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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
終章ー2 人生最後の思い出を作りましょう
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第4話「デートで親交を深めましょう」

「はい、あーん」

「カエデ、ちょっとこれは……」

「あーん」

「さ、さすがに恥ずかしい、ぞ?」

「あーん」

「あ、あーん」


 もぐもぐと。

 咀嚼するキュウセイ。


 ピクニック。

 ではない。

 ダンジョン内デートの真っ最中である。


 お弁当を広げてシートの上に座って部下からの給仕を受ける……という点では、外食と変わらないかもしれないが。


 魔物は。

 うようよいる。

 周囲で転がっている魔物の躯を狙って、ハイエナもどきの怪物どもが遠巻きにこちらの様子をうかがっていた。


「落ち着かない……」

「すぐに慣れますよ。キュウセイ様であれば戦場はお手の物のはず」

「ダンジョンはまた勝手が違うんだよ」

「ですか」

「狭いし暗いし空気は悪いし。カエデはよくこんなところで戦う気になるね」

「なれればへーきです」


 キュウセイ様は閉所恐怖症なのかしら。

 私は。

 むしろ社交界とかで男の欲望にさらされている状況のほうが、はるかに怖いと思うけど。


「そういいつつも、結局12層まで到達してしまいました」

「ああ」

「快挙です。我々は一人前の冒険者になりました」

「こだわりがあるの?」

「それはまあ……昔の私は一人前の冒険者になるのが夢だったので」


 今はもう。

 思い出すのも難しい。

 遠い昔のこと。


 私は勇者エリーや格闘家テッサ、あとはシスタークリスや槍使いのジュリアンといっしょに冒険者活動をしていた。


 当時。

 戦争の影響で学校近辺の防衛力がとてつもなく低下してしまい、魔物がうようよと地上に出てきていた。

 地下にしても。

 当然のことながら魔物で溢れていて、魔物だくの状態。

 あの時期であれば地下10層はおろか5層でさえ、安全とは言えなかったわけだが。


「昔、友達といっしょに語り合ったものです。いつかは10層にたどりついて有名になって、毎日ゴージャスな食事をとってプクプクと太ろうと」

「太るのはよくないよ」

「それは冗談です」

「カエデと一緒に冒険できるんなら、さぞかし優秀な冒険者なんだろうね」

「ええ。気のいい人たちでした」


 みんな。

 死んじゃったけどね。


 勇者エリーも。

 格闘家のテッサも。

 シスタークリスも。

 みーんな。


 チンピラのジュリアンは……確かあれだ。

 スティング子爵領との戦争の最終局面において、勇猛果敢に突撃して死んじゃった。

 気の毒に。

 なんとゆーか。

 思えば彼には一度ぐらい抱かれてあげるべきではあった。


 レイプされかかった記憶もあるけれど、今は遠い昔。

 それぐらい。

 許してあげればよかった。

 私のために戦争に参加していいとこ見せようとして死んじゃった人なので、何をどう考えても恨む気にはとうていなれない。


「ともあれ、地下10層は一流冒険者にならんとする者が目指す一つの境地です。私はとてもうれしい」

「そっか」

「キュウセイ様のおかげです。ありがとう」

「……礼を言われるほどのことじゃない」


 キュウセイはそう言うが。

 あるさ。

 礼を言うべきほどのことである。

 彼は。

 ダンジョンに潜りたいと願った私のわがままを嫌な顔ひとつせずに聞き入れて、準備まで手伝ってくれた。


 機能的で丈夫なリュック。

 なんでもろ過できる浄水器。

 少量でも火を維持できる魔石燃料もじゃんじゃん揃え、剣もナイフも壊れにくい極上品。


 部下のほうも、一流のレンジャーを2人も用意してくれて。

 私がつれてきた戦闘メイドなんて、実力の違いにちょっと戸惑っているぐらいのものなのだ。


 そして。

 なんといっても、伯爵子息キュウセイ。

 当人。

 彼は父親から「勇敢さがありすぎる」とまで評される男であるから、実際その実力はとんでもないものだった。


「キュウセイ様の武力はすさまじいです。魔物なんて雑魚同然でしたね」

「まあね」

「正直なところ、おんぶだっこで連れてきてもらったのが恥ずかしいです。私がいなくてもキュウセイ様と部下2人だけで、10層まで到達できていたことでしょう」

「それは違うよ」


 キュウセイは真っ向から私を見据えて反論した。


「カエデなしでここまで来れるはずがない。君の斥候能力は代わりの利かないものだ。うちで一番優秀な物見よりも上なんだよ?」

「それほどでも」

「いや、謙遜はいい。自覚もあるはずだ」

「……多少は」

「僕は正直、カエデが子爵でなかったなら全財産をはたいてでも君を領地に連れ帰るための交渉を始めていたと思う」


 それはまあ。

 妖精さんサーチは世界最強だからな。

 私はこれがあるがゆえに、人生で道に迷ったことなんて一度もないわけだし。


 探索にも。

 商売にも。

 戦争にも使える。

 かつて3000の兵を率いてサンロット男爵領に攻め込んだ時も、主力部隊といっさい戦わないままで領土を蹂躙できていた。


「優れた指揮官は座にいながらにして戦場の全てを見渡せると言うけど……カエデもそのクチなのかな?」

「まあそうです」

「都市伝説の類だと思ってた。でも、実際にいるんだね。君と敵として出会わなかったことを心底から幸運に思う」

「あはは、大げさな」


 けらけら、と私は笑ったが。

 キュウセイはマジ顔だ。

 ううむ。

 妖精さんサーチは乱用しないほうがいいのかもしれないな。

 まつろわぬ化外の力であるがゆえに、常人の目から見れば不気味に映るのかもしれない。


「まあでも……勘違いもミスもありますし。そう頼り切るのはよくないと思いますよ」

「そっか」

「食休みを取ってから帰還しましょうか。何日も潜っていると、上でも心配するでしょうし」

「そうしよう」


 と。

 いうことで。

 私たちはダンジョンデートを終えて地上へと帰還し、それぞれの日常に戻った。

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