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第1話「神様からのお手紙」

 難民キャンプにおいては殺人事件など日常茶飯事である。


 衆目の前ならばともかく。

 夜に1人2人が死んでいたところで調査など行われない。

 飢餓。

 病気。

 ケガなど。

 ありとあらゆる理由で毎日何人も死ぬのだ。

 さすがに10人を超えるような大量殺人犯が現れれば別だが、個人間のトラブルぐらいでは調査隊は動かない。


 いちおう、目撃者は募集しているらしいが。

 妖精さんは行くなと言っていた。

 ならば。

 そうすべきだ。

 それですむ話なのだろう。


 ティッキーのように社会的地位の低い人間が死んだところで。

 誰も気に留めないし。

 いちいちまじめに調べたりもしない。


 それはよくあることだった。




「はあ」


 テンションが激落ちした私はうじうじと悩みながら日々を過ごしていた。

 知り合いが死ぬ。

 これほど嫌な話はない。

 ティッキーは知り合いよりはずっと親しい相手だったからなおさらだ。

 前世のクラスメートが目の前で事故にあったぐらいの衝撃があると言える。


「残ったのはこれだけか……」


 ある意味ティッキーの遺品である道具箱を開いて中身を見る。


 携帯食料。

 金貨や銀貨。

 薬。

 ナイフ。

 ソーイングセット。

 地図。

 などなど。


 便利な雑貨類がたくさん入っていて、ちょっとした宝箱を開けたかのようなウキウキ感があるのだが。


 これは人の命と釣り合うものだろうか。

 そうは思えない。

 ティッキー。

 なにをしているのだ。

 死ぬぐらいなら私を守って生き延びてくれれば……などと、そんな注文をつけられるような立場でさえ、私はないのだけれど。


『あったー』

『だいしゅうかくー』


 妖精さんが地図を取り出して天にかかげている。


『それは?』

『ようせいのー』

『ちずー』


 じゃじゃん、と紙の地図が広げられた。

 すごい。

 ファンシーな絵つきの注釈がされていて、ものすごく見やすくて詳細だ。


 炊き出し釜。

 給水所。

 蚤の市の開催場所。

 インフォメーションセンターの営業時間と閉業時間。

 医者の位置。

 危険人物の分布。

 人口密度や犯罪発生率、物資集積所、キャンプ運営者の指揮所など。


 どれも見覚えがある。

 そういう情報ばかりがのっている。

 ここにいながらにして、難民キャンプの全てが鮮明に理解できる。


 なんだこれは。

 いや。

 なんなのかはわかる。

 これは私がいる難民キャンプの見取り図なのだろう。


 え。

 なにそれ。

 いったいどういうこと。

 そんなウルトラローカルな地図が存在するものなのだろうか?


『みてみてー』


 妖精さんがむむむと力を入れると、地図がざあっと書き換わって別の絵図面になった。


『ここがげんざいち』

『もくてきちまで、あとみっか、ぐらい?』


 ロードマップをつーっと指でなぞる妖精さん。

 新しい地図だ。

 今度のやつもすごい。

 ファンシーな鹿、イノシシ、熊、カマキリ?、空飛ぶ目玉、大蜘蛛、白鳥など。

 絵入りの注釈が加えられた動植物の生息図に加えて。

 道。

 村。

 街。

 宿場町の場所やら距離やら移動手段やら、全て網羅されている。


『いま、なんか絵が変わらなかったか?』

『ようせいの、ちず、だから?』


 答えになってない。


『かくちょうきっと。うまうま。べんり。ちょーだい』

『なぜ片言になる』

『ようせい、だから?』

『ええっと……つまり、その地図が欲しいのか?』

『うん』

『ちょうだいー』


 どうぞどうぞ、と手のひらでうながしてみると。


 くるっと地図を巻き。

 口を開けて。

 飲み込む。


 ぺかー!


 妖精さんが光った。


『ばーじょんあーっぷ』


 されたらしい。


『べんり。べんり』

『なにか変わったのか?』

『いつでもマップ、だせる。ひとのいちもわかる』

『妖精さんの力に地図機能が上乗せされたということか?』

『そう』

『べんりだな』

『べんり。べんり』

『他に欲しいものはあるか?』

『ないー』

『けどー』


 妖精さんは道具箱をごそごそとやり。

 中から薄いコピー本を取り出した。


『これをどうぞー』

『とりせつー』


 私はそれを受け取って。

 見た。



『異世界転生へようこそ!』



 そのように書かれていた。


 捨てたい。

 でも耐える。

 表紙をめくると、さらに文字があらわれる。



『こんにちは! 私は神です!』



 そんなふざけた走り書きから、この説明書ははじまった。


『みなさんご存知の通り、これはバトルロワイヤルです! たくさん殺しましょう! 殺せば殺すほど有利になっていきます! 常識ですよね!?』


 知らない。


『でも、悪いことをすると警察に捕まります! 犯罪はほどほどに! 悪の栄えたためしなし!』


 いったいなにを言っているんだこの神は。


『あ、ちなみに神ってのは自称ですよ?』


 そうですか。


『カエデさんはちょっと転生コースが特殊なので、一応フォローとして取説を入れておきました! 優しいですよね! これは特別ですよ、カエデさん?』


 名前を呼ばれるとこわいです。


『こわくないよー。だって神様だから』


 理由になってない。

 なんだかやたらとフランクで軽い感じの神様だ。

 てゆーか。


『あの……さっきから、私の内心に合わせて語り掛けていませんか?』

『神はいつでもあなたのことを見守っていますから』

『意味がわからないです』

『質問があればどうぞ』

『……結局のところ、神様は私に何をさせたいんですか?』

『ふっふっふっ』


 その言葉を最後に、リアクションがなくなってしまった。

 めくる。

 白紙のページが続く。

 神は沈黙した。

 ええー。

 こんな回答ってありなの。


 最後のページには次のようなセリフが書かれていた。



『……あなたたちはダミーです。

 偽物でありデコイでありフィクションでありコピーであり。

 しかし本命のための依代でもあるのです。

 優秀なのがベストですが。

 優秀すぎると問題かもしれません。


 まずは5年間生きましょう。

 人と戦うまえに世界と戦いましょう。

 全てはそれから。

 生き延びた人たちの間で本番がはじまります。


 質問に答えましょう。

 あなたたちに求められているのは、ずばり。



 種を繁栄させ。



 種を破滅させるための力です。



 ではでは。

 次は来世であいましょう。


 あれば。

 ですけど。

 しーゆーあげいん』



 取説は炎に包まれて消滅した。



『さんこうにー』

『なったー?』

『あんまりならなかったかな……』


 何を言っているのかよくわからなかったし。

 頭にも入っていない。

 文字にさえ残っていないわけだから、ほとんどノイズのようなものだ。


『結局……私は帰れないのだな』

『むりー』

『そもそもー。もとのばしょはうごいてないー』

『ううん? どういう意味だ?』

『こぴーされた?』

『じんかくだけふくしゃされたというせつと、そんざいごとうわがきされたせつがあるー。カエデは2人いるー。ここにいるのはかたほうだけー』


 何を言っているのかさっぱりだが。

 まあいい。

 考えても無駄なのだろう。


 とりあえず参考になりそうな情報としては、あと5年。

 この世界でサバイバルをやれと。

 神はそういった。


 神がそういったのだ。


 なら。

 やるしかない。

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