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第5話「顔採用」

 目的地にいた面接官はボロかった。

 服はすりきれ。

 靴もボロボロ。

 ちょっとにおう。

 一人で椅子に座ってぼーっとしているだけで、呼び込みさえしていない。


 いちおう。

 ロックフィード村の開拓作業員募集中、と看板が立てられているが。

 これではな。

 誰も寄り付かないだろう。

 見た感じからして貧乏そうで、激務に放り込まれそうな気配がぷんぷんする。


『めんせつー』

『がんばってー』


 妖精さんがエールを送っている。

 うん。

 がんばるぞ。


 ひとまずは目を閉じて、静かに深呼吸をする。


 まずは基本から。

 奴隷根性をアピール。

 誠実で優秀で体力がある、そんな感じの自己紹介をして。

 できるだけ質問をしまくると。

 たしかそれでいいはず。


 メモ帳はある。

 ペンもある。

 服は……どうしようもないな。

 買う金もないし。

 しわを伸ばしてサイズをきつめにするぐらいか。

 朝起きて顔を拭いて埃を落としたら、もう他にやりようはない。


 道具箱には化粧道具一式は入っていなかった。

 すっぴん。

 素肌。

 女子高生だからこれで問題ないはず。

 そもそも化粧文化なんてのは国や時代によって違う。

 まともに考えても仕方がない。


 目の前に立つ。

 フードを取って顔をさらす。

 まずは美少女アピールからだ。


 次は用件を明確にして、不審にならないようにはっきりと。


「あの……求職に来たのですけれど」

「はい。採用」


 ……

 ……

 ……………………




 面接は数秒で終わった。

 ええー。

 さっきまでの回想はいったいなんだったの?


「じゃ、細かい条件など話し合おうか。どこかの店に行こう」

「はい。わかりました」


 うむ。

 そんなわけないよな。

 この世界には解雇制限なんてものもないわけだし。

 自己アピールはこれからか。


 私たちは適当な喫茶店に入り、差し向かいで面談した。




「助かったよ。実は誰も応募してくれなくて、すごく困っていたんだ」


 はにかむように微笑んでいる面接官。

 第一印象は。

 超汚い。


 服はぼろぼろ。

 髪はぼさぼさ。

 靴はずたずた。

 なるほど たしかにこの格好なら、普通の求職者は貧乏そうすぎて二の足を踏むかもしれない。


 が。


 金持ちレベルと服装。

 この2つには実のところ、まったく相関関係がない。

 あるのは労働者までである。

 雇用者は人の目を気にする必要など一切ないため、ぼろを着込んでも平然としていることが多い。


 銀行員などがよく、普通の恰好をしている人が大金を動かしていることに驚くなどというが。

 それは当たり前だ。

 自分をよく見せる必要のある労働者。

 自分をかざる必要のない雇用者。

 この二者は違う生き物なのである。

 もう。

 行動の発想からして180度違う。

 外見で人を判断できると思っているのは、最低限のブランド品さえ揃えられるかが怪しいような貧乏人だけだ。


 ……ただ。

 まあ。

 いかに金持ちの父であっても。

 ビジネスの場面でこの服はありえなかったが。


 農家で。

 次男で。

 ボンボンであらせられるそうだし。


 無敵の人なのだろう。

 そのように思うことにした。


 私の名はカエデ。

 男の名はファビオ。


 とりあえず自己紹介をして偽造した経歴を話し、続いて志望動機へと移る。


「えっと、就農希望なんだよね」

「はい」

「それは将来的には……土地を持って自分で耕したいとか?」

「はい。いいえ。私はとりあえず、今日明日の食い扶持を探すために求職しています」

「……貧乏なの」

「はい。恥ずかしながら」

「それならもっと割のいい仕事があると思うけれど?」

「いいえ。ここより条件のいい職場は他にはない。そのように判断しました」

「へえ」


 すっ、と男の目が細くなり、私を値踏みするようにじろりと見た。


「参考までに、どこが気に入ったのか聞かせてもらえる?」


 うっ。

 地雷を踏んだか。

 いやしかし。

 ここで大嘘をついてアピールするのが面接だと父は言っていた!


「はい! ずばり、顔です!」

「か、かお?」


 ファビオはぽかんとした。


「はい! 私はファビオさんみたいにかっこいい人を見たことがありません! ここでなら多少ひどい扱いを受けてもがまんできる! がんばれる! そのように確信したから応募いたしました!」


 白河楓は難民だ。

 難民なのだ。

 生きるためには人の靴だって舐める。

 そうすべき下賤の者。

 やるさ。

 やってやる。

 前世お嬢様だった私はもういない!


 私はジャジャーンと心理的効果音を鳴らし、必死で自分を鼓舞した。


「私にできることなら、なんでもします!」


 断言する私。

 それは大嘘だが。

 顔については大嘘と言うわけでもない。

 ファビオはティッキーと比べても十分かっこいい、雰囲気が柔らかいタイプのイケメンだ。


 太っていないし。

 筋肉はしなやかでたくましい。

 指はごつごつ。

 髪はぼさぼさ。

 たいへん粗野っぽい服装にもかかわらず、瞳は優しげでとても穏やかだ。


 好みの顔である。

 だから。

 多少ファッションがぐちゃぐちゃのボロボロでも……ゆる、せ…………は、しないけど!


 耐える。

 耐えてみせる。

 がんばれ私。


「就農経験はありませんが……体力には自信があり、狩りなども得意です。開拓の雑用ということなら問題なくこなせると思います。知らないことについては、教えていただければ何でもします」

「何でも?」

「はい。何でもです」

「それは例えば、きつい仕事とかでも?」

「はい。必ず達成してみせます。できなくても、すぐにできるようになります」

「わかった」


 だったら性接待もできるよね、などと圧迫面接をはじめることもなく。

 ファビオは大きく一つうなずいた。


「まあ、他に人もいないし、もともとほぼ採用は決まってたんだけど……改めて正式に採用します。なんてゆーか、君、よさげな人材すぎてちょっと不気味なぐらいだよね」

「おそれいります」

「これは純粋な好奇心からなんだけど、その顔なら、それこそ養ってくれる人とかたくさんいたのでは? 仕事とかしなくても」


 答えにくいことを聞いてくれる。

 いたが。

 今はいなくなったのだ


「……意外に思われるかもしれませんが、外見がいいとかえって生きにくい、ということがあるのです。目立ちすぎることはメリットではありません」

「へええ」

「私が就農を希望するのは、あまり多くの人と関わらずに済みそうだというのも一つの理由になります。接客業には向かない顔なので」

「逆じゃないの?」

「いいえ。私の長所は体力です。体力を生かして働けるならそれに越したことはありません」

「そんなもんかもねえ」


 そんなもんなのである。

 私は小学校時代にはものすごくモテたのだが。

 嫌な思いもさんざんした。

 人気があることが美点であるとは限らない。


 そういう意味において、前世の男子クラスメート達は突き抜けて優しかった。

 なにせ無関心なのだから。

 いないもの。

 路傍の石。

 私はそのように扱われた。


 優しさ、というと、全然違うのかもしれない。

 無視されるのはつらい。

 モテすぎるとうっとうしいが。

 ほどほどに付かず離れず、友達感覚でいつまでもちやほやして欲しい……というのが私の正直な感想だ。


 カレンちゃんにそう言ったところ。

 スイーツ脳がすぎると説教されてしまった。

 懐かしいな。

 また会いたい。

 もしもこの世界にいるのなら、もう一度彼女たちと出会って話をしたいけれど。


「ま、それはいいとして」

「はい」

「何か質問とかあるかな?」


 村までの距離。

 移動手段。

 どの程度の重量を運搬できるのか。

 持っていくべきものは何か。

 作物は。

 直近の仕事は。

 直属の上司は誰かなど。


 思いつく限りのことを聞いた。

 もちろん事務的なことにしぼって。

 ここでファビオの彼女とかを聞いても好感度は上がらないだろう。

 まずは最低限。

 信用を得なければならない。


「質問は以上かな?」

「はい。今のところは」


 まだまだあるが。

 程度というものがある。

 重要度が低いものについては後回しにするべきだろう。


「オッケー。じゃあ、さっそく移動しようか」

「馬車ですか」

「その前に買い物かな。お小遣いあげるから、身の回りのものをそれで整えておいでよ」


 ずしり。

 と。

 やたらめったら手ごたえのある革袋を手渡された。


『きんかぶくろだー』

『ぎんかもあるよー』


 妖精さんがささやく。

 えええ。

 何キロかあるんですけど。

 これ、もしかしてみんなお金なの?


「あ、あの。一緒に買い物をしていただけるのでは?」

「面倒だからパス……それに、僕は僕で用事があるんだよね」

「こんな大金を」

「持ち逃げされても困らないから気にしないで。できたら帰って来てほしいけどね」


 金持ちだ。

 しかも金にがめつくないタイプのブルジョア様である。


「時間はどれほどいただけるので?」

「うーん。じゃあ夕食もこの店で食べようか。日が暮れるころにここで」

「わかりました」

「他になにかあるかな?」

「その……農業用のアドバイスなど、あれば」

「長袖長ズボン。丈夫な服。広いつばの帽子……麦わらがベストかな。厚底の靴と、靴下は……消耗品だから複数用意。日焼け止めとかは知らない。農具とかはこちらで用意する」

「どの店がいいですかね?」

「知らないよ。僕もこの街にははじめて来たんだから。自分の才覚でなんとかして」

「わ、わかりました」


 そういうことになった。

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