第1話「異世界ぶりの再会」
そろそろ、気づくべきだったのかもしれないが。
私は気づかなかった。
世界は気づいていた。
いい加減。
危険視されたのだ。
付き合った貴族関係者を何人も殺した女。
いかに子爵級貴族当主であっても。
偶然でも。
何の悪意もなくても。
ここまでやった女を生かしておくほどには、この世界の懐は深くない。
それは突然やってきた。
予告もなく。
予兆もなく。
ある日、突然。
妖精さんの地図機能が消滅し。
それと。
時を同じくして。
数名の男たちが乗馬を楽しんでいた私を取り囲み、あっという間にタコ殴りにして袋詰めに連れ去ってしまった。
誘拐。
監禁。
なにがなにやら。
私にとってただ一つ救いがあったとすれば、その最後を突きつけたのが顔見知りだったということだろう。
魔力ショックから抜け出して、意識を取り戻し。
薄暗い牢獄の中。
ひとり。
ぼーぜんとしていると。
つかつかと、足音がして、そして。
顔見知りが現れた。
かおみしり。
この世界の、ではなく。
前世の。
私は地下牢の一室で。
かつて同じクラスで席を並べて学んだ高宮蓮と、そして。
同じく親友と言っていい関係だった、香山美咲の転生体と対面することになった。
「こんにちは。カエデちゃん。はじめまして……じゃないよね。久しぶりだ。向こうの世界でも、この世界でも」
「あなたたちは?」
「私は香山美咲。こっちは高宮蓮。妖精王女とウォーレン侯爵、と言った方がカエデちゃんにはわかりやすいのかな?」
な。
なんだそれは。
意味が分からないぞ。
私は目の前の2人を見る。
面影は、ない。
まるで知らない人だ。
赤眼で金髪の、精悍な顔をした紅眼族の若者と。
同じく。
金髪碧眼でライトグリーンのドレスに身を包んだ、てのひらサイズの妖精少女がそこにいる。
「で、こいつが?」
「うん。カエデ。白河楓。能力は男運2、さげまん2、えろもん」
妖精少女はひらひらと部屋を舞い、金色の鱗粉をまき散らしながらウォーレン侯爵の肩へと降り立った。
「ステータスは……レベル16。体力・魔力・知力が112。財力が134。権力が164。魅力だけ突出してて214」
妖精の声が聞こえる。
たしか。
どこかで。
戦争が終わったあたりでウォーレン侯爵からの手紙を受け取った時に、この声を聞いたような?
「ふうん。魅力200オーバーか……たしかにかわいいけど、それでも傾国の美女ってほどじゃないぞ?」
「それは私が守ってるからだよ」
「うん?」
「100%えろもんであれば、もう君とか正気をなくしちゃっているはず。たしかにマスターは普通の男よりは特別欲望に耐えられるタイプだけど……魅力200えろもんはそーゆーの関係ないから。渇きに水を求めるような生理的欲求として、男のことを引き付ける」
「へー」
じろじろ、と私の体をなめつけるウォーレン侯爵。
なんだろう。
かつて味わったことのないような、情欲をまるでともなわない観察するような視線だ。
こわい。
「まあ、もともとえろもんは格上の相手には効きにくいんだけどね。子爵級の当主がろーらくできるのは同じく子爵まで。伯爵だと効果半減。君相手にはほぼ無効」
「ふーん……だよなあ。たいしてかわいくないぞ、こいつ。いや、かわいいけど、なんてゆーか……普通の美人?」
「そんな感じ」
妖精少女はウォーレンの頭に乗り、金髪を操縦桿のようにぐいぐいと引っ張って遊んでいる。
「でもこいつ、子爵家の当主にまで成り上がったんだろ? どーやったんだ? 強いの?」
「強い。この子の場合、むしろ特筆すべきは素の魔力の高さだよね。たぶんクラス40名でベスト5には入ってるし……もともと健康で体力もある。カエデちゃんが戦闘力寄りのスキル構成にしてたら勇者級の働きができたかも」
「……素の魔力の高さ?」
「えーっと、うちのクラスの転生者は世界最強の戦士を200として、1から100までの間でランダムに魔力量が決まるんだよ。だから魔力資質90以上……世界最強の5割弱ぐらいの魔力持ちも期待値で4人はいるわけね。カエデちゃんはその一人。1年A組以外だと判定が2回あって魔力資質25ぐらいが普通。理論最高値は100きっかり」
「ってことは、魔力ステータス200で魔力資質100のやつだと……」
「実質世界最強の戦士として転生できる。あとは勇者とか。あれは変動系ステータス300の変態になる。しかも死なないし、魔力耐性も300で固定。コンティニュー無制限。レベル上げもらくらく」
「まじかよ」
世界最強か、などとウォーレン侯爵はつぶやいた。
「まあでも……この時期ならもう勇者に大した力は残ってないよ。あれは毎年ステータスが60ずつ減るから。変動ステータス120って程度なら大して怖くないし」
「はあ? そいつ今までなにしてたの?」
「うーん……伝説になってないってことは、その。遊んでたんじゃないの? 少なくとも大陸北部にはいないよ。いたら感知できてるし」
「なるほど」
「もしくはいないのかもね。勇者システムの適合者は世界に5人いるみたいだけど、勇者転生のプレイヤーは一人もいないのかもしれない。君も勇者の一人だけど、ステータスは普通でしょ」
「……残りの勇者はなんなんだ?」
「知らない。情報ゼロ。この世界にいるんなら、いつか誰かと会うだろうけど、まあ、それより」
今はこっち、と言って、妖精少女は私に向けて指をつきつけた。




