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第6話 「俺の人生」



俺は人を見下すのが好きだ


カスを殴るのが好きだ。

雑魚を嘲笑うのが好きだ。

馬鹿をバカにするのが好きだ。

ゴミを凪ぎ払うのが好きだ。

屑を蹴落とすのが好きだ。


性格が悪いと思うよね。

俺もそう思う。


きっと努力し過ぎた結果なのだろう。


他の人がダラダラと寝ている間、

俺は勉強した。

他の人が恋人と遊んでいる間、

俺は血反吐を吐きながら訓練した。


他の人が人生を楽しんでいる間、

俺は死ぬ気で努力してきた。


そして誰よりも強くなった。


そんな人生を送ってきた結果、実際に他の人がカス、雑魚、馬鹿、ゴミ、屑に見えてしまうようになってしまった。


下にあるものを見上げることはできない。

下にあるなら見下すしかない。


周りを見下すことのできる努力をした自分を誇りに思う。


しかし、見下しているだけではいけない。


上の立場は下の立場を正しく導かなければならない。

守らなければならない。

大事にしなくてはならない。


見下してはいるけど嫌いではない。


笑顔で遊んでいる皆が好きだ。

恋人と楽しんでいる皆が好きだ。

人生を謳歌している皆が好きだ。


自分が出来なかったことを……

これからも出来ないであろうことをしている皆が妬ましい。


妬ましいほどに美しい。


ずっと笑顔でいてほしい。


皆が笑顔を絶やさないために辛い部分は俺が背負ってやる。


皆が笑うために俺は泣こう。


その為の今までの努力だったんだ。



「自己犠牲が俺の人生だ!!!」



よし、覚悟が決まった。


地獄のような辛い行動を取るのに必要な覚悟をするのにこんなに時間がかかるなんて。


俺もまだまだみたいだ。


「……な、何を……するつもりです……か?」


今にも意識を失いそうなほどボロボロな隼人が俺に問う。


ごめんな。隼人。

お前を絶対に救ってやるからな。


「俺の生き様!よく見とけよ!」


ふぅ……。

覚悟が決まっちまえばこっちのもんだな。



数時間前はこんなことになるなんて思ってもなかったよマジで。




●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○



「ここがコロシアム!?すっごい人だね!」


「そうだな。あれ?もう第1試合始まってんのか」


美乃がぴょんぴょん跳ねながら楽しそうにしている。

ちょっとしたお祭り気分なのだろうか。


「ハヤトだっけ?ジョーカーなら余裕っしょ!」


「余裕だな。楽しみにしとけ」


隼人とは幾度となく戦ってきたが負けたことは一度としてない。

正直、負けるビジョンが見えない。

あいつのギフトだけが気がかりではあるが。


「俺が出るのは最終試合の第5試合だからな。ちょっとアップしてくるからそれまで美乃は適当に試合とか見て待っててくれ」


「え?なんか言った?」


美乃がうざそうに言ってきた。


もう試合に熱中してたのかよ……。




●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○



出場者に用意されているという楽屋に行く途中、隼人が部屋の前で突っ立っていた。


「おう、ジョーカー!偶然だな。怖じ気づいて来ないと思ったぜ」


「偶然もなにも……ここ角部屋なんだが?しかも俺の部屋の前やん」


「偶然だな!!」


迫真の表情で言ってきた。

いや、もう分かったよ。偶然だな、偶然。


「で、なに?」


「単刀直入に言う。今回の決闘でギフトの使用は禁止にしないか?」


「は?」


「お前ジョーカーなんだろ?最強のギフトってのを使えるはずだ」


「だからなんだよ」


「いや、俺今さ、ギフトが調子悪くて使えねーんだよ」


ギフトに調子も糞もあるのかよ


「それでさフェアに決闘したいじゃん?だからギフトは禁止ってことで!じゃあな!」


「ちょ、待てよ!ギフ……」


行っちゃった。

なんだよあいつ。

怪しすぎんだろ。


まぁ、別に俺もギフトを使うつもりはない。

今も、これからもずっと。


しかしなんでギフト使えない癖に俺に決闘を挑んできたんだ?

魔族の強靭な体を手に入れて勝てると思い込んでいるのか?


まぁ、いいか。

なんにせよ不安材料であったギフトが解決した。


もう決闘は勝ったも同然だな。


あいつの蓄えた金どう使ってやろうか。





●○●○●○●○●○●○●○



「ハヤト選手入場!!!!」


腹から音が出ている全力の声だ。


続けざまに地鳴りのような声援がコロシアム内を爆発させる。


「ハ・ヤ・ト!ハ・ヤ・ト!ハ・ヤ・ト!」


人気あるなぁ……。


何万人ものハヤトコールは聞いていて圧巻だ。


「えー……。続いてはジョーカー選手の入場です……」


声小せぇ……。

小鳥のさえずりかよ。


「ジョ・オ・カ!ジョ・オ・カ!ジョ・オ・カ!」


美乃の声が聞こえてきた。


その声援の仕方は複数人でやるからこそだぞ。

1人でやっても変なだけだ。


まぁ、声援も0か1かでは大違いだな。

ありがとね。



ゴングがコロシアムに響き渡る。



「烏丸……お前をぶっ倒すのが俺の人生の目標だった。今日達成してやる」


「それがお前が俺に発する最後のタメ口だ」


向かい合った瞬間、唐突に実況が声を張り上げる。


「なんと!1年ぶりに国王が観戦しにいらっしゃいました!」


会場がこれ以上ないほどに沸き立った。

すげーな。国王さん人気者だな。

あのヨボヨボの爺さんか。


「国王がいらっしゃったということはご存じの通りルール変更です!」


え?


「どちらかがギブアップするか失神するかで勝敗を競うルールでしたが……」


「どちらかが死ぬまで決闘は終わりません!相手を同情などで殺せなかった場合は双方を銃殺します!」


会場のボルテージが最高潮に達した。


最悪だ。

何だよ……そのルール……。


恐怖と憎悪で体が強張る。

鳥肌で全身の毛が逆立っていた。


2人の内、どちらか一方が死ぬのは確定じゃねーか。


俺は死にたくねーし、こいつも殺したくねーよ。


ハヤトの方を見ると、半分もう泣いていた。

すると、地面を1発殴った後、天空を見上げる。

次に俺の顔を見たときには覚悟が決まった顔をしていた。


そうか、俺を殺すつもりか。


でも俺はお前を殺さない。

俺も死なない。

きっといい方法があるはずだ。

まだ思い浮かばないけど。


何か、何かいい方法は……。

考えているとハヤトが俺に襲いかかってきた。


あぁ……。

やっぱりこいつは如月隼人だ。

魔族の体によって少しは強くはなっているが。

何千回と戦ってきて1度も俺を倒したことがない。

その程度の力が増しただけでは俺との差は埋まらない。


前の世界同様に隼人を完膚なきまでに殴り倒した。


隼人は悔しそうだった。

血と砂まみれの体を起こし、また天空を見上げた。


向き直ると隼人はより一層覚悟を決めた表情をしている。


「本城さん。すみません。僕、ギフトを使います。今まで本当にありがとうございました」


隼人はなぜか着けていたグローブと靴を脱ぎ捨て、全身に力を入れると体が赤く染まりだした。


その赤さを見ていると本能が騒いだ。

こいつに触ってはいけないと。


隼人が素足で踏んでいる地面の草が一瞬にして腐った。


隼人のギフトが想像ついた。

触った相手を即死させる能力だろう。


だからこいつギフトは使わないって言ってきたんだな。


しかし皮肉なものだ。

ギフトですら俺の劣化版だ。

ギフトですら俺には勝てないんだ。


俺は隼人のギフトが分かった瞬間に涙が溢れてしまった。


今後起きるであろう未来が想定されてしまったからだ。


ごめんな、隼人。


そのギフトを使ったとしてもさ。

俺との差は埋まらねーんだ。


服だけを殴らなければいけない。

触れられてはいけない。


そんなハンデがあっても隼人は俺には敵わない。


俺は隼人に触れられないように攻撃を避けながら服だけを殴りまくった。


もう起き上がれないほどに。


「コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!」


会場に残酷なコールが響き渡る。


隼人はボロボロの体でうつ伏せに倒れながら、もう使いきったであろう力を振り絞り声を出した。


「ほ、本城さん……。僕の敗けです。殺して……下さい」


声が震えていた。

顔も恐怖で固まっている。

覚悟が決まっていないのだろう。

そらそうだ。

死ぬ覚悟なんてそんな数分で出来るわけがない。


こんな隼人は見たくはなかった。

俺がこの街に来なかったらこんな思いしなくて済んだのにな。


「ごめんな。隼人」


こんな隼人を殺すなんて絶対にしない。

俺も死にたくない。



さて、どうするか。


そもそも何でこいつらは殺しが見たいんだ?

非現実感が楽しいのか?

グロいのが好きなのか?


そうだな。

人が苦しむ様、死ぬ様を見るのが皆大好きなんだろうな。


こっちの世界も、前の世界も。


皆、表では善人ぶってるけど結局は偽善者なんだ。

人の不幸は蜜の味って言葉もあるくらいだしね。

しょうがない、それが人間ってもんだ。


要はそういった欲を満たしたいからこいつらはこんな残酷なルールを楽しんでいるんだ。


そうだ!

その欲を満たしてやればこいつらも満足してくれるんじゃないか?


ああ……。

いい方法が思い付いてしまった。

うわ、スゲー嫌だなこれ。


ふぅ……。

しゃーない。

覚悟を決めるか……。


その決めた覚悟の大きさに匹敵する大きな声を張り上げる。





「自己犠牲が俺の人生だ!!!」
















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