クロユメ
先にUPした「アオユメ」の対になっているお話です。
はーい、どもどもコンバンワ。
え? 誰だおまえって?
んなこと関係ねぇ! って。
これ、あんたらの世界ではやってる言葉なんだろう?
はっはっは。驚くなよ。
オレはなんでも知ってんのさ。
オレらの世界はもちろん、あんたら「人間」って種族のことも
「ニホン」って国も、地球って星も宇宙も、ぜんぶ知ってる。
すべてを掌握してるんだ。
そう、この手に。
オレの、この手の中に世界がある。
―― 世界のどこかに青がある
そんなふざけた御伽話を信じて旅に出た奴がいた。
オレらのセカイにはない、「アオ」ってやつ。
眼を、嗅覚を、心を、一瞬にして奪われてしまう。
そん中でも一番綺麗って言われる「アオのアオ」を探しに出かけた。
そいつは絶望して帰ってきた。
見つけられなかった・・・と項垂れ、
情けない面で帰ってきやがった。
でも奴は扉を開け、見つけたんだ。
ここで見つけた。
一人に一個しかない「アオ」を見つけた。
そして幸せになりました。
めでたし、めでたし。
物語はそこで終わるけど、
(オレは終わらせない・・・)
勿体無いから使ってやるよ、その力。
そのすべて。
抱いて眠って墓に入ってそれで終わりジ・エンド。
そんな結末、これっぽっちも望んじゃいねぇ。
安穏な日々なんて吐いて捨てるほどある。
もっとゾクゾクすること考えようぜ?
身体の芯が飢えて震えるように、もっともっと。
力を手にいれるんだ・・!
そいつは言ったらしいよ。
この世には空ってのがある
海ってのがある
雲ってのがある
宝石ってのがある
花ってのがある
水ってのがある
雨ってのがある
それぜんぶが「アオ」で、でも掴めない。
手を伸ばしても空を切る。
触れた途端、透明になる。
塵となって風に消えてく。
『モノに永遠はないんだ。花は枯れ、水は蒸発し、
雨はいつか晴れる。同じ色は二度と作れないし、
果てがないように思える空も海も、どこかで途切れてる』
そう言ってたんだとよ。
はっは、笑えるぜ。
そうだろ?
おまえはなぜ、そこで諦めたんだ?
枯れても消えてもまた作ればいい。
生き延びるよう、 注いでやれりゃいいんだ。
同じものはそれが死んじまう前に複製すればいい。
クローンでもなんでもどんどん繁殖させろよ。
雨だか風だか知らねーけど壊れたら作り直せば?
感情なんざくそくらえ。
使えるだけ使ってカラッポになったら捨てりゃいいんだ。
死んだらそこでバイバイさよなら。
てめぇに用はねーよってポイすりゃいいだろ。
なぜそれをしない。
なぜ諦めた。
弱かったから。
力がないから。
そうだろ?
「なぁ・・答えろよ、ババア」
自称、魔法使いだと言う老人を蹴飛ばして答えを促す。
けど、首を振ったまま、うんともすんとも言わねぇ。
「おい・・!」
おまえには口がないのか?
舌がないのか?
「教えろ」
アオ、どこにあるんだ。
てかアオじゃなくてもいい。
オレ、知ってんだぜ?
「クロってのもあるんだろ・・?」
アオを凌ぐ力を持つクロ。
それ、欲しいな;あ・・・今すぐ。
それ使ってなにが出来る、どんなことが出来る?
一瞬でどれだけのモノを殺れる?
考えるだけでワクワクする。
ぐしゃって一発?
じわじわ攻めてその苦しみに酔う?
苦痛と絶叫をおかずに夜を楽しむ?
死ぬ寸前まで傷めつけて壁に飾っちゃう?
「欲しいんだよ、それ」
ぐちゃぐちゃにしてみてぇ。
踏みつけて壊して、その身体を喰って。
そうやってさぁ・・・このセカイはもちろん、
見えないセカイも奪ってみたいんだよね、オレ。
「だからちょーだい。渡せよ」
てめぇも持ってんだろ?
アオってやつ。
残念ながらオレにはない。
見つけらんねーんだよ。
だからそれよりもっと威力のあるやつ。
「クロ、ちょーだい」
「・・・」
「どこにある? どうやったら手に入る?」
「・・・」
しかし、足の下にうずくまってる老婆は口を開かない。
あれ? もう死んじゃった?
やっべー・・。
うっかり殺しちまったかなぁ?
「・・・奪われるぞ」
「あぁ?」
「終わりだ・・」
「あらま。生きてた」
優しいねぇ・・オレって奴は。
無意識のうちに手加減してたみたい。
けど、聞き捨てならねぇな、それ。
「おまえにアオは見つからない。
見つけたとしても奪われる。すべて、滅する」
「オレが綺麗に消滅するっつーのか?
シアワセになれる物なんじゃねーの? アオって」
「おまえの願いは叶う。だか滅する。消える。すべてが」
「てめぇ・・」
あーーームカつく。
意味わかんねーこと言いやがって。
「うぜぇ」
てめーこそ消えろ。
と思って、ダン! と腹のあたりを刺してやった。
途端にすごい形相で呻く老婆。
「ぐぅっ・・! は、あ、ぁぁぁっ・・・!」
「なんだ、声、出るじゃん。つかもう死ねよ、おまえ」
気持ち悪い液体がどくどく流れてきやがる。
おっと、この靴、新調したばっかなんだ。
おまえの液体で汚さないでくれる?
「逝く前に答えろ。クロはどこにある」
「・・っ・・・」
そこをぐりぐり掻き回し、痛みに悶絶する顔を見ながら訊いた。
アオはどこだ、クロはどこだ。
どこだどこだどこだ・・・どこにある!?
「狂気・・」
「は?」
「支配・・されて終わり・・だ・・・・」
震える指を一点に向け、老婆は死んだ。
これで無駄な命がひとつ減ったな。
お掃除ご苦労って言ってほしいぜ。
―― 奪われる
「・・上等。奪えるもんなら奪ってみな」
後悔すんのはそっちだぜ、アオ。
いや、クロかな?
どっちでもいいけど、オレはオレを奪わせない。
(ぶち壊してやる・・・なにもかも!)
この壁もあの檻も。
すべて超えて奪い尽してやる。
そうやって飛び越えて、オレはまず空を見つけた。
おお・・・確かにでかい。広い。
先が見えねぇ。
けど、これがアオ?
「しけた色してんな・・」
見透かしたように陰険で冷たい。
これのどこがアオなんだ。
尊いもんなんだ?
海ってのも同じ。
「サイアク・・・。おえ」
吐き気がするほど臭くてドロドロで唾を吐いた。
そこに浮かんでる小せぇ生き物が超絶うざい。
見るのも嫌になってぜんぶ殺した。
雨も水も同じようなもんだった。
ぴちぴち音たてて煩いのなんのって。
手に掴んでも残らねーしよ。
あーーしんどい。
シアワセなんてどこにある?
そもそも、シアワセってなんだ?
アオはシアワセの象徴、アオはシアワセの源。
その「シアワセ」ってなに?
つーかもう、アオ、いらね。
誰にでもある?
けどオレはいらない。
それよりクロがいい。
クロ、クロ。
この忌々しい空も海も水も空気も、
蠢いてるもの全てを消してくれる、ああ、クロ。
おまえに逢いたい、おまえが愛しい。
喰ったら旨いのか?
飲んだらどんな味がする?
(姿を現せ・・!)
みんなから煙たがれるおまえのトモダチに
なってやるって言ってんだよ。
このオレ様が。
だからさぁ、来いよ。
(来い・・!)
オレは呼んだ。
何度も呼んだ。
しつこく呼んだ。
(・・クロ・・・・)
天を破壊し、地に叫び、魍魎たちを喰い散らかして吠えた。
手当たり次第にぶっ壊し、目の前に現れるものすべてを殺し、
殺し殺し殺し殺し殺し殺し・・・・・・・。
ああ、そう。
殺しまくった。
すっげ快感だった。
あっけなく崩れてく。
干からびて死んでく。
ぐっちょぐちょに潰して、捨てて。
ハラワタを引き摺り出して喰って。
おもしれぇなーと思った。
それが快楽になった。
そして現れた。
「これが・・おまえがクロ・・・」
手にした。
それは熱くて冷たい。
形も色もない。
感触もない奇妙な物体。
「クロ・・・」
ゆらゆら浮いて、オレに壊せと命じた。
《ノゾムナラメッセヨ》
へへ・・わかった。
やってやるよ。
オレが奪ってやる。
この世界、もの、アオ、そしておまえ。
「クロ、おまえに手に入れる」
だから触れた。
ぐちゃっと掴んでやった。
握り潰してその汁を吸って舐めて飲み込んで、
オレは遂にアオを、クロをこの手に・・・!!
「・・・・」
ただ、光だった。
「え・・・」
そこは、光の渦だった。
オレが呑まれたのはそんな白い光だった。
しかしここはそれとは真逆の・・・
「・・な・に・・・・」
焼けつくような灼熱の光。
視界も聴力、嗅覚、感覚、すべてが一瞬にして溶けてった。
痛すぎる光がオレを包んだ。
包んで消えて現れた。
いや、オレが包んだ。
掴み取った。
確かに奪った。
けど・・・
「な、んだこれ・・」
そこは無だった。
音も色も消えた。
空も海も水も消えた。
太陽ってやつも消えた。
人間っていう生き物も、
花も虫も動物もなにもかもが消えた。
でもオレはいる。
「・・おい・・誰か返事しろ・・・」
自分が浮いてるのか歩いてるのかもわからない。
無だ。
そこは完全なる「無」の世界。
そう、これが・・・
無
なにもない
ない、ない、ない
ないないないないないないないないないないない・・・・
「こ、ここから出せ! 出せぇぇ!」
しかし、奴は言った。
《ダセトハナンダ?》
ここはどこでもない。
入口も出口もない。
だってこれがセカイなのだから。
すべて滅する。
滅した。
その後のセカイなのだから。
《ムダダ・・・》
頭の中でこだまする声が、オレにそう伝える。
《オマエハネガッタ・・・モウモドラナイ》
生き延びる
永遠に
永久に
この無に
クロに
オレは
一人で
永遠に
「あ・・あ・・あ・・・・・」
《エイエンニ》
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」