悠の講義
それはある日のことだった。教師の都合で、数学の一コマが自習になった。課題のプリントが出ていたが、簡単なものではなかった。
「ねぇ、那須さん。教えて」
誰が言い出したかわからない。気が付けば、悠の周りには人だかりができたいた。
「それじゃあ、小さくて見えにくいから、黒板に書いて説明してよ」
悠は黒板の前に駆り出される。
「これは、複素数の問題です。使う公式はこれですね」
悠はすらすらと黒板に書いていく。
「この問題をこの公式に当てはめると……このように、計算できます」
授業時間も終わりに近づた頃、教頭がクラスに行く。そこには、悠の講義を聞く、生徒たちの姿があった。教頭はすぐに中へ入らず、教室の外で悠の声を聴く。
「教頭先生、どうされましたか?」
それを見て不審に思った他の教師が声をかけた。教頭はシーと人差し指を唇に当てる。しばらくその教師も一緒になって、それを聞いていた。
「……まいったな。生徒にこれだけの授業をされちゃあ、立つ瀬がない」
そして、困ったように呟いたのだった。
この話は悠がどんなに頭がいいかって話です。
将来の夢の設定はなかったのですが、悠は学校の先生か塾講師がいいと思いました。
悠の説明は教師よりもわかりやすいって言うのが、葉那の言い分です。
自分が高校の数学を忘れていたので、説明の内容はかなり簡潔にしています。
……数学だけではなく、高校の授業はみんな忘れています……。