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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
終章ー2 人生最後の思い出を作りましょう
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第9話「ざまぁに失敗しました」

「キュウセイ様。踊りましょう」

「私のことが好きですよね?」

「ちゃんと口に出して言ってください。カエデが好きだと。少なくとも、そこにいるエリカなんかよりずっとカエデが好きなのだと」


 私はまず、エリカちゃんを貴族ぞろいの社交界に連れ出して、目の前でキュウセイ伯爵子息との蜜月ぶりをたっぷりと見せつけて、


「なんでそんなことするの!?」

「私のほうが可愛いのに!」

「キュウセイ様! 私を見て下さい! 私こそが将来の伯爵家夫人にふさわしいって、そう思いませんか!?」


 エリカを逆ギレさせて、公衆の面前でみっともなく泣きわめかせて、そして、


「僕が好きなのはカエデだ」

「何度も言っただろう」

「エリカ。僕は君に興味がない。失礼は承知の上だが、誤解のないように言っておく。今後僕に関わらないでくれ」


 などと、キュウセイから残酷なぐらい無慈悲に断らせて、あとは、


「嘘よ! こんなのは嘘よ!」

「おかしい!」

「みんな、なんで私をそんなに冷たい目で見るの!? 私は……ただ、キュウセイ様にふさわしい女の子になりたいだけなのに!」


 と、かように衆人環視の前でさんざんエリカの無様さをアピールしたのに加え、後日呼び出して女子会裁判を開き、


「あなたは少し、淑女たるものの貞淑さに欠けますね」

「この学校にふさわしくありません」

「最低限の礼儀さえわきまえない者は、貴族に混じって学ぶ資格がない。それを覚えておきなさい」


 などと、涙目のエリカちゃんをさんざんに吊し上げてから、さらに、


「エリカ・ティアラ。上記の者、素行不良により当日をもって退学を命ずる」


 という感じで、ふつーに学長への手回しが行われて学籍抹消が行われて、とどめは、


「エリカ殿。貴殿には貴族侮辱罪の嫌疑がかけられています。ご同行願いましょうか」


 という感じで冤罪を着せられて。

 牢にぶち込まれて。

 監禁と。


 なんの権限もない平民女にはふさわしい、みじめな最後だったな。


 まあ。

 前世でも。

 自分の身のほどがわかっていないバカ女というのは、けっこういたけれど。


 この封建社会においてもそれができるというのは。

 ある種の才能かもしれない。


 ざまぁや婚約破棄のおもしろさというのは……知恵の足りないバカ女やバカ貴族を嘲笑するおもしろさであるから。

 ピエロの存在は必須だけど。

 ああも極上のピエロをきっちりのさばらせるあたり、この世界もまだまだ懐が深くて救いがあるのだと感じ入る次第である。




 で。

 その後。


 あまりにも気の毒なので、私は裏から手を回してエリカを開放し、親元に返してあげた。


「カエデ子爵。このたびはまことにご迷惑を」

「いえ」


 父親のティアラ商会会長メリルさんが、菓子折りを持って頭を下げに来た。


「それより……エリカちゃんは今回のことで、すごく傷ついていると思います。後のフォローとして、可能な限り優しくしてあげてください」

「は、しかし」

「今回の責任は、エリカに過剰な任務を負わせて学校に送り出したメリル会長にあると私は考えています。私たちは他人だから叩きましたが、やりすぎもしました。これ以上エリカが傷つくことを私は望みません」

「……さようですか」


 重いものを飲み込むような渋面を作り、メリル会長は深くうなずいた。

 ふむ。

 いちおう念押しもしておくか。


「メリル様は娘の教育に失敗しましたが、あれほど子供をまっすぐに育てられたことだけは称賛に値します。エリカに伝えてください。よければ、また会いに来てほしいと。行き場がもしなくなったなら、私が最後まで面倒を見てあげると」

「…………前半は、確かに伝えます」

「そう」

「後半は、必要ありませんな。エリカの面倒は、私が最後まで責任を持って見ますので」

「ならばよし」


 ふかぶかと頭を下げて、メリル会長は去っていった。




 はあ。

 なんとも後味の悪い結末だ。

 ざまぁ案件なのになんにも楽しくない。


 あのままではエリカちゃんはいつか誰かに殺されていただろうから、どこかで強く叩いておく必要はあったと思うのだけど。


 今回は。

 一度に叩きすぎた。

 そう思う。

 私はエリカちゃんのことを際限なく甘やかしてしまったが、普段からもっと厳しく教育しておくべきではあった。


 でも。

 できなかった。

 なぜなら。


 あの子の目標はあまりにも、私に似ていたから。


 エリカちゃんは、たぶん私なのだろう。

 妖精のいなかった私。

 知恵もなく、魔力も体力も魅力もなくて、貴族社会でいじめられて死ぬしかなかった過去の私そのものだ。


 身の程知らずに。

 貴族嫁になろうとして。

 そして。


 私はなれた。


 エリカはなれなかった。


 言うまでもない話ではあるけれど、女1000人がいれば999人はエリカと同じ結末をたどることになる。


 ……まあ、それでも。

 エリカほど強く踏み込んで転ぶことのできる人間は、めったにいないだろうけれど。


 できれば。

 彼女の願いを叶えてあげたかったなと。

 私はそのように思った。

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