第1話 「半人半魔」
気が付くと草原にいた。
澄んだ空気に土の匂い、心を落ち着かせる要素が集められた最高に心地の良い場所だ。
辺りを観察してみる。
可愛らしいプニプニとした生物が楽しげに移動している。
前の世界で言うところのウサギ的な存在であろうか。
「本当に異世界に来ちゃったんだな…」
ぼけぇ〜と色々な事がありすぎた死んでから今に至るまでの事を思い返していた。
頭が痛くなってきた。
情報の処理が間に合わなくて頭が痛くなるって本当にあるんだな。
1分程の間、目を閉じて頭を整理する。
そして自分が今やらなくてはならない行動を導き出す。
「状況確認しなきゃな」
どちらの種族に転生したのか、ギフトは何なのか、どんな見た目なのか。
普段自分を1から知るなんてことはありえない。
転生でもしない限りこのような体験はすることはないだろう。
自分が自分でも分からない。
それを知ろうとするのは期待や不安など沢山の感情が掻き立てられる。
その湧き出た感情の中でも恐怖が中心にいた。
それはそうだ。
知らないことは怖い。
それがましてや自分なんて。
「気持ち悪ぃ化けもんだったら嫌だなぁ…」
そんな事言ってても何も変わらないのは分かっている。
意を決して自分を見る。
「まず、種族は…。ん?…どっちだこれ?」
左腕は人間のようだ。
うん、特に違和感は感じない。
右腕は人間のそれとは明らかに違う。
鉄っぽいギラギラとした黒い鱗に覆われ、爪は赤く攻撃性能を重視したであろう作りだ。
ドラゴンを連想した。
他の情報を知るために次は脚に目を向ける。
左脚は鱗、右脚は人間だ。
「まじか」
最後に顔を触る、今までの触ってきた感触と変わらない。
「あー角はあるんだな」
1本前に突き出たドリルのような角を見つけた。
限界まで視線を上にやるとチラッと黒い威厳の感じさせる角が見える。
「なるほどね」
昔から予感は大体当たってきた。
最終確認のため体に巻き付かれていたマントを見る。
確か人間側は白、魔族側は赤だったな。
それ以外の色であろうことは予感してる。
答えは予想を越えてはこない。
紛れもなく黒色だった。
「やっぱりね。知ってた」
自分の楽観的な言葉とは裏腹に声は弱々しく震えている。
JOKERは間違いなく、この俺だ。
悪寒がする。
もう草原の和やかさなど目に入るはずもない。
きっと考えられない程の辛い事が俺の未来にはあるのだろう。
とてつもない人数の生死を俺が決めていくことになるのだろう。
ダメだ。
思考を止めよう。
先々の事を考えすぎてしまうのは自分の悪い癖だ。
自分の新しい体の調子を確認しながら他に知るべき事を思考する。
大事な確認がまだだった。
「ギフト、特殊能力だっけか、どんなだ?」
とりあえず体を動かしてみる。
少し動かしてみるだけでも前の世界の鍛え上げた体を遥かに凌駕している。
人智を越えた身体能力であることは間違いない。
しかしこれが最強なギフトのはずがない。
半分魔族だからで説明がつく程度の力だ。
色々動いたり考えたりしてみたが特に能力的なものが現れない。
「すぐに分かるもんじゃねーのかよ…こういうのって…」
愚痴を言ってもギフトの詳細は分からない。
もう諦めて他の事を考えよう。
異世界について知らないと。
現時点で分かっているのが人間と魔族がいて争っている。
そんなもんだ。
誰かに話しを聞かないとダメだ。
「とりあえず村とか探すか」
どこか浮き足だった気持ちのまま歩き出す。
気持ちの整理なんて出来るわけがない。
当たり前だろ。
まだ死んでから30分も経ってないんだ。
2時間ほど歩いただろうか。
体はまだ疲れていない。
色々な事を考えすぎて脳が体の疲れを認識していないだけかもしれない。
遠くに1000人くらいが暮らしてそうな村が見える。
人間の姿も確認できた。
鱗と角が見えないように黒いマントで隠し、村に入る。
いや、入ってしまった。
過去は変えられないが未来は変えられる。
そんな言葉を度々耳にする。
そんな悲しい言葉があっていいものだろうか。
過去は変えられない、その事実を自分の中で許容出来ない程の辛い過去がある人はその言葉を聞いて響くものがあるのだろうか?
何故かそんな事を考えながら村に入った。
悪い予感は大体当たるのに。