかっていると交渉がスムーズだ。


 しょせんは商人としての許可証さえない身の上。

 適正価格の2、3割で売れればラッキーと言う冴えない商売だったが。


 買いあさり。

 転売を繰り返すこと数時間。

 気が付けば手元には100枚ほどの金貨が集っていた。


『おおう……なんとゆーか、これだけで生活できそうだな』

『やりすぎるとー』

『めだつよー』


 妖精さんから冷静なコメントが入る。

 そりゃそうか。

 これだけ大きな広場であっても、掘り出し物の数は買うたびに減っていったし。


 たまならともかく。

 続けられる商売ではないな。

 どうしてもやりたいなら、街から街を渡り歩く行商人にでもなるしかない。


 このへんにしておくか。


 金が余ったのでコーヒーや紅茶やカカオなどを買いあさり、ついでに香辛料などもいろいろと揃えてみる。

 うむうむ。

 いい感じだ。


 おお。

 寒天とかもあるな。

 すばらしい。

 買い占めよう。


 憧れの米俵も買おう。


 砂糖と小麦粉か……何キロか欲しいな。

 体に悪いが。

 甘いものは別腹ということだし。

 バターはキロで。

 生クリームも劣化しないならリットルで買えるよな。


 ついでにアウトドア用品として、大型リュック、スコップ、ズタ袋、火種、浄水フィルター、紙束、ボロ布、毛布、マント、糸束、ロープ、釘、ネジ、トンカチ、大鍋など。

 一通りそろえてみる。


 うむ。

 これでばっちりだ。

 仮に冬までに雇用者から捨てられたとしても。


 もはや今の私は、野山で春を待つ準備さえできている!


 ……やりたくねー。


 ふと正気に戻る。

 色々買ってしまったが。

 いかんいかん。

 無駄遣いをしすぎである。

 金があるというのは恐ろしいことだ。

 トラブルなく日々が過ぎれば必要ないものだというのに。

 ついうっかり。


『ますたーは?』

『かいものいぞんしょう?』


 妖精さんさえも呆れているらしい。

 ううう。

 そんな目で見ないでくれ。

 ちょっと前までの私は難民だったのだ。

 その時のつらい記憶が私をさいなむのである。


 赤面しつつ市場を歩く私。

 夕暮れだ。

 空が地平線までのグラデーションで緋色に染まっている。

 おお。

 なんと感動的な。

 私は買い物の満足感で幸せになりながら、待ち合わせの場所へと向かった。

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