第4話 「本城烏丸とは」
あー疲れた。
この魔族重すぎんだろマジで。
この後どうしようかと考えながらとりあえず2人を抱えながら村から離れて歩いていた。
異世界に来てから疲れてばかりな気がする。
俺はずっと宙ぶらりんだ。
だってしょうがないだろ。
異世界に来てから初めて能動的に動いているんだ。
俺の人生はずっと与えられていた試練を乗り越えてきただけだ。
ずっとずっとただ強くなれと願われ、それに応えて努力してきただけだ。
「クソ!!」
やっと願いに応えられたのに!
頑張って強くなったのに!
何で死ななきゃならないんだ!
いけない。
頭に血が昇ってしまった。
駄目だ。
冷静にならないと。
ふぅ。
とりあえず頭を整理するために今の状況をまとめてみるか。
美乃は身体が少し傷付いているが軽く治療すれば問題は無さそうだな。
ケモ耳状態のままスヤスヤ寝ている。
赤いマントの魔族は片目をぶっ刺されたショックで気絶しているだけだろうか。
まずいな。
いつ起き上がってきてもおかしくはないだろう。
次にとる行動としては……。
美乃の今の見た目は魔族だ。行くとしたら魔族の村しかないだろう。
この赤いマントの魔族なら近くにある自分が過ごしていた魔族の村を知っているはずだ。
その場所を聞き出して美乃をさっさと治療しないとな。
しかしまぁ素直に俺の言うことを聞くとは思わない。
目をぶっ刺した張本人だしね。
どうにか聞き出せないものだろうか。
頭を捻る。
あーこれかな。
いい方法が思い付いた。
ちょっと手荒かもしれないが許してくれ。
とりあえず美乃だけを木陰に起きないように寝かせた。
次は魔族だけを抱えて少し離れたところに移動させるか……。
それにしてもこいつデカいだけで弱かったな。
そういえば何で美乃はこんな雑魚に負けたのだろうか。
ポテンシャルでいえば確実に美乃のケモ耳状態の方が強いはずだ。
美乃とこいつの戦闘がどんな感じだったのか気になるな。
魔族を抱えながら魔族の身体がどんな状態か確認した。
あーなるほどね。
数ヶ所ある堅そうな鱗の部分に引っ掻き傷のようなものがある。
なに堅そうな所ばっかり引っ掻いてんねんこいつ。
でもまぁ、気持ちは分かる。
目とか金玉とかを攻撃するのは素人にはなかなか勇気のいる行動だろう。
元はただの女の子だしね。
もったいねぇな。
ポテンシャルは高いのに。
ふぅ、ここでいいかな。
美乃から少し離れたところで一息ついた。
「よし!」
試されるのは演技力だ。
気合いを入れていこう。
全力の怒り顔を作った後、魔族を岩にぶん投げる。
「グハァ!!!」
魔族が痛みで眠りから覚めた。
体を捩りながら痛みを堪えている。
すると全力の怒り顔の俺と目が合った。
「てめぇ!ふざけんじゃねーぞ!」
魔族が吠える。
「こっちのセリフじゃ!ボケ!」
俺は魔族の潰した片目をぶん殴った。
「あ゛!!!」
悲痛な叫びだ。
そら痛いだろうよ。
潰された目を殴られたこと無いから分からないけどさ。
演技を続けるか。
「俺は魔族側に付いたんだよ!その方が勝率高そうだからな!」
ビクビクしながら話を聞いてくれているようだ。
もう一度潰れた目をぶん殴る。
「!!!!!」
声が出ていない。
言葉にならない痛みなのであろうか。
よし、続けるか。
「せっかく人間の村に忍び込んで情報収集してたのに何で村をぶっ壊しやがった!!」
魔族は涙を流しながら震えている。
こいつ涙もろいな。
「俺のギフトは何でもありだ。これから千里眼でお前を見張って、次に馬鹿な行動したら即死能力で殺すからな?」
魔族は涙ながらに顔を縦に振っている。
この感じなら質問に答えてくれるだろ。
もう一度潰れた目を殴ってから尋ねるか。
痛いだろうが我慢してくれ。
渾身の力で同じところを殴る。
「ウゲ!!!!!」
「お前が暮らしてた魔族の村はどこだよ」
素直に魔族は震える手で大きな木を指差した。
遠くにあるのに近くにあるかのように見える。
前の世界じゃありえないくらいデカい木だ。
魔族の村の場所を知れて良かった。
もうこいつは用済みだな。
最後にもう一度潰れた目を殴ってから恫喝する。
「お前もうどっかの小さな村で大人しくしてろ!その村から出たら殺す!」
魔族はその言葉を聞いた後、ダッシュで逃げていった。
流石にやっぱ可哀想だったな。
多分トラウマだろう。
まあしゃーなし。
聞きたいことは知れたし。
あいつももう悪さはしないだろう。
「こっわ……引くわぁ〜……」
美乃が少し離れた木に隠れながらジト目で言ってきた。
こいつ命の恩人に対して引くなよ。
しかしまぁ、よく起きれたな。
「体調は大丈夫か?」
「え?全然大丈夫だよ!」
ボディビルダーのような動きで元気さをアピールしてきた。
しかし体はボロボロだ。
空元気なのは間違いない。
俺を心配させまいとしてくれているのだろうか。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫!って言ってるじゃん!」
膨れっ面で言ってきた。
まぁ、それはそれとして。
「俺は魔族の村の場所聞けたからそこへ向かうけどお前は来るか?」
「え?魔族の村?あたし人間だけど?」
「その耳はずっと生やしとけ」
「あーそういうことね!りょーかい!」
相変わらずノリが軽いな……。
美乃はこっちに向かって歩いてきた。
やっぱり体が痛いのか顔が歪んでしまう。
「お前無理すんな」
「無理なんかしてないよ!」
「顔と体が見りゃそのくらい分かるからな?」
「え?なにジロジロ見てんの?このエロ角!」
美乃は楽しそうに俺を馬鹿にしてきた。
こいつぅ……。
エロ角は言い過ぎだろ。
この角、結構気に入ってるんだぞ。
「俺はお前のことを思って言ってやったんだぞ?」
「なになに?!あたしのこと好きになっちゃったの?!それは無理です。本当にごめんなさい」
告白してないのに振られた。
美人に振られるのって結構ダメージ高いな。
これからの人生で告白するならブスだけにしようと心に誓いました。
美乃は楽しそうに笑っていたが不意に真面目な顔になる。
「ありがとね」
声は小さかったが聞き取れた。
美乃の顔は真っ赤だ。
本来は1番最初に言うべき言葉なんだけどな。
ん〜。
少し意地悪してやるか。
「なんだよ聞こえねーよ。さっきまでの威勢はどうした?」
「うるさい!バカ!!!」
さっきの声の100倍の大きさの声で言ってきた。
なんなんだよこいつ……。
なんだか笑いが込み上げてくる。
「あはは!お前ってマジでよく分かんねーな!」
何故か真面目腐った顔でこっちを見つめてきた。
こわ!なに!?
「やっと笑ってくれたね」
え?それ狙い?
もしかして全てが計算の内なのか!?
怖い!女の子怖い!
「やめろよ、恥ずかしい」
「うわ!ジョーカー顔真っ赤!きも!」
腹立つわぁ〜。
結構みんな人に対して気持ち悪いって言葉を使うけどスゲー失礼だよな。
しかしまぁ、俺、笑ったよな。
気が付くと心が軽くなっている。
前にも感じた感覚だ。
きっと美乃はそういう力の持ち主なのだろう。
美乃を優しい目で見つめて言う。
「おぶってやるから行くぞ」
「ボディータッチはNGです」
「そっかじゃあ行くぞ」
俺はさっさと歩き始めた。
「うそうそ!ごめん!おぶってぇ〜!」
泣きべそ顔で叫んできた。
やっぱりこいつよく分からん。
●○●○●○●○●○●○●○
夜空の星が明るく俺らを照らしている。
その人工物でないイルミネーションは2人の時間をゆっくりと見守っていた。
2人にゆったりとした時間が流れる。
こいつにならぶっちゃけてもいいかな。
「美乃……俺な、ずっと宙ぶらりんなんだ」
「うん」
いつもの茶化した声ではない。
きっと色々と察してくれたのだろう。
やっぱりいい奴なんだな。
「人間も魔族も転生した奴等も全員救いたい、でもその方法が分からない」
弱々しい声が出てくる。
「俺は無力だ。何も自分では考えられない。ただの戦闘ロボットだ」
人生で最も悲観に満ち溢れた声が出てしまった。
そう。
俺の人生は常にレールの上だ。
「そんなことないよ。ちゃんと皆を救いたいって考えてるもん」
優しい声だ。
心に染み渡る。
「全員救うには人間も魔族も仲良くさせなきゃね」
楽観的だ。
これ以上ないほどに。
それは無理だ。
人間と魔族の決裂は尋常ではない。
人間も魔族もどちらも悪ではない。
しかし、何百年も積み上げられてしまった憎悪はもう取り返しの付かない段階だ。
もうその溝を埋めるなど不可能だ。
「そうすれば人間側も魔族側も勝利ってことで皆で生き返れるね」
「それは無理だ」
冷たい声で言ってしまう。
酷い返しをしてしまったと美乃の顔を見た。
美乃は優しい顔だった。
目が合うと俺を諭すように声をかける。
「決め付けちゃだめ。きっとジョーカーならできるよ」
あぁ、そうだった。
体が燃えてくる。
こんな弱音を吐くのは俺ではない。
努力できない他人を見下し、いつも上から物を見るのが俺だ!
今までも幾つも不可能と思えた苦難を乗り越えてきたではないか!
俺は誰よりも強い!
俺は誰よりも努力してきた!
俺は誰だ。
俺は……
俺は!本城烏丸だ!
絶対に実現させる目標が決まった。
とりあえず美乃に宣言しておこう。
「俺が人間側と魔族側を和解させ、両方の勝利ってことでこの物語を完結させてやる」
○●○●○●○●○●○
まだデカい木までは遠いな。
この辺で一晩明かすか。
火を起こして美乃と寝る準備をする。
「野宿なんて初めてだよー!」
美乃は楽しげにしている。
きっと生きてて楽しいだろうな。
寝る準備が整い二人で横になった。
美乃が深呼吸をしている。
どこか緊張した面持ちだ。
数分後、意を決したのか俺に声をかける。
「えーと、あの〜……言いたくないならいいんだけどさ、なんでジョーカーは生き返りたいって思ったの?」
そら緊張もするか。
その質問は結構なレベルで地雷の可能性高いからな。
そういった気遣いも出来るこの娘はやはり優しいと断言できる。
こいつになら、まぁ……言ってもいいか。
「お前さ、特化戦闘員育成学校って知ってる?」
「あ!知ってるよ!あのニュースでめちゃくちゃ話題になったやつでしょ?」
「あーそれそれ」
「確かその学校って3歳の孤児を10000人も集めて今度起きる戦争に向けて強くするために育てるって感じだったよね?」
「あーうんうん」
「18歳までめっちゃ大変な訓練させて、めっちゃ厳しいふるいに掛けて、確か今年に卒業する1期生は10人だったとか!」
めっちゃ喋るやんこいつ。
おかげで説明の手間が省けたわ。
「俺、その卒業生の首席な」
「えーーー!!!!!」
めっちゃビックリするやん。
まー、結構色々な意味で話題になったしな。
「よく10人に残ったね!」
すごーいと手をパチパチしてくれる。
「皆スタートは一緒だろ?俺はただセンスがあったのと、人一倍訓練を頑張ってしてたってだけだよ」
「なんでそんなに頑張ったの?」
美乃が首をかしげながら聞いてくる。
そういやあんまり考えたことなかったな。
「まーあれだ、誰よりも上に立ちたいってプライドかもな」
「やるじゃん!よく頑張ったな!」
例のプライドが傷付くんですが。
ただ強くなる。
そのために生きてきた。
洗脳がどうとか人権がどうとかよく言われてきた。
言わんとすることは分かる。
でも俺らにはそれしか人生において無かったんだ。
俺の人生に悔いなど1つもない。
美乃はそういうことを言ってこないでただ称賛してくれる。
気を使ってくれてるんだろうな。
「そういえばちょーど卒業式の日に地震があったよね?」
「?。あーそうだな」
「他の9人は無事かな?」
「がっつり天井剥がれてたからなぁ、考えたくはないがもしかしたら死んでるかもな」
「もしさ、死んじゃったとしたらさ、死にたくない!!って思うよね?」
「?、まーそうだろうな。必死に訓練して卒業までこぎ着けたんだから」
「てことはもしかしたら……」
ああ、なるほどね。
もしもあいつらがあの時に死んだとしたならば確実にこっちに来てるな。
あいつらはめちゃくちゃ強い。
なんつったって10000人の中で10人しか卒業できなかった学校の生き残りだ。
こっちに転生しているかもしれない。
それは朗報でもあるし、悲報でもある。
俺の目標の手助けをしてくれるとしたら相当役に立つだろう。
でももしもだ。
敵になったとしたら厄介だな。
「用心しろよ」
真面目に言った。
「うん」
大真面目に返事が帰ってくる。
「とりあえず今日はもう寝ようぜ」
「そうだね、おやすみ!」
今日はいい夢が見れそうだ。
目標が決まっていい気分だし。
弱気な俺とはこれでおさらば。
いつもの俺に戻れそうだ。
朝は希望を持って目覚め。
昼は懸命に働き。
夜は感謝を持って眠る。
これからはそれができそうだ。
武者震いがする。
見てろ。
俺がこの世界を変えてやる。