黴た空。
カビたそら、と読みます。
深夜に読まないようにシリーズ。
ド短編です。
お風呂は偉大だ。
シャワーも。
更に言うなら、身体を洗わなければならない面倒臭さが襲い掛かる。
シンプルな作りの容器が目に映る。
とりあえず、ワンプッシュ。
ドロリと溢れた白濁の粘液。
徐に全身に塗りたくり、撫でては温水で洗い流す。
ふと、誰が用意したのか知らず。
受け皿で待ち構えるたったひとつの石鹸が鬱陶しく感じてしまう。
憎々しげに、ポツンと待ちわびる固体。
「ねえ、わたしを使ってよ?」
それを無視して、ひっそりと忍び寄る恐怖心に必死に目を逸らし続ける。
眼に滲み、染みる痛みに耐えては。
さっさとことを済ませるように、血が滲むほど頭皮を引っ掻き毟しるわたし。
やがて、室内を満たす湯気に誘われて。
なみなみと溜められた湯船に肩まで浸かり、漏れる溜め息。
「はあああああ…………」
ひとしおに押し寄せる歓喜。
だが、手に溜められた雫は深紅に染まっていた。
語るに劣らず。
全身に纏いし、流血は告げる。
「癒された……?」
意識も絶え絶えに、浴槽にゆらゆらと浮かぶ躯。
宛ら、石鹸の泡のように。
口許からは、全てが吐き出され漂う。
それはまるで。
シャボン玉のように。
冬のホラー。
芯まで凍えていただければ幸いです。