第2話「地雷」
目的地に着いた難民キャンプでは、身元の引き取り人が集められていた。
難民といえども人的資源である。
労働力としての子供を得るためには最低でも10年以上の年月がいるのに対し、難民なら数日で済む。
鉱夫にしろ。
農夫にしろ。
使い走りをさせるにしろ。
赤ん坊から育てるよりも圧倒的に楽なのだ。
労働力として求められている難民たち。
なかでも。
需要があるのは男。
人気があるのも男。
気の向くままに使い倒して壊れにくいのはあくまでも男であって、女子供や老人や傷病人はほとんど誰からも相手にされていない。
『男女差別だ』
『ほんらいのいみでのー』
『さべつだねー』
妖精さんが社会的なコメントを発している。
そのとおり。
女という生き物は家事をして子供を産んで育てる機械なのである。
人ではなく腹なのである。
歴史上ずっとそう。
女性の権利なんて言われだしたのはごく少ない期間の例外なのであって。
それですら建前だけ。
富や権力の9割以上は元の世界でもなお男の掌中にあった。
とてつもなく嫌な話だ。
逆差別が流行っているとか女性優遇が過ぎるとか。
そんな愚痴をこぼす男もたまにいるが。
ふざけている。
なんだその冗談は。
女が受けている圧倒的で絶対的な差別に比べれば、痴漢冤罪やらDV冤罪やら親権制度やらなんてのは無視してもかまわないほどの小さな差異に過ぎない。
『もしかして、私は売れ残るのか?』
『うーん』
『せいさんぎょうならー』
妖精さんがセクハラ発言をかました。
おおう。
ファンタジーは死んだのか。
『それは嫌だ。普通に働きたい。酒場でウェイトレスとかどうだろう?』
『あれはげきむー』
『きゅうりょうはいいけどー。こねいるしー。まくらもあるよー』
夢も希望もない!
『やはり顔を出して求職すべきではないか?』
『あぶないよー』
『ますたー、にんきもの。そうだつせん。ししゃでるよー』
そこまで自分に魅力があるとは思えないのだが。
『妖精さんのおすすめは?』
『あしたー』
『あさってー』
意見が分かれてしまった。
ともあれ。
今日ではないらしい。
私は買い食いして一泊してから、再び求職を開始した。
妖精さんマップを表示する。
就職斡旋用に設営された難民キャンプの全景が見て取れる。
立て看板。
呼び込み。
チラシ配りなど。
何百人もの雇用者がごった煮になっている中で、全体像がある程度理解できるというのはありがたい。
キャンプではある程度の住み分けがされている。
北部は大口雇用者向け。
東部は個人。
西部は特殊技術。
南部はボランティア。
さて。
どこに行くべきだろうか。
軽く自己分析をする。
私にあるのは若さと美貌と肉体だけ。
特殊技術はない。
つとまるのは単純労働。
あるいは接客業。
この2つは誰でもできる競争相手の多い仕事なため、やはり割はよくない。
ざっと地図を見る。
赤だらけ。
危険な働き口がたくさん。
ぱっと見では危険だとわからないような仕事にまで、真っ赤なデンジャーマークがついている。
『この植林ボランティアという仕事は……危険なのか?』
『まっかなうそー』
『せいどれいちょっこー』
『そ、そうなのか。繊維関係の働き口なら安定してそうだが』
『たこべやろうどうで、かんきん、がいしゅつふか』
『こころがしんじゃうよー』
『こ、鉱夫の労働時間は4時間程度だから』
『それはほんとーだけどー』
『あのやま、どくとまものだらけー。3ねんはたらけばとっぷまでしゅっせできる、すぴーどしょうしんのしょくばー』
ああ。
そんなブラックジョークもあったな。
ようするに。
向こう3年で従業員がのきなみ死ぬか逃げ出すほど、ひどい職場なわけだ。
……誰が行くか!
『むしろ傭兵稼業の危険度が低いようだが……』
『あそこはねー』
『つよければ、ゆるされるとこ、あるからー』
『なるほど』
最終手段としては選択肢に入れておこう。
ともあれ。
やはり難民が条件のいい職場を求めるというのは無理難題のようだ。
居並ぶ求人の群れ。
ほぼ全部がレッド表示。
この場合の危険度レッドとは、就業1年以内での破滅がほぼ確定していることを意味している、らしい。
破滅。
つまりは、体をこわすか。
心をこわすか。
病気になるか。
自由を失うか。
単純に死んでしまうか。
一番いいケースでもうまく逃げられるというだけで。
最初から就職しないほうがまし。
ここにあるのはそんな求人ばかりのようである。
まったく。
人をなんだと思っているのだろうか。
ああ。
奴隷か。
奴隷だな。
聞くまでもないことすぎて、反論する気力さえ湧いてこない。
さて。
愚痴はここまでにしよう。
ひどい求人ばかりだったとはいえ、世の中には条件のいい職場もある。
妖精さんのおすすめ。
それは農家。
山間地における開拓事業らしい。
田畑の開拓にかかわる一切合切の手伝いをしてほしいと。
そのような求人のようだ。
農家。
……農家かあ。
うーん。
実のところ、並み居る仕事の中でもとびきりにブラックだと思うのだが。
『これ、大丈夫なのか?』
『うん』
『だいじょぶー』
『激務に疲れ果てて、倒れてしまうのでは?』
『ぜんぜんだいじょうぶー』
『そこ、かねもち。そんちょうのじなんでぼんぼん。ひとがらおおらかでさいさんどがいしー』
……なるほど。
農家といえども富農から貧農までピンキリだ。
金持ちで。
稼ぐ気がなくて。
しかもローカルに作用する権力がありかつ、性格も穏やかだと。
うむ。
持たざる難民女に期待できる最高の物件だな。
『ここにしようと思う……いいか?』
『うん』
『おすすめー』
私は意気揚々と新生活をスタートした……と、いきたかったのだが。
あ。
そうだ。
落ちた時のことも考えないと。
雇用者と求職者。
立場が強いのは言うまでもなく前者である。
狙いの職場に入る。
これはけっこう難しい。
ホワイト企業に入るためにはブラックでもやっていける能力が必要なのだ。
うーむ。
前世では求職経験が一切なかった私だ。
バイトさえしたことがない。
まずは面接か。
それ用の頭に切り替えて、対策を練らなければ。
困った。
ちゃんと受かるだろうか。
そういえば、父が採用者の目線で基準を話していたことがあったような。
中学入試の時だ。
面接の練習がてら、父と一緒にイメトレ用のビデオを見た気がする。
それを思い出してみよう。




