22 その笑顔の意味
次の日の朝。
「はぁああぁあ…………」
私は一時間目の授業前から、机に突っ伏し溜息をつく。
昨日も散々だし、今日は特に散々だ。
英語のノートなんて忘れてなかったのに英語のノートを取りに行って、英語のノートを忘れるってどういうことなの…!しかも学校にあると思って朝早くに登校したのに、ノートないし。いろいろおかしい。
もう一度机の中を確認するように一瞥する。やっぱりない、おかしい!ここまでくると悲しみというより怒りが込み上げてくる。ぐぬぬ……。
「……はぁああああぁ…」
とか言って、何にこの怒りをぶつけるかなどなく…。
私はまた特大の溜息をつく。
いやでもほんとどこ言ったんだろう…怒りの次は不安が出てきたよ…………って、まって。
陽花ちゃんがもってる、かも?……いやでも持ってなかったら……う〜ん…う〜〜ん……
「……さっきからどうしたのかな?木葉ちゃん」
私が本日3回目の溜息をつこうとしたその時、桜花ちゃんが笑顔で尋ねてきた。いつもの笑顔と声音なのに、明らかに違う…今日は機嫌が悪いのか、少しトゲがある。
「あ〜…英語のノートなくしちゃって…いや、大したことじゃないんだけどね!ウン!」
私は桜花ちゃんをいらだたせないようにと、すばやく机から顔を上げ、ぶんぶんと手をふる。
私にイラついているのかと思ったが、桜花ちゃんは心配するように、
「え、結構宿題多くなかった?しかもそれ答え合わせするっていってたし…」
と言った。私はそれで安心(ちょっと調子に乗った)して…自分でもひくくらい笑顔になったのがわかる。
私は、
「そう!そうなんだよ!家とか学校とか探してもなくて〜!あっ、そうだ!陽花ちゃん私の英語のノートもってたとかないかな?!」
…と、本当に自分でも引くくらいの勢いで言った。先程の溜息はなんだったのか、本当にチョロい奴である。
桜花ちゃんはその言葉を聞いた瞬間眉をひそめて、
「陽花…ちゃん?」
と呟いた。……って、あれ?なんかまずかった?一緒に自炊してるって聞いたから、やっぱり仲良いのかと思ってたのに…!
「あっ、昨日陽花ちゃんと一緒にいたからさ!ごめん、この話はもうやめようか!うん、そうしよう!」
私は謎のジェスチャーをしながらそう言った。我ながら強引だな、と思ったがそれはこの際置いとく。
「ふ〜ん、そうなんだ………じゃあ、仲良くしてるってことなのかな?」
私のやめよう、という提案を見事にスルーし、今度はいつもと同じ笑顔とトーンで桜花ちゃんは言った。流れが流れなだけあって底知れなさを感じる…闇を垣間見たような怖さだ。
「う、うん…まあ一応は…仲良い、かな」
思わず萎縮してしまう。桜花ちゃんは笑顔のままで、
「…そっか。」
と、呟いた。おずおずと顔を伺うと、虚無を体現したような、消え入りそうな笑顔に、思わず背筋が凍った…その瞬間。
「…………じゃあ仲良いんだね!よかったぁ」
桜花ちゃんは「いつも」や「さっき」やとはまた別の、満面の笑顔でそう言った。
私はその不気味さに、思わず言葉を失って、「…うん」と答えるのが精いっぱいだった。
今思うと、その笑顔は「いつも」の『完璧な作り笑い』ではなく、『本心からの作り笑い』な気がした。
心を殺し、そこ心があるように見せるための作り笑いではなく、本心を隠すための作り笑い。
私が恐れたのは、その『本心を隠すための作り笑い』ではなく、『佐藤桜花』という人間が、どんな人生を送ってきたのか、想像出来なかったからだ。
とても、悲しいことがあったのだろう。辛いことがあったのだろう。泣きたいことが、あったのだろう。そして、心を殺したのだろう。
桜花ちゃんの、心の溝は深い。そしてその原因も、私は知らない。
…でも、「心を殺す」から、「心を隠す」になったのは。
何故だか、嬉しいと感じてしまった。
なんだか不穏な最後ですが、主人公のスタンスが変わることは多分ありません。多分。次回もよろしくお願いします!




