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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
終章ー2 人生最後の思い出を作りましょう
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第10話「ふられ女」

 さて。

 エリカちゃん退学事件のあと。

 急速に距離が近づいた私とキュウセイは、いよいよ恋仲になって。


 ただれた関係になり。


 そして。

 しばらくのこと。

 エルフ伯爵家から呼び出しがかかったキュウセイは、大陸中央部へと帰還することになった。




「カエデ。名残惜しいけど、これまでだ」

「はい……キュウセイ様。お元気で」


 私は手を振って、涙ながらに船に乗り込むキュウセイ伯爵子息を見送った。


 国に帰るわけだから、特に事件性はなくて。

 悲劇でもないのだけれど。

 しかし。


 このとき。

 私はかなり落ち込んだ。


 というのも。


 別れ際のキュウセイが、妙にさっぱりとした顔だったというか……私のことを特になんでもない、普通の女友達のように認識していたからだ。


「できれば、キュウセイ様についていきたかったです」

「それは無理だよ」

「わかっています……でも」

「カエデにはカエデの人生があるだろう。僕にもある。お互い、遠く離れていても心は一つでいられるさ」

「そう、ですね」


 言葉を交わせば、わかる。

 私に宿っている翻訳スキルの力は、とんでもなく優秀だから。


 嘘は見抜けないにせよ。

 ニュアンスは。

 伝わる。

 理解できる。

 キュウセイは私を適当にあしらって、さっさと次の仕事に集中したいと心の底から思っている。


 私は。

 ふられた。

 らしい。


 船が見えなくなって家に帰って一人になると、とたんに涙がぽろぽろとあふれてきた。


 驚いた。

 ショックだ。

 この私がふられるなんて、そんなことがありえるのか。


 いや。

 あるか。

 私の力は格上の相手に対しては通じにくいと、妖精さんが言っていたし。


 思えば、私は。

 キュウセイに対して、あたりまえの恋人として以上の愛を何も向けてこなかった。


 過去を思い出せば、わかる。


 はじめての主として忠義を尽くしたファビオ。

 処女をささげたシルベストル。

 命をかけて看病したアルビン。

 死ぬこともいとわずに共に戦ったジロー。

 幸せを心底から祈って尽くしたミカエルなど。


 彼らは私より格上か、少なくとも同格だったわけだが。

 それでも私を愛した。

 愛してくれた。

 なぜなら。

 私は少なくとも彼らのことを、特別に尽くすべき相手だと認識はしていたから。


 キュウセイとは違う。

 キュウセイは。

 道具だった。

 私は彼を正気に戻るための手ごろなアイテムとしてしか認識しなかったし、抱かれはしても唯一の男として見てはいなかった。


 本気の心は、伝わる。

 嘘もまた。

 それと同じ。

 キュウセイへの愛を口にする一方で他の男を家に連れ込んで恥じることもなかった私は、いま思えばなんて傲慢なことをやらかしていたのだろうか。


 冷静に考えれば。

 私は。

 バツ3で。

 夫も子供もいて。

 付き合っている男を殺しまくって。

 もてまくりで淫乱の浮気性。


 …………異性として考えられる最悪の物件だな。


 恥ずかしい。

 調子に乗りすぎていた。

 普通だ。

 ふられるのが普通。

 何もおかしくない。

 

 キュウセイに謝りたい、と。

 今はそう思うけど。

 彼はもういない。

 二度と取り返しはつかない。


 私は部屋にこもり、後悔と失恋のショックでめそめそと泣き続けた。




 で、翌日。


 もとから心の壊れている私はあっさりと復帰して、男あさりをはじめた。


「……たあっ!」

「ま、まいりました!」


 剣闘部で汗をながして運動して、ほどよく火照った体をさますため。

 てきとうに。

 童貞の後輩やら気持ち悪いブタ男やら貧乏人の苦学生みたいな、女とは全然縁のなさそうな人をあえて選んで家に連れ込んで、


「この服とか、どうですか?」

「ちょ、近いです……」

「や、やめて、嫌です。はなして」


 などと、いつものごとく。

 にゃんにゃんと。

 うだつの上がらない男に極上のメスを抱く喜びを教えてあげるというボランティア活動を、私は毎日やっていた。


 もちろん、セックスだけが日常というわけもなく。


 酒盛り。

 バーベキュー。

 ゲーム大会。

 ダンス。

 歌。

 島めぐりの冒険やショッピングやスポーツ大会など。


 男友達をたくさん集めての極楽生活を送り、私は王立貴族学校でもっとも華やかな恋愛遍歴を持つ女としてぶいぶい言わせていた。


 が。

 当然。

 そんなことをしていると。


「あの女、なんなの!」

「調子に乗りすぎだと思う!」

「私の彼も……取られちゃいました。ずっと、将来はいっしょだって誓い合っていたのに」


 女の恨みつらみは、はかり知れないものになる。


 学校にきた当初であれば、まだしも私のことをあこがれや尊敬の視線で見ている女学生も少しはいたのだが。

 そういう人も。

 今は去り。

 私の周囲には奴隷のようなセックスフレンドだけが残り、女といえば、遠巻きに私をにらみつけ、ひそひそ話をしながら顔をしかめるような敵勢力ばかりとなった。


(…………私はきっと、もうだめなんだ)


 ぼんやりと。

 そう思う。

 私はいつから正気ではなくなったのか。

 それさえも、今はもうわからない。


 処女を失った時か。

 2度目に夫を亡くした時か。

 それとも、戦争がなにもかも悪かったというのだろうか。


 私は。

 たぶん。

 人として正しくあろうとすれば死ぬしかないという状況を何度も何度も経験し、そのたびにみっともなく生にしがみついて戦った。


 そして。

 私は生き延びて。


 かわりに。

 正気は。

 失われた。


 あれほど男としての魅力にあふれていた伯爵家嫡男のキュウセイでさえ、私を本当の意味で正気に戻してはくれなかった。


 彼が去った後。

 キュウセイに嫌われることを恐れる必要がなくなった私は、失恋のショックから立ち直るために剣闘部をはじめとした学校中の男どもを食い漁り。


 毎日。

 とっかえひっかえに。

 男を連れ込んで。


 性交渉を通じて彼らに満足してもらい、ほぼ全員を私の奴隷にしてみた。


 結果。

 私に支払える対価を持たない男の何割かが。

 女に刺されたり魔物に食べられたりで死んでしまったようだが。


 まあ。

 いいか。

 私はそう思った。


 私がこの世界で自身の影響によって人を殺したのは、たぶん、それが最後のことだった。

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