第7話 「自己犠牲」
人間は美しく醜い生き物だ。
傲慢であり、謙虚でもある。
優しくもあり、怖くもある。
強くもあり、弱くもある。
正義であり、悪でもある。
人間全員が欠点の1つもなかったとしたらどうだろうか。
そんな世界、考えただけでも気持ち悪くてしょうがない。
少し駄目な部分、悪い所があるくらいが人間味があって心地良いと思う。
だから……
美しく、醜くても良いのだ。
人間は自己中心的だ。
それはそうだ。
結局のところ自分中心に世界は回っているのだから。
例を挙げよう。
不運にも異国で拉致された人が、国に対して要求を飲ませる為の人質にされ、跪かされている動画を見たことがあると思う。
あれを見てどう思っただろうか。
可哀想だな。
そんなところ行くからだろ、ざまぁみろ。
酷い拷問とかされてるのかな?
そんなもんだと思う。
しかし、その人質が親友だったら?恋人だったら?家族だったら?
簡単には想像がつかない程に辛いだろう。
結局は他人事なんだ。
でもそれでいいと思う。
他人事は他人事と割りきってしまっても。
毎日毎日ニュースではたくさんの不幸や不運な情報を流している。
それを全て自分の事のように共感して、受け止めていったらどうなってしまうだろうか。
数日で精神がおかしくなるだろう。
他人事って心理もさ、しょーがないのは分かるけどさぁ……。
「コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!」
これはドが過ぎるんじゃない?
絶対こいつら俺が知り合いだったらこんな楽しげに合唱してないよな?
他人事怖いわぁ……マジで怖い。
前の世界でもマジで昔はこんなことやってたんでしょ?
……人間って闇深いよな。
○●○●○●○●○●○●○●○
ひとしきり覚悟をした為、頭は冷静だ。
今の状況を整理すると、隼人を殺さないでも済むように残忍な様を見たがっているコロシアムの観客と国王を満足させてやればいい。
うん。いけそうだな。
あのヨボヨボの爺さん次第ではあるが。
国王の近くまで歩いて近づいた。
国王は孫の運動会に見に来た優しいお爺ちゃんのような顔でこちらを見ている。
お?もしかして楽勝か?
コロシアムの皆に聞こえるように大きな声を張り上げる。
「国王!俺はあいつを殺せない!ルールでは殺せなかったら2人とも銃殺になるのも知っている!それも絶対に嫌だ!」
言った瞬間にコロシアムが冷めた。
は?つまんな?さっさと死ねや。
そんな声を耳が拾った。
知ってる。大丈夫だ。安心しろ。
「それだと観客が満足しないのも分かってる!だから提案がある!俺が自分に国王や観客が満足するような自傷行為をしよう!普通にあいつを殺して終わりよりもグロくて楽しいと思うぞ!」
国王が立ち上がった。
心臓がはち切れそうだ。
国王がそんなの認めないと言ったら俺は撃ち殺される。
国王の次の行動に命が委ねられる。
すると国王は孫の授業参観で孫が作文を読み終わった後のような優しい拍手をした。
観客も国王には逆らえないのかつられて拍手する。
ふぅ……。
とりあえず死なずに済んだ。
ひとまず心が落ち着いたな。
あとは国王がどんな提案をしてくるかだな。
あの国王の様子だと大したことは言ってこなそうだが。
国王は孫の誕生日に何を買ってあげるか迷っている優しいお爺ちゃんのように悩んでいる。
ポンと手を叩くと横にいる実況者からマイクを受け取った。
「とりあえず手の指を全部折ってくれるかい?」
国王は実況者にマイクを返すと実況者が国王にツッコみを入れた。
「とりあえず指全部折れってとりあえずの範疇を超えてますよぉ〜〜!!」
ドッとコロシアムが笑いに包まれた。
こいつらめちゃくちゃだ。
集団の怖さなのだろうか。
皆がこの状況を見て楽しんでいる。
心のなかではいけないことだと分かっているのだろう。
しかし皆がダメとは言わずにいるからそれに流され楽しんでいる。
赤信号、みんなで渡れば怖くない。
集団の怖さを表した良くできた言葉だ。
指全部かぁ……。
ふぅ……。
その程度の覚悟はある。
やってやるよ。
俺を舐めるんじゃねーぞ。
俺はコロシアムの観客全員に見えるように腕を上に挙げた。
そして一本一本折っていく。
自己犠牲が俺の人生だと。
頭のなかで何度も何度も唱えながら。
「国王、全て折りましたよ。次は何ですか?」
痛みで意識が薄れながらも国王に問う。
国王は孫から肩たたき券をもらったときのような満面の笑みだった。
実況者からマイクを受け取ると少し考えたあと楽しげに言った。
「角を引っこ抜いて太ももに刺してもらえるかな?」
なんだよこのクソジジイ。
もう意識が飛びそうになっていたため勢いでやるしかなかった。
俺は気合いで角をへし折り太ももにそのままの勢いでぶっ刺した。
悲鳴が聞こえる。
嘔吐する音も聞こえてきた。
「やりましたよ!次は!」
国王はまだ笑っていた。
実況者からマイクを受け取ると興奮気味に話し出す。
「片目をくり抜いてそれを食べて味の感想を教えてくれるかい?」
「いやいや!アメじゃないんですから!味の感想は可笑しいですよ!!」
実況者がツッコミを入れた。
しかしコロシアムは静まり返っている。
俺を直視している人はほとんどいなかった。
ふっ。観客のグロ耐性もまだまだだな。
勢いでやらないともう意識が消えかけている。
俺は目をくり抜いてそのまま口に放り込んだ。
もうダメだ。
意識が飛ぶ。
味なんか感じれるわけがないだろ。
俺は今出せる力を全て使って声を出した。
「めっちゃうまい!」
そのまま意識がぶっ飛んだ。
●○●○●○●○●○●○●○●
目が覚めると病院にいた。
体の痛みはなく折った指も角も元通りになっていた。
あ……。
目は……再生してくれなかったか。
まぁ、しゃーなしか……。
病室を見渡すと超高級なのは間違いないと思われる部屋だ。
「あ!起きたのですね」
ナース服の魔族が声をかけてきた。
そのナースが色々教えてくれた。
気絶してから10日間の日数が経ったこと。
国王が高級な病院で最高級の魔法治療を無償で施してくれたこと。
隼人も無事だということ。
ふぅ……。
片目を失っただけであいつの命を救えたなら安いもんだったな。
そのナースと喋っていると隼人と美乃が病室に飛び込んできた。
入室して早々、隼人が土下座をしてきた。
「すみません!!!!!ありがとうございました!!!!!」
「うるせーよ、お前……。ここ病院だぞ……。あとお前これからは俺の言うことに従えよ」
「ハイ!!!!」
だからうるさいって………。
「うるさいよ!隼人くん!!病院では静かにしなきゃダメ!!!」
「……美乃。お前もうるせーよ……」
隼人がキラキラした瞳で俺を見てきている。
そういや前の世界でもこんな目で俺を見てたなこいつ。
「……本城さん!!これからも本城さんを目標に頑張ります!」
ちょっと勝てるかもって思っただけであんだけイキってた癖になんだよこいつまじで……。
「でも隼人くん凄いね!ジョーカーをあんなにボロボロにしちゃうんだもん!もうちょいで勝てたんじゃない?」
???
「いや、美乃さん。僕は本城さんに傷一つ付けられなかったですよ?」
「じゃあ何であんなにボロボロだったの?」
「美乃お前ぇ……。寝てたろ?」
「はぁ!!??起きてたし!!まばたきすらしてないし!!!」
顔真っ赤にして怒らんでもええやん。
分かりやすいな本当に。
「よ、美乃さん……。病院では静かにしてください……」
???
あ……。
何か違和感あると思ったらこれか。
「隼人、何でお前美乃に敬語使ってんだよ?」
「いや〜〜……。こんだけ美人さんだと僕なんかより圧倒的に生命体として格上じゃないですか〜〜」
ほーん。
そういう基準もあるのね。
てかなにデレデレしてんだよこいつ。
ふぅ……。
まぁ、何はともあれ上手くいったか。
「おい隼人、お前軍作る為にお金貯めてたんだろ?どれだけ貯まった?」
「えーと……300億円くらいですかね?」
「えーーー!!!!ハーゲンダッツめっちゃ食べれるじゃん!!!」
確かにめっちゃ食べれるな。
「まー、賞金の金額からしてそんくらいは貯まってると思ってたわ」
「どう使うつもりなんですか?」
「やっぱり足がないとどこ行くにしても不便だろ?それでだ、290億円で飛空挺が売ってんだよ。空飛ぶ家みたいなでっかいのがな」
「流石本城さん!!それならどこでも行きたい放題ですね!!」
「あとはどこへ向かうかだが……。隼人、何か嫌な噂とかって聞いたりしたか?」
「………あー。一つ怖い話を聞きました。なんだか本城さんみたいな半人半魔の子どもが大量に集まって魔族の村を襲った事件があったみたいです」
うわぁ……。嫌な話だなぁ……。
きっとマント持ちの仕業だろうな。
「飛空挺買ったらそれでその村まで行くとするか」
「はい!」
とりあえず次の行動が決まったか。
やっぱり金って大事だな。
金の力って凄いわ。
話が終わったと見るやいなや美乃が興奮しながら喋ってきた。
「まだ10億円余ってるじゃん!今日は美味しいもの食べに行こうよ!!!」
まぁ、色々あったしな。
今後もたくさんの嫌な出来事があるだろう。
心身ともに死にたくなるようなレベルで嫌なことが……。
息抜きも大事だよな。
ここは美乃にのってやるか。
「よっしゃ!じゃあこの街で1番高級な店で1番高いもの食いに行くか!」
大声で高らかに宣言した。
「イエーイ!!!」
美乃が嬉しさのあまりに吠えた。
「本城さんと飯が食えるぞーーー!!!」
隼人が点を決めたサッカー選手見たいに喜んだ。
「静かにしてください!!!!!!!」
あ、ごめんなさい。
ナースに怒られてしまった。
怒られても尚、幸せな気分で胸がいっぱいだった。
「フフッ」
ちょっと笑ってしまった。
「あ!!ジョーカー笑った!!!怒られてるのに!!!いけないんだーーー!!!」
「だから静かにしてくださいと……」
ナースが呆れていた。
うん。笑ったな、確かに俺。
また笑ったと美乃に指摘されてしまった。
この異世界に来て笑ったのは2度目だ。
俺の人生では10度目くらいであろうか?
自己犠牲が俺の人生だ。
皆が笑うために俺は泣かなくてはならない。
幸せな気分になると罪悪感が襲ってくる。
俺が幸せな気分になっているせいで泣いている人が生まれてしまったのではないかと。
そんなことはありえないのは分かっているのに。
そんな悪癖がこの異世界での旅で治るかもしれない。
そんなことをふと思った。