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第3話 「誓い」


「美乃まだかよ、おっせぇーな…」


カビ臭い地下の牢屋に暇潰しのアイテムなどあるはずもない。

今の体なら出ようと思えば直ぐに出れるような細い鉄格子がとても可愛らしく見える。

俺のギフトってなんだろうなぁ。

暇になるとそんなことばかりが頭をよぎる。

最強のギフトかぁ〜。不老不死とかかな?それとも能力のコピーとか?ん〜時間を操るとか!

色々な妄想が広がり結構楽しい時間だ。


汚いベットの上で寝そべってからもう2時間くらいは経過したのだろうか。


宿主のおっさんに半人半魔の姿を見られ、直ぐに警備隊が駆けつけた。

間違いなく抵抗すれば難なく逃げられただろう。

しかし抵抗したら少しだけ宿の手伝いをするだけで1ヶ月も住まわせてくれた優しい宿主のおっさんの大事な宿が傷付いてしまうかもしれない。

それはダメだ。絶対に。

あとはまぁ、村から逃げたら美乃にもう会えなくなっちまうかもしれないしな。あいつならここまで会いに来てくれるだろ。

美乃が今後どうするかとかも知りたいしな。

そういった意図があって抵抗の意思がないと示し、この汚い牢屋まで連れてこられた。


ぼけぇ……と時間が過ぎるのを待ち続けた。

静かな場所だ。何の物音もしない。

少し雑音がある方が落ち着くよな。


「カサカサカサカサ」


この世で最も落ち着かない雑音がする。

あーね、多分あいつよね。

動機と冷や汗が止まらない。しかし存在を確認しなければ余計怖い。


「カサカサカサカサ」

「キャアアアアアアアアアアアアア!!!!」


女々しい悲鳴をあげてしまった。

だってしょうがないじゃん。苦手なんだもん。

ゴキブリだけは本当に駄目だ。

苦手とか駄目とかの言葉では表しきれない、それくらいもうヤバい。


ゴキブリはこちらにジリジリと近付いてくる。

この俺に対抗手段などない。潰すなんて気持ち悪過ぎて俺には絶対に無理だ。

残されたできることは神頼みだけだ。

全身全霊を込めて神に願う。


この世から消え失せろ。絶滅しろ。一生俺の前に現れるな。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね


願いは神に伝わった。

ゴキブリは唐突に死んでしまった。


「おー神様!たまには仕事するやん!」


死体をどう処理しようかと考えていると新たな刺客が現れる。


「カサカサカサカサカサカサ」


「地獄かな?」


俺にはこれしかできることはない。

神様に今一度懇願する。


こいつを殺してくれ!!!!!

ゴキブリ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!


ゴキブリは死んだ。


喜びより疑念が上回る。

流石に変だよな?1匹ならまだしも2匹目も願った瞬間に死にやがった。

まさか、いや、まさかね。


"殺したいと強く願った相手を殺せる能力"


もし俺の最強のギフトがそれならば特殊能力の範疇を越えている。

無敵だ。

そんなものは神の所業だ。


もう一度だけ、試してみるか。

鉄格子の隙間に水槽が見えた。

元気よく魚が10匹ほど泳いでいる。

その中で1番大きな魚に対して目を瞑り全力で願う。


死ね!


目を開けると大きな魚は生きていた。

全力で願うあまりに目を瞑ってしまっていた。

見ていなければ死なないのだろうか?


今一度、今度は大きな魚を凝視しつつ全力で願う。


死ね!


大きな魚は死んでしまった。

鳥肌が全身を覆う。

俺は生命をいとも容易く殺してしまえるという事実が突きつけられる。

怖い。体の震えが止まらない。

俺は神ではない。神になどなりたくもない。

人間側と魔族側の戦いを左右するのはJOKERだとあの優しい光は言っていた。

言葉のまんまだ。いくらでも俺が決めれてしまう。

この力があれば異世界など俺のやりたい放題だ。

やりたい放題だからこそ、何をしていいか分からない。

俺はこの異世界の行方を決めてしまってもいいのだろうか。

俺にそんな器などあるのだろうか。

あるはずもない。俺は神ではない。

頭が痛くなる。

また色々な事を考えすぎてしまった。悪い癖だ。冷静にならないと。



○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●



上の方から微かに悲鳴のような声が聞こえてくる。不審者でも現れたのだろうか。

まぁ、今はどうでもいいな。

思考の渦に巻き込まれた頭を必死に整理しないと何も動けない。



悲鳴が聞こえてから30分くらい過ぎた。

今は悲鳴は聴こえてこない。

ドン!!ドン!!と鈍い音が度々こだまする。

流石に気味が悪い。

強盗でも起きたのだろうか。

気になるし見に行くか。


モデルの脚のような鉄格子をへし折り脱走する。

見渡しても監守がどこにもいない。


「すんませーーん!!誰かいますかーー??」


なんで脱走者が監守探すんだよ。

気味の悪い状況の中、外へと繋がるドアを開ける。


大量の死体が転がっていた。

魔族が村を襲ったのだろうと瞬時に判断できた。

鈍い大きな音のする方向に目を向けるとボロボロになった美乃がいた。


「よしの!!!!!!!!!」


「あ、ジョーカー……来てくれたんだ……」


美乃はそう言ったあと気絶した。

ケモ耳状態の美乃は身体中が血まみれだった。

心が潰されるほど苦しくなった。


この惨状の犯人が近くにいないか見渡した。

嫌な予感がする。

大きな足音が近付いてくる。

そいつを確認した。

全身を堅そうな鱗で囲っていて顔は蛇のような形をしている。身長は3mくらいであろうか。間違いなく魔族だろう。

身体中が自分の血ではないであろう血で赤く染められている。

そしてヒラヒラとした赤い布が靡いている。

赤いマントだ。

ああ、もう2人目ね。

その赤いマントの魔族は何故か顔は涙で溢れ、悲痛な表情を浮かべている。

こんなことをする奴は不敵な笑みを浮かべてるもんじゃないのかよ。

美乃の声を聞いていたのか彼は問う。


「き、君がじょ、ジョーカーなの…かい?」


そう言う顔は正気では無さそうだ。きっとパニックでネジが飛んでいる。

目が充血して真っ赤だ。泣きすぎたのだろうか。


「絶対そうだ!!!」


彼は俺が何も返事をしていないのに話を止めない。


「ジョーカー、君のギフトは最強なんだろ?頼む!!その力で人間を全員殺してくれ!」


彼は泣きじゃくりながら俺に願ってきた。

こんなに感情のこもった言葉を言われたのは初めてかもしれない。


困惑して言葉を返せずにいた。

尚も彼は俺に喋るのをやめない。


「俺は……俺は!!!絶対に前の世界に戻らないといけないんだ!!!!俺はマンションの瓦礫に押し潰されて死んだ!!で、でも、妻と息子はまだ死んでない!きっとまだ瓦礫の中で救助を待ってるんだ!!俺が戻らないと妻と息子が死んでしまう!!!俺だって人は殺したくないさ……1ヶ月も必死に悩んださ……でも殺さないと…魔族側を勝たせないと!!」


悲痛な叫びだった。

涙を流しすぎたのか喉が渇いて声がガラガラになっていた。

それでも必死に声を出す彼を、血まみれでそう叫ぶ彼を直視できない。


思わず目をそらした。


そらした先に見えてしまった。


大量の子どもの死体の前に必死に子どもを守るために抵抗したのであろうか、ナイフを持った宿主のおっさんがズタズタに引き裂かれて死んでいた。

同情が怒りに変わる。

冷たい声で正論をぶつける。


「お前さ、自分の嫁と息子の為でもさ、罪のない人を殺しちゃダメだろ」


彼はビクッと体を強ばらせる。

自分でも分かっていたことなのであろう。

でもやってしまったからには許さない。


「今からお前殺すわ」


彼を凝視し、死ねと願う。


「うぐ……ヤ、メ、テ、ク、レ」


とてつもなく彼は苦しんでいる。

苦しむ彼と初めて目が合った。


善人の目をしていた。


願いを止める。

彼は咳き込みながら倒れこんだ。


俺は考える。


きっと彼は被害者なのだろう。

彼の立場で物を考えると今の彼のように正気を失い、人の村を見つけ出し、虐殺行為を行ってしまうのも無理はないのではないだろうか。

こんな糞みたいなゲームに参加させられ、死ぬより辛い目にあってしまっている彼を同情してあげるべきではないのだろうか。


彼には甦ってほしい。

甦って嫁と息子を助け出してほしい。


結論的にそう思った。


考えがまとまり彼を見る。

彼は咳き込みながら必死の形相で俺を睨んでいた。

睨みを利かせたまま彼は立ち上がり吠える。


「俺のギフトの猛毒でぶっ殺してやる!!!!」


紫色の液体を水鉄砲みたいに飛ばしてきた。


勝ちを確信した。

俺はギフトなんか無しでもめちゃくちゃ強い。


適当に水鉄砲を避け、宿主のおっさんが持っていたナイフを手にする。

戦闘の素人に負ける要素なんてない。

鱗の堅さだけ気を付ければ楽勝だな。


相手を無力化するまでの構想ができた。

あとはそれを実行するだけ。


その辺に落ちている石を拾い上げ、顔面目掛けてぶん投げた。

予想通り彼は毒の噴射を少し止めた。

その間に全力で間合いを詰める。

投げた石をまた拾い上げ次は股間目掛けてぶん投げる。

股間に当たり姿勢が低くなったところで間合いを限界まで詰める。

さっき拾ったナイフで目をぶっ刺した。


雑魚過ぎて戦闘の訓練にもならなかったな。


彼は気絶した。

勿論死なない程度にしか目を刺してはいない。


大勢の足音がする。

戦闘を見守っていた人々がおずおず集まってきたようだ。

みんな泣いていた。

ごめんなさいと心の中で謝った。


美乃と魔族を抱えて村を後にする。

誰も追ってはこなかった。


こんな思いするくらいならこの村になんて入らなければ良かった。


2人を抱えて静かな場所まで移動した。

皆見た目は魔族だし近くの魔族の村でも探すか。美乃もケモ耳あるしなんとかなるだろ。

次にとる行動が決まった。

ふぅ…とため息が出る。

落ち着くとまた色々考えてしまう悪い癖が始まった。


全員がそれなりの理由を持って生き返りたいと思っているのだろう。

この魔族のように酷い行動をとってしまったとしても、状況が状況だ。しょうがないで済ませてあげてもいいと思う。

全員に甦ってほしいだなんて思うことは傲慢なのだろうか。

俺は美乃かこの魔族かを選ばなければいけないのだろうか。


異世界の人々も魔族達も生きている。

できるだけ血を流さないでほしい。

どうにか上手くなんとかならないものだろうか。


願望が固まってきても策がない。

今はこれ以上考えても無意味だろう。



あ、でもその願望を叶えるために大事なことを腹に決めよう。

どんな事があっても守り抜かなくてはならない、とても大事な誓いだ。




JOKERのギフトは使わない。



















いやー!!書くのって楽しい!!


少しでも気に入っていただけたのでしたら感想とレビューとブクマをしてもらえると嬉しいです。


それはもはや一人で盆踊りするほどに嬉しいです。


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