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清純派でいることに疲れたので、これからはビッチで通そうと思います  作者: きえう
終章ー2 人生最後の思い出を作りましょう
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第1話「学生に戻りました」

 船を下りる。

 潮風を胸いっぱいに吸い込む。


 冬の風。

 冷たく肺を痛めつけるように鋭い。

 埠頭に立ってのびをして、波しぶきまじりの空気を浴びながらぐっと拳を握りしめる。


 学校へ。

 私は帰って来た。


 平民として、ではなく。

 今度は。

 貴族として。


 かつて冒険者として活動し、勇者エリーやアルビンと出会った、王立貴族学校。

 懐かしい。

 けど。

 あの時とは違う。

 人の手からエサを食べる犬としてではなく。

 選ぶ側である子爵家の当主として、私はここにやってきた。


「宿はどこですか?」

「こちらでございます」


 港まで出迎えに来ていた案内人に従って送迎の馬車に乗り込む。

 そのままガコガコと。

 走らせて。

 爵位持ち貴族クラスが利用する区画まで侵入し、誰にはばかることもなく屋敷へと横付けした。


「では、準備を」

「ははっ」


 ぞろぞろと。

 私が連れて来たカエデ親衛隊のみなさんが馬車からあふれてくる。


 執事。

 メイド。

 護衛やら文官やら。


 ここでの生活を快適にすると同時に、スティング子爵領から送られてくる書類なんかも決裁するための人材ということだ。


「カエデ様。早速ですが、校長や教師、商人その他から面会の取り付けが来ております」

「偉いのですか?」

「いえ。単に交友を深めたいという種類の申し出のようで」

「全部キャンセルしなさい」


 すぱっと断る私。


「……よろしいのですか?」

「もちろん」


 いいに決まっているではないか。


 そもそも。

 この学校にやってきた。

 目的は。


 正気に戻ることだ。


 自分よりも格の低い相手と付き合ったところで、この体のうずきや頭のおかしさは一切緩和されない。


「それよりも……他の貴族の有力者に対して嫌われないように気を配る必要があります。リストはありますか?」

「こちらに」


 さっと書類を手渡してくれる執事さん。


「在校生をざっと確認しておきましたが……今現在、侯爵級以上の当主もしくは後継者はこの学校に一人もおりません。伯爵級の後継者が数名、いるようですが」

「男は?」

「3名ほど」

「会えますか?」

「……直接引っ越しの挨拶に向かうのは、やや非常識、かもしれません。この学校は貴族だらけですので。裏を疑われます」

「なるほど」


 そりゃーそうだな。

 いきなり見ず知らずの女が訪ねてきて、好意的に接する男はいないだろう。

 いくら子爵家の当主でも。

 最低限、相手が不自然に思わない程度の場を作る必要はある。


「……属している部活、選択している授業、趣味などについては?」

「こちらに」


 渡された紙を見て、私は顔をしかめる。

 少ない。

 ぺらぺらとめくってみても名前と経歴と年齢ぐらいで、ちょっと名簿を見ればわかるような情報しか記されていないようだ。


「薄くないですか?」

「申し訳ありません。私はこの学校でのコネが少なく、平民ゆえに噂話にさえ加わりにくいのです。調べていることを相手に知られてもいいか、もしくは時間と予算さえあれば、追加の調査が可能です」

「ふむ」


 まあそうか。

 私は貴族社会では新参者なわけだし。

 ジローもそのへん、あんまり詳しくないみたいだったからな。


 てゆーか。

 旧ファルコーン男爵家の貴族関係者は大多数が粛清されたか、もしくは牢獄行きである。

 コネがない。

 顔見知りもほとんどいない。

 予算もない。

 そんな状況下で情報収集を万全にしろというのは、無理難題なのだろう。


「……わかりました」


 私は結論した。


「予算については増額します。人を使って、多少拙速でも構わないので情報を集めてください。それと……」

「それと?」


 執事が問いかけてきたので、私はじっと目を合わせて問いかけた。


「あなた、名前は?」

「ジミーと申します」

「私とは……初対面でしたね」

「はい。人づての指示は受けておりましたが、直接カエデ様とお目にかかる栄誉にあずかったのは、いまがはじめてのことです」


 ふーん。

 つまり、あれだな。

 この人は他の男とは違って、私のために粉骨砕身するほどの動機がまだないと。

 そういうことか。


 あのうっすい報告書をあげてきた原因は……もちろん実際に難しいところもあるにせよ、そもそもの問題として、やる気が足りていない。

 の。

 かもしれない。


 ならば。


「…………内密の指示を出します。ええっと、他の者」

「ははっ」

「秘密の話をしますので、今から2時間ほど、屋敷から出て行ききなさい。護衛2名のみ入り口で待機。いいですね?」

「了解しました」


 この種の指示になれている部下のみなさんはぞろぞろと退室した。


 そして。

 屋敷には。

 私と執事ジミーの、2人きり。


「カエデ様……内密の話とは?」

「それは」


 私は、さっと手を取って。

 瞳をうるませ。

 さいきん出力が上がってきた感じがする異性魅了の力を、全力で解放した。


「か、カエデ様?」

「ジミー。私は不安なのです。怖いのです。こんな場所に友達もいないまま、私はひとりぼっちで取り残されて」

「え、あ、う」


 胸に触れる位置でジミーの手をぎゅっと握りしめてやると。

 彼は。

 目に見えてうろたえた。


「私の未来は、ジミーの働きにかかっています。わかりますか?」

「も、もちろん」

「なら、もうすこし、がんばってもらえませんか?」


 ほう、と、悩まし気なため息をついて。

 私は。

 かたかたと手を震わせて、ジミーの体をおそるおそる、といった調子で抱きしめた。


「……!?」


 ジミーは石像のように固まった。


「ねえジミー。私には味方がいません。だからもし……私のために忠義を尽くしてくれる人がいれば、なんでもしてあげたい。そのように思うのです」

「な、なんでも?」

「ええ。どんなことでも。それがたとえ……泥に汚れるような、無茶なことであっても」


 ちら、と私はジミーを観察する。

 うむうむ。

 顔赤し。

 呼吸は荒い。

 息子さんは……おお。

 ぎんぎんでいらっしゃいますね。

 これならもー、あとは押せばいけそうだな。


「ジミー。もしもあなたに、優しさというものが少しでもあるのなら……この身を抱いて。その代償として、精一杯に働いてはくれませんか?」

「わ、私が……カエデ様を!?」

「はい。ここには人もいません。今なら私も、立場を忘れて人を愛することができましょう」


 震えるジミー。

 よし。

 私は立ち上がって服をはだけ、そっと手を引いてベッドへと彼を導いた。


「お願いです。ジミー。私をまもって」

「カエデ様!」


 がばっ、と、執事のジミーが私に覆いかぶさって来て。

 あとはまあ。

 いつものごとく、悲鳴をあげまくりながらにゃんにゃんと。

 ジミーに楽しんでもらった。


 ふふふ。

 私はこれでもけっこう。

 尽くす女なのだ。

 そこいらのマグロちゃんとは違う。

 世の中には何の努力もせずに、男が上手いだの下手だのと言うバカ女もいるけれど。


 性交渉は。

 スポーツだ。

 それを楽しめないのであれば、それは単にプレイヤーとしての技能が低いというだけの話である。


 で。

 1時間と少しあと。


「か、カエデ様。その、次の機会は……」

「1年後、ではどうでしょう。精一杯働いてくれるなら、私も尽くしがいがあるというものです」

「かしこまりました」


 うやうやしく頭を下げる執事ジミー。


 うむ。

 これでよし。

 経験則になるけど、この状態から怠業に移る人を私は見たことがない。


 なんなら……実は給料とかも、ゼロでいけるみたいだが。


 それは。

 さすがにな。

 奥さんとか実家から借金しまくった末に刺されて死んだ部下とかも、何人かいるらしいし。

 いくら私の魅力がすごくても。

 男個人の努力ではどうにもならないことまでは、解決してくれないのだ。


 ないそではふれぬ。

 そう言ったのは、この世界に来た当時の妖精さんだっただろうか。


 もう。

 私には。

 彼らの声がまるで、聞こえないのだけれど。


『妖精さん……体調、まだ戻らないか?』

『……』

『……』


 へんじがない。

 聞こえているのか。

 いないのか。


 私はなんとなく不安な気持ちになりながら、新たなる学校生活をスタートさせたのであった。

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