第7話「危なっかしくてハラハラします」
「……それなりね」
「お粗末さまでした」
お茶菓子を堪能したエリカちゃん。
ちょっと満足そうだ。
かわいい。
若い女の子と。
お茶会。
いや、私もまだ19歳なので、若いは若いんだけど。
13歳の若さにはかなわない。
「エリカちゃんは、婚約者とかいないの?」
「いるわけないでしょ! 婚約者がいるのにキュウセイ様と付き合うだなんて、そんなの淫乱じゃないの!」
「そ、そうですね」
「あんた、聞くところによると結婚済みなんでしょ! なのになんでキュウセイ様から恋人認定されてるのよ! 私をバカにしてるの!?」
「……してないけど」
うう。
耳が痛いなあ。
言われてみれば私には夫(9歳)も子供(22歳間男)もいるわけで。
仮にキュウセイが私を恋人だと宣言したとしても、適当に女をあしらうための方便にしか聞こえないのも無理はない。
いやまあ。
だからと言って、ストーカー行為が肯定されるわけではないが。
エリカちゃんにはエリカちゃんなりの正当性というやつがあるかもだな。
「カエデって難民出身なの?」
「そうですよ」
「え、それでどうやって子爵にまでなったの? ぐーぜん?」
「いえ。一番大きな要因は戦争です。没落寸前の男爵家に嫁いで戦ったところ、なぜか勝ってしまって」
「へー」
「それで夫が死んで、子爵になりました」
「ついてるわね……まあ、難民から貴族になるには、それぐらいの運がないと無理かもね」
などと、エリカちゃんはまとめたが。
もちろん。
口で言うほど簡単なわけではない。
運だけではなくて。
妖精もいるし。
魔力も。
美貌も。
それまでの人生で築いた財産や人脈なんかも必要だ。
はっきり言ってしまえば事実上不可能である。
エリカちゃんは平民と貴族との壁を超えた格差結婚を目指しているようだが……それは無理だ、と言ってあげるべきだろうか。
それとも。
自分で気づくのを待つべきか。
私はたしかに子爵にまで上り詰めた。
しかし、それは。
薄氷の上をスキップで歩くような愚行をやらかして、たまたま割れなかったというだけで。
狙ってやれるものではないし。
もう一度同じことをやれ、などと言われたとしても、間違いなく不可能なことだろう。
「エリカちゃんは……貴族と結婚したいの?」
「もちろんよ!」
「無理だから諦めてほしい」
「なんで!?」
「時間と人生の無駄になるから。貴族と付き合うのは……無理なの。早めに諦めたほうが有意義に生きられると思う」
私は珍しく、相手に嫌われることを承知で助言をしてあげた。
けれど。
もちろん。
そんな安っぽいセリフが、13歳の野心家美少女に通じるはずもなく。
「カエデにできたんでしょ!? なら、私にもできる! 間違いないわ!」
「でも」
「私のほうが若いし! お金もあるし! 時間もある! この先に待ち受けている可能性は、カエデみたいなオバサンとは違って無限なのよ!」
「おばさん……」
私はショックを受けた。
いやまあ。
言いたいことはわかる。
13歳から見れば19歳はおばさんだ。
私もかつてそう思っていたわけだし。
13歳なら。
ふつう。
この件について、私がエリカちゃんを強く責められるはずがない。
「あ、あの……エリカちゃん。あんまり貴族の人に向かってケンカを売らないほうがいいよ。危ないから」
「はあ!? 何が危ないのよ!?」
「え、ええっと。いじめられたりとか、油をぶっかけられて火をつけられたりとか、教科書ずたずたとか悪評流しとか暗殺とか凌辱とか」
「そんなことあるわけないでしょ! 頭おかしいんじゃないの!?」
エリカちゃんが怒っている。
しかし。
この件に関して言えば、私はおかしくない。
わたしは。
全部。
されたことがある。
エリカちゃんが今まで無事だったのは、単に運が良くて小物で、若すぎて、周囲から目ざわりだと思われるほどの性的魅力を持っていなかったという……それだけの話にすぎない。
「あのね、エリカちゃん。キュウセイ様は狙いが高すぎる。伯爵家ならせめて次男三男を目標にするべきだし、男爵家でも嫡男は避けたほうがいい」
「嫌よ!」
「でも」
「あんた、キュウセイ様を私に取られそうで怖いんでしょ! ねえ、そうなんでしょ!? 年増女ってこれだから!」
「……年増じゃないもん」
「もんとか言うな! 女に対して女がかわいこぶったって、痛々しいだけなんだからね!」
荒ぶるエリカちゃんの言葉を、私は寛容に聞き流し。
ともかく。
キュウセイには今後近づかないようにと。
釘は指しておいた。




