第2話「いい男発見」
男はすぐに見つかった。
かつて勇者エリーが命をかけてまで守った学校の治安も、平和な時代になれば何ほどのこともない。
軍が常駐し。
冒険者があふれ。
地下世界へと逆侵攻を果たした今となってはもはや、地上で魔物を見るということもなくなった。
さて。
そんな折。
昔を懐かしんだ私は王立貴族学校の片隅にある剣闘部へと足を運び、そこで学生らしく部活動などをやってみることにした。
「ファルコーン子爵領の当主カエデです。よろしくお願いしますね」
改造レオタードを着込み、たくさんいる部員の前で自己紹介したとたん。
属している部員のほとんどが、
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
と、ものすごい雄たけびをあげた。
3割ぐらいいる女子のうち半分ほどは、私の格に委縮するか、あこがれの視線を送り。
もう半分は。
どことなく冷たいというか、自分のテリトリーに入り込んだ害獣に対するような敵意をぶつけてくる。
……まあ。
つまりは、いつものことだった。
「昔は冒険者活動などをしていたこともあるので、戦闘の基本ぐらいはわかっているつもりです。ただ、ちゃんとした技術のほうを学んだことがないので……手とり足とり、教えていただけると嬉しいです」
「はい!」
「お任せください!」
「よろこんで!」
男子のテンションが高い。
「カエデ様は、以前冒険者だったのですか!?」
「魔力、すごいですね!」
「おすすめの店があるんです! よければ今度、ぜひ!」
「きれいです!」
「あ、あの! 剣なら自信があります! よければ手合わせなど!」
怒涛のごとく押し寄せる男達。
ううむ。
困ったな。
みんな体つきがよくてかっこよくて魅力的だけれど、それでも一度にお相手できるのは一人だけなのである。
と。
そこへ。
「お前ら。彼女が困っている。その辺にしておけ」
と、助け船があった。
大陸中央部から留学してきたというエルフ伯爵家の嫡男キュウセイが、パンパンと手を叩いてこの場をまとめにかかる。
「カエデ子爵。入部希望ですか?」
「はい」
「では、僕の権限において入部を認めます。いつでも来て、好きなように訓練なさってください」
「ありがとうございます」
「武骨者ぞろいゆえ、戸惑うこともあるかもしれませんが……」
「問題ありません。私、もともと庶民です。ため口、なれなれしい態度、訓練中のケガについても全て気にしません」
「わかりました。それでは、以後よろしく」
「よろしく」
私とキュウセイ伯爵子息は握手をぎゅっと交わし。
そして。
おお。
来た来た。
これだよこれ。
彼の革のように分厚い掌から、脈々と不思議なエネルギーのようなものが私に流れてくる。
私は。
正気に戻った。
霧がかかっていたような頭がさえ渡り、精神が落ち着いていく。
寒気も、しない。
熱もない。
性的な衝動に襲われることもなく、心は平静である。
つい先ほどまで、今夜のベッドに連れ込むべき男のことを考えていたのに。
必要はなくなったのだ。
しかし。
「……キュウセイ様。よければ一手、お願いできますか?」
「僕と?」
「はい。せっかく入部したので、この部活のレベルを肌で感じてみたいのです」
「僕で良ければ、喜んで」
と、そういうことになった。
私とキュウセイは。
道場で。
向き合って。
お互いに木刀をかかげ。
全魔力は防御のために注ぎ込むという条件で、剣をぶつけ合った。
「……!」
「……っ!?」
ガン、と、すさまじい衝撃。
受けた手が震える。
パワーだけでも山賊頭目のシルベストルと同等……いや、それ以上か。
一歩引いたところ。
キュウセイは間をおかずに私へと接近し。
つばぜり合いへと持ち込んで力押しに押しまくり、私を押し倒してしまった。
「それまで!」
あっさりと。
私は敗北した。
冬の道場の冷たい感触を背中で感じながら、喉元に押し当てられた木刀を外してもらう。
よろよろと。
肩で息をしながら、ゆっくり立ち上がる私。
意気込みよく戦いを挑んだ結果がこれなので……やや気恥ずかしいものを感じながらも、私は笑みを浮かべて降参のポーズを取る。
「完敗です」
「いえ……カエデ子爵の剣には、迷いがありました。この種の戦いに慣れていないのでしょう」
キュウセイはそのようにフォローしてくれた。
なるほど。
確かに。
私は相手を傷つけないことを重視して防御に魔力を全振りした上に、全力での打ち込みをためらった。
結果。
ぼろ負け、だが。
殺し合いであればもちろん、展開も違っているだろう。
それでも勝てたとは言えないが。
「……キュウセイ様の剣はすごかったです。なんというか、気迫がこもっていました」
「エルフ伯爵家は戦争の専門家なので。これぐらいは当然でしょう」
「まあ」
「僕の父は王立魔法学校を卒業したそうですし、僕もその血を引いています。剣で遅れはとりません」
自信満々に答えるキュウセイ伯爵子息。
ううむ。
まぶしいな。
自分を持っている男の人と言うのは、いつ見てもすごくかっこいい。
ダークブラウンの硬質な髪。
日に焼けた肌。
紅眼。
高魔力。
全体的に筋肉質で高身長。
ハンサムで意志が強そうで態度もまあ紳士的。
で。
伯爵家の跡継ぎで。
金も実力もあるってか。
むう。
負けた気分だ。
ここまで完全に人として劣っていると感じたのは、本当に久しぶりのことである。
「キュウセイ様……」
ぽーっと。
私は彼を見つめた。
あまり女慣れしていないらしいキュウセイは顔を赤くして、視線をきょろきょろとさせてから頭をガシガシとかきむしる。
「そ、その、手加減を忘れたことは謝ります。カエデ様は対戦相手として手ごわかったので、つい夢中に」
「いいえ」
「ええっと……お、お詫びもかねて、この後食事でもどうでしょう? 最近できたいい店を知っています」
「ぜひとも。私も話したいことが、いろいろとありますので」
と。
いうことで。
私は伯爵子息との縁を得ることに成功し、一緒に食事へとしゃれこんだ。




