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第8話 「覚悟」




異世界に来てからそこそこの日数が経過している。



そういえば妹と兄は元気にしているだろうか。


俺には1歳年下の妹と2歳年上の兄がいる。


妹は俺の卒業した特化戦闘員育成学校の2期生だ。


間違いなく首席で卒業するだろうと言われている。


才色兼備の自慢の妹だ。


ただ優しすぎるが為に悪を分かっていない。


いつかとてつもなくヤバい何かに騙されるのではないかと心配だ。



兄については……思い出したくもない。



あいつら俺が死んだと知ったらどんな反応をするのだろうか。


きっと妹は泣いてくれるだろう。

泣いた後、きっと俺の屍を越えてくる。


あいつは天才だ。

俺が初めて認めた人間だ。



兄はきっと喜ぶだろう。


俺が消えたおかげで世界が壊しやすくなるから……。



まぁ、この世界を救ったら死ぬ前に戻れるからこんなこと考えても意味ないか。





○●○●○●○●○●○●○●○



退院した後、美乃と隼人を泊まっているホテルに呼び出した。


「飛空挺が納品されるまで3ヶ月もかかるらしい。まぁ、詳しくはよく分からんが整備とか色々あんのかね?それまでは自由行動ってことで」


「やったーーー!!」


美乃がめっちゃ喜んでる。

なんでかはなんとなく分かる。


「あ!そういえば……本城さん、飛空挺の運転ってどうするんですか?」


「あ?お前がするんだろ?さっさと免許取ってこいよ。3ヶ月もありゃなんとかなんだろ」


「はい!分かりました!」


おぉ!素直だな。

めっちゃ良い奴やんこいつ。

そんなキラキラした目で俺を見るな。


「ありがとな。助かる」


「はい!はーい!あたしが運転する!」


「美乃!命を粗末にしてはいけません!!」


ビシッと指と立てて説教してやった。


「どういうこと!!??」


いや、そういうことだよ。


「じゃあ僕、早速免許取りに行ってきます!」


「おう、よろしくな」


「じゃああたし、早速闘技場に行ってきます!」


「お、おう……」


やっぱりか。

めっちゃハマってるやん……。



ふぅ……。

とりあえずこれで1人になれたな。



俺がとる行動は決まっている。


隼人が言っていた魔族の村を半人半魔の子どもが大量に集まって襲ったって事件を解決しにいく。


1人でいく理由はただ一つ。

嫌な予感がするからだ。

俺の予感は大体当たる。


その魔族の村まではそう遠くない。


俺は魔法で動くバイクの様な見た目の乗り物を借りてその村まで急いで向かった。


嫌な予感がどんどん湧いてくる。


全身の毛穴から冷や汗が出てきた。

残酷な予感で熱くなっていく頭を冷やす為であろうか。


事件のあった村に着く頃には服に絞れてしまうほど汗が溜まっていた。



○●○●○●○●○●○●○●○



恐怖で声が出なかった。


夕焼けに染まる小さな村はただただ奇妙さしかない。


村の住人の死体と事件の解決にきたのであろうか?魔族の警察の死体が大量に転がっている。


その上を大人数の半人半魔の子どもがゆっくりと徘徊している。



まるでゾンビだ。



頭が真っ白になってしまい、それを眺めるしかできなかった。


すると徘徊している子どもの1人と目が合ってしまった。


目の焦点が合っていない。

知性もまるで感じなかった。


ただ悲観さだけは感じられた。


その子どもは大声を出しながら俺に突進してくる。


それを見た他の子どもも一斉に俺に向かって走ってきた。


なぜだろうか?

子ども達に既視感があった。


全速力で向かってくる子ども達から激しい殺意を感じた。


大声で言葉ではない音を出しながら走ってくる子ども達の声は


(早く殺してくれ)


そんな風に言っているような気がした。


「糞……戦うしかないのか……!」


子どもは皆、きっちりと訓練をした軍人程度には強かった。


しかし、その程度が50~60人集まった所で俺に敵うわけがない。


戦いながら既視感の理由が分かった。

人間の子どもとその辺にいるモンスターの合体したのがこの半人半魔なのだと。


きっと何かの実験体だ。


大きな闇を見てしまった。


絶対にやってはいけない領域に踏み込んでしまっている。


絶対に許さない!!!


許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない


怒りと悲しみで頭がまた真っ白になってしまった。



気がつくと半人半魔の子ども達全員を天国に送ってあげていた。


死体の海の上で声を出して泣いた。


殺した子ども達は皆、とても良い笑顔で死んでいる。


やっと死ねた、そんな満足感がその顔にしているのだろう。


こんな、こんなに可愛い小さな子どもの願望が……死ぬことだと……。


そんな悲しい現実が感情を爆発させる。


もう空は真っ暗だ。

俺の涙の数の方が夜空の星の数より多い気がした。



ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえてきた。


振り向くと10歳くらいの人間の小さな少年が死体の半人半魔の子どもの顔を見ては涙ぐんでいた。


その子どもは白いマントをしていた。


俺と目が合うと深々とお辞儀をしてきた。


「僕の友達を解放してくれてありがとうございます!」


子どもがこんなにしっかりしてるのに俺が泣きじゃくっててどうすんだ。


頭が冷静になった。


「ごめん。ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」


「うん、僕でいいなら……」


魔族にバレないように子どもを隠して自分のホテルの部屋に戻った。



○●○●○●○●○●○●○●○



さて、どうコミュニケーションを取ればいいんだ?


お互いにシャワーを浴びてベッドの上に2人で座っている。


白いマントの少年はもじもじしながら俺をチラチラ見ている。


いやー、子ども苦手なんだよなぁ……。

嫌いじゃないんだけどさ。


んーと……。

どう切り出せばいいんだろう。


「とりあえず名前教えてくれる?」


「あ、はい、本城烏丸って言います」


「黒いマントしてるけどもしかして異世界から来たとか?」


「はい、JOKERが実は僕でして……」


ん???

しっかりした少年だなこいつ。


立場が逆な気がするが……。


まぁ、いっか!


少年から洗いざらい聞き出されたし教えてくれた。


名前は田中楓くん。

10歳で小学4年生。


人間の街で暮らしてたら研究所みたいな所に拉致された。

ギフトを駆使して逃げ出して、あの村にたどり着いた。

魔族の村なのに人間の楓を優しく匿ってくれた。

数日後、半人半魔の子ども達が村を襲撃してきた。

その子どもは研究所で一緒になった友達だった。

俺が来るまでずっと恐怖で家に引きこもっていた。


ふーん。

なるほどね。


「いっぱいお話ししたら疲れちゃった!もう寝るね!おやすみ!」


「おう、おやすみなさい」



違和感がある。

こんなに可愛い小さな少年がこんな状況なのに気丈に振る舞っている。

強がっているのは間違いないだろう。

まだまだ小学4年生だ。

お母さんに今すぐにでも抱き締めてほしいだろう。

お父さんにこんな状況を助けてほしいと願っているだろう。


きっとこの異世界を1人で生き延びる覚悟を決めたのだろう。


この異世界に来てから数週間は毎日泣いていたのだと思う。

人間側が勝つまではなんとかして生き延びる。

そんな覚悟が楓をここまで強がりにしてしまったのだと思う。


こんな小さな少年がそんな悲しい覚悟をして、強がりをしなければいけないなんて残酷すぎないか?


そんなの俺は許容できない。

許容したくない。


この異世界を楽しい思い出って言えるレベルで生きていてほしい。


ごめんな楓。

頑張ってしたその覚悟。

折るよ。


「なー楓」


「なに?」


「泣きたいときは泣いてもいいんだぜ」



楓は布団から飛び起きて俺の胸で力一杯泣いてくれた。


そんな楓を抱き締めながら決意を口にする。



「楓、俺がお前を救ってやるからな」















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