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マスコットグローブ  作者: 三田哲王
3/16

第3話 友達というラインを越えて

 二月下旬の後楽園ホール


 客席には、橋元と高見に挟まれるように真希の姿があった。


「もう次だろ、大河」

兼一が四人分の飲み物を持って現れた。

「大河、出てくるの?」

真希のテンションも上がる。


 格闘技を観ること自体が初めての真希は、大河が通路に現れただけで、この先の期待と不安で胸がドキドキしていた。

リングアナウンサーにコールされた大河が、リング上で軽く会釈をする。

「坂口タイガーに聞こえるね。 いつもの大河じゃないね。 何だかカッコいい」

真希の瞳はキラキラと輝やき、瞬きを忘れてしまうほど試合に集中して、兼一や高見の声が聞こえないほどだった。

 

 この日の試合は大河が圧倒的な強さで勝った。

「ふう~、体中に力がはいっちゃって、疲れちゃった」

観戦でくたびれた真希は、橋元に寄りかかってリングを見つめていたが、腕時計に目をやった次の瞬間、慌てて荷物を抱えた。

「ゴメン、私これから仕事入っちゃってるから……」

大河の右手がレフェリーに挙げられて拍手が起る頃、真希は後楽園ホールを後にした。

 橋元は、その姿を視線で追いかけながら、ちびりちびりビールを口に含み、腕に残った温もりを名残惜しそうに擦っていた


「お疲れ」

「あっ、はい」

リングから降りてすぐに、山崎に肩を叩かれた大河は、既に帰り支度を済ませた姿に唖然とした。

「ちょっと、これから用事がありますから、野口さん、後はお願いします」

そう言い残すと、背中を向けて足早に消えた。


「何かさあ、選手を称えるとか、飯でも行くか、とか無いもんかね」

野口はため息交じりに顔をしかめた。


「大河、余裕じゃねえかー」

ジムの先輩沖田が、控室に戻る通路で、含み笑いで声をかけてきた。

「調子にのんなよー」

二本指で敬礼のようなキザな挨拶をすると、背を向けて行ってしまった。


 沖田は三十歳を超えている現役のベテランボクサーだ。 口は決して良いとはいえないが、いつもアドバイスをくれたり健康を気遣ってくれたりする、大河にとっては兄貴的な存在だ。

「沖田さんってキザっすよね」

「悪ぶってるけど良いやつだよな……。 でも、笑えるよな」

そんな独特の個性をもった沖田の事を、野口と大河は嫌いではなかった。

逆に、言い辛いことも遠慮せずに言うことから、会長の山崎にとっては煙たい存在だった。


 それから数週間が経ったころ、いつものメンバーで食事会が行われていた。


 ”今日のおすすめの一品”をみんなで突っついていると、誰かのスマートホンが鳴り出した。

「あれ? 何だろう……」

真希が長い髪の毛をかき上げるようにして電話に出た。

「はい。 えー? マジですか? 池袋の駅の近くです。 今から? 電車の方が絶対早いと思います。 分かりました。 じゃあ、渋谷からタクシーで向かいます」

 急を要する内容だと言う事は、誰もが理解できた。

「事務所の先輩が怪我しちゃって、渋谷のイベント会場に行けなくなっちゃったんだって。 ピンチヒッターで行かなくちゃ」

「もう、八時すぎてるぜ、こんな時間からのイベント?」

兼一は驚きの表情で聞いた。

「新商品発売の、カウントダウン・イベントなんだって」

「大河、アルコールが入っていないのはお前だけだ! この売れっ子が電車に乗ったら騒ぎになる事ぐらい解るよな」

橋元さんの言葉の後、みんなの視線を感じずにはいられなかった。

「分かった」

俺は壁に掛けてあった橋元さんのコートを取り、真希の手を握ると店の外に飛び出した。


「あいつ、何で俺のコート持っていったんだ?」

「さあ、慌ててて間違ったんじゃないの?」

残された男三人は首を傾げると、真希という華がいなくなり、急に静かになった。


 外は小雨が降っていて、俺たちにとっては好都合だった。

真希をコートで包んでも違和感を感じないはずだと思い、急いで頭から被せると、自分の方へ引き寄せるようにして、駅まで向かった。


 電車の中では向かい合うように自分の方へ抱き寄せて、顔が見えないようにした。 

 そんな中、揺れでバランスを崩した真希の手が、俺の背中でシャツを強く握ると、なんだか幸せな気分にって、渋谷までのあと三駅、このまま時間が止まってほしいと思っていた。


 渋谷で下車した俺たちは、タクシーに飛び乗ると、急によそよそしく離れて座った。

せめて、真希のマネージャーぐらいにみられないとまずいと思っての、咄嗟の行動だった。

真希は鞄から手帳を取り出し何やら書き始め、俺は車の混雑に少し焦りをおぼえていた。


 イベント会場の近くまで来ると、正面は既に賑わっているのが見え、会場裏手の人通りの少ない路地で車を止めてほしいと伝えた。


 タクシーが走り去った後、真希が電話番号の書かれた紙切れを差し出した。

「今度は二人で食事行かない?」

予想もつかない展開と嬉しさのあまり、俺はどう対応したらいいか分からなかった。


 それを受け取った次の瞬間だった。 

強いストロボの光と、カメラのシャッター音が数秒間響き、一人の男が走り去った。

(ヤバイ)

 とっさに真希を隠すように抱き寄せると、他に不審な人物がいないか見回した。

沈黙の時間が二人を包み込む。

(どうしよう、どうしたらいいんだろう)

静まり返った裏路地、真希を不安にさせないように強く抱きしめた。


 大河の胸に抱き寄せられて、暖かな温もりが心地よかった。

強くて速い鼓動が耳に伝わった。

抱きしめられて窮屈なはずなのに、そこには何か広い世界があった。


 二人が街路灯に照らされたたずんでいると、建物の陰から一組のカップルが現れ、辺りを気にし始めた。

「撮られたか……、気をつけてたのにな……」

男の方がボソボソ言いながら横を通りすぎていった。 

どこかで観た事ある人だった。 絶対、芸能人だ……。 撮られたのは俺たちじゃなかったんだ……。

 お互いの顔を見て安堵の笑みをこぼすと、真希はホッという口をして胸に手を当てた。


「あっ、急がなくちゃ!」

真希はコートを俺に渡すと、右手の人さし指を唇に当て「しー」と、小さな声でいった。

(大きな声ではマズい話だな……)

そう察して、口元に耳を近づけた。

 次の瞬間、俺の顔を覗き込むようにして両手で頬を包み、強く唇を重ねてきた。

「ありがとね。 じゃあ、連絡してね!」

手を振りながら走り去った。

俺は、その姿を目で追いながら、放心状態だった。


 思い出したように、手の中にあった紙切れを広げ、電話番号を登録した。

(この紙切れ、どうやって処分しよう……。 誰かに見られてはマズい……)

こういう状況下では、悪いことばかりが頭をよぎる。

紙切れを丸めて、しばらく見ていた……。

 ”パクッ” 

考えた挙句、口の中に入れて食べてしまった。

(うん、これが一番安全だ!)

俺も胸に手を当ててホッとした。


「お前なあ、俺のコート持って行くなよー」 

池袋の店に戻ると、橋元さんは俺の手からコートを奪い取った。

「おっ? 何だか、いい匂いするなー」

コートの匂いを嗅ぎニコニコした橋元さんは、明らかにテンションがあがり上機嫌だった。

 この時、俺は思った。

(橋元さんは、俺より変態だ)


「あ、橋元さん、コート掛けときますよ」

コートを受け取ろうとしたが、大切そうに胸に抱え込んでしまった。

「大河、ご苦労さん。 よくやった」

労をねぎらうと、大声で店員を呼んだ。

「すいませーん、こいつにトニックウォーター……、ダブルで!」

「あのー、橋元さん、トニックウォーターってノンアルコールなんですけど……」

「分かってるよ! そんな事。 すいませーん、トニックウォーター二つに変更」

(よくやったって、どういう事?)

真希を送り届けた事なのか、真希の匂いをコートに付けて帰ってきた事なのか、どっちのよくやっただったのだろうと、俺は考えていた。


 次の日、真希に初めて電話をした。

昨日の出来事を振り返って、二人で笑い、そして、橋元さんがコートの匂いを嗅いだ事件をチクッてしまった。

「やだー、何だか恥ずかしい」

真希は、乙女チックな一面を見せた。

「今度会う時は、大河が橋元さんの隣に座ってね。 私は大河の席に移るから」

「そんな事したら、俺がチクッたってバレバレじゃん!」


 ふたりの中には、友達というラインから一歩抜けた信頼感が芽生えていた。

好きとか、付き合おうとか、そんな言葉があったわけではない。 

でも、昨夜、真希が重ねてきた唇が、二人の物語が始まる合図だったに違いない。


 ある日、ジムのロッカールームに入ると、真希からの着信があった。

「大河? 今日ご飯食べに行かない?」

「ん? 二人で?」

「そう」

「ヤバイじゃん」

「いいお店があるんだ。 お店の情報メールで送るね。 じゃーね」


 切られてしまった……。 


 返事、してないのに……。


 偶然、ロッカールームの扉近くでボクシングシューズの紐を結んでいた沖田には、会話が聞こえていたらしい。


 トレーニングが終わりストレッチをしていると、沖田さんの足が近づいているのが分かった。

沖田さんの場合、歩き方を見るだけで、すぐに見分けがつく。

反対の足が着く前に、もう一度つま先で弾むように、リズムをとりながら歩く、なんともキザな歩き方だ。

 そんな沖田さんが、はにかみながら口を開いた。

「大河、今日は何だか、体が軽いみたいだなー」

「そうすか? いつもと同じっすよ」

「嘘つけー、口紅ついてんだよー」

「マジっすか?」

俺は、とっさに唇を拭った。

「おいおい、図星かー?」

「もう、勘弁してくださいよ……」

「じゃーなー」

沖田はキザな挨拶をすると、大河に背を向けて行ってしまった。


 トイレから出てきて一部始終を見ていた野口は、ロッカールームに引き上げる沖田に、ニコニコしながら声をかけた。

「おい、沖田。 大河は真面目なんだから、あんまりいじめないでもらえる?」

「いじめてないっすよ。 可愛い弟分っすから。 あっそうだ、野口さん、あいつ彼女いるらしいっすよ」

意味深な笑みを浮かべると、沖田はロッカールームに消えた。


 今度は野口さんが駆け寄ってきた。

「大河、なんだお前、彼女出来たのか?」

「いやー、違いますよ」

「だよな……。 お前にはまだ無理だろう彼女なんて」

「そうっすよ。 アハハハ」

「だよなー! 飯行くぞ」

「あっ……、今日は、ちょっと……」

「あれ?」

「お疲れさまっす」

俺はロッカールームに滑るように駆け込むと、すぐにメールをチェックした。


 お疲れ

  先に、お店行ってるね


 Re:お疲れ

  OK、トレーニングを兼ねて走って行くね。


 Re:Re:お疲れ

  気を付けてね


 五キロメートルくらいだろうか、シャワーを浴びた後ジョギングで向かうことにした。

ロッカールームの扉を少しだけ開けて、外の状態を確かめると、野口さんが背を向けて練習生と話をしていた。


 俺は忍者のように壁沿いを静かに移動すると、そーっとジムを後にした。


 店は大久保の裏路地に隠れるようにしてあった。

黄色い小さな提灯が二つ吊るしてある、何となく怪しげな店構えだ。

(何なんだこの提灯は……。 どうして二つ?)

そんなことを思いながら扉を開けた。

「いらっしゃーい」

「あれ? あっ、ごめんなさい」

俺は、慌てて扉を閉じた。

(ママさん? あれ? 絶対男だよな……)

そして、店の名前を再度確認した。

(あれ? 『マッチャン』でいいんだよな……)


 すると、黒い扉が開いて中から大柄な男、いや女の人が出てきた。

「何やってんのよ、早く入んなさいよー」

「あ、いや、すいません。 何だか間違っちゃったみたいで……」

「間違ってなんかないわよー」

後ずさりする俺に、大きな顔を近づけて小さな声でいった。

「真希ちゃん、中で待ってるわよ」

「え? 俺、間違ってなかったんですか?」

「つべこべ言ってないで早く入んなさいよ!」

 腕を掴まれ、引きずり込まれるように店の中に入った。

 走ってきた直後だったせいか、いつもより多くの汗をかいた気がした。

いや、それだけではないような気がする。

絶対、恐怖を感じたせいだ。


 店の中に入ると、すぐにカウンターがあり、奥の目立たないところで真希が手を振りながら笑っていた。

「もう、店に入るまで何分かかってんのよー!」

ママは窮屈そうに体を押し込むようにして、カウンターの中に入っていった。


「んで、何飲むの?」

「メニューは……」

「そんなもんないわよー!」

「えー?」

「何か言ってみなさいよー!」

「じゃあ、トニックウォーター……」

「そんなのあるわけないでしょ!」

(なんだろう、ずっと怒った口調だ。 これが普段の口調なんだろうな、慣れなくちゃ)

「じゃあ、真希と同じもので……」

「ジャスミン茶ね、最初からそういえばいいでしょー!」

「……」


 ママが用意をしている隙に、真希に向かって『何? この人……』と、ジェスチャーで合図を送った。

「料理おいしいんだよー」

真希はニコニコしながら話をごまかした。


「あらー、真希ちゃんありがとうー」 

くるりと振り返ると、語尾にハートがつきそうなくらい優しい口調だった。

「真希ちゃん、何か食べるー?」

俺の前にコースターとジャスミン茶を置くと、優しく聞いた。

「んー、じゃあ、美容にいいもの」

ニコニコしながら真希は答えた。

「じゃー豚足ねー、コラーゲンたっぷりだから」

「えー? と、とんそく?」

「そうよ。 アナタには豚足。 好き嫌い言わないで食べなさい」

「はいっ」

真希の口は尖っていた。


「ところで、アンタは何か食べる?」

「パ、パスタってありますか?」

「パスタ! いいわねー。 じゃー、アンタにはニンニクたっぷりのペペロンチーノね」

どうやらこの店の場合、客に決定権はないようだ。


「この前、ロードワークから帰ってテレビつけたら真希が映っててさ、何だか、身近な人がテレビに出てるって不思議な感じだったよ」

「へー、そうなんだ。 大河がリング上がった時もそんな気持ちだったよ」

 ようやく、二人で話せる時間が出来た。


「お取込み中ごめんなさいねー。 できたわよー、豚足とパスタ」

真希の前には豚足を、俺の前には超大盛のパスタを置いた。

「サラダもたっぷり食べなさいよ!」

ボールからはみ出しそうなくらいのサラダだ。

「何だか、ママの手の中にあった時は、それほど大きく見えなかったんですけど、パスタもサラダもめちゃくちゃ大盛っすね!」

「殺すよ? アンタ」

(ヤバイ……)

「いただきまーす」

間髪入れずバクバク食べた。


 そんな二人を見ていたママが口を挟んだ。

「真希ちゃん、いい男見つけたじゃない。 ボクサーなんだって?」

「うん、そう」

「ちょっと触っていい?」

「あ、はい」

ママが手を伸ばすと、大河はシャツを上げて自慢の腹筋に力をいれた。

「すべすべして、いい感じねー」

大河の顔を撫でながらうっとりした。 

(あれ? 腹筋じゃないの?)

「なに腹出してんのよ! 早くしまいなさいよ! そんなとこ触りたいなんて一言もいってないでしょー!」

 大河はママの行動が読めずに目をパチクリした。


「ママ、お豆腐食べたーい」

「煮込んだのでいい?」

「あー、食べたい食べたい」

「はいはい、今、温め直すからね」

なんだか、真希の甘えるような仕草がかわいく感じた。


 俺は、聞いていいものかどうか迷ったが、意を決して聞いてみた。

「ママは……、男ですよね……」

「当たりまえでしょー。 店の前にも黄色い提灯二つ、ぶら下げてたでしょー。 察しなさいよ!」

(あー、なるほど……、そういう事ですか……。 だから黄色……)

「女なのは恰好だけよ。 第一、こんな女がいたら気持ち悪いでしょ?」

「いやー肌もすべすべだし、女の人かも……と、思いました……」

「あらー真希ちゃん。 やっぱりアナタ、お目が高いー。 いい男見つけたわー」

「甘いものでも、ごちそうするわ」


 ママが出してきたのはホールのショートケーキだった。

「実はアタシ、今日が誕生日なのよ。 誰も祝ってくれないから、アンタ達ふたりで祝ってちょうだい」

(そ、そういうことか……。 凄いママだ……)


 バースデーソングを歌って三人でケーキを食べていると、静かに扉が開き、真希の知り合いが入ってきた。

「あー」

「元気ー?」

お互い手を振り声をかけあった後、約束事のように離れて座った。


 しばらくすると、男の人が入ってきて、その人の隣に座った。


 真希によると、ママも元々は業界の人で、プライバシーは徹底的に守ってくれると仲間内では信頼されている人らしい。


「すいません、コーヒーってありますか?」

ケーキで口の中が甘くなった俺は、ママに聞いた。

「ブラックでいい?」

「あ、はい」

「冷たいの? 温かいの?」

「じゃあ、温かいので……」

「ちょっと待っててね」

ママは小さな鍋に水を入れると、ガスレンジに火をつけた。


 女の人には少し大きいかな?とは思ったが、案の定、真希がケーキを半分残していた。

「真希、俺が食べるよ」

ケーキの皿を目の前に持ってくると、ママがコーヒーを出してくれた。

「ハイ、どうぞ」

「え?」

「何よー」

「か、缶ですか……?」

「ブラックってかいてあんでしょ? ウチにはこれしかないの!」

「あっ、これ、ほ、本格焙煎なんですよね……、アハハ……」

 

「ところでさー」

ママが二人に、大きな顔を近づけた。

「アンタ達、明日の朝は大丈夫なんですかー?」

ボクサーの朝は早い。 ハッとした二人は、そそくさと帰り支度を始めた。

この日は、真希がおごってくれた。


 そして、帰り際ママが二人にいった。

「お帰りは別々よー。 アンタは表から、真希ちゃん、アナタは裏から出てねー」


 なるほど、業界の人に支持される訳だと妙に納得した。


「またねー」

真希は素早く俺の唇にキスをすると、裏口から出て行った。


「若いっていいわねー」

ママは意味深な笑顔を見せ、俺を出口まで追いやった。


「アンタ、何か忘れてない? 忘れて帰るとはいい度胸よ?」

ママが大きな顔を近づけてきた。 凄い迫力だ……。

(キスか……)


「キ、キスっすか?」

俺は覚悟を決めて思いっきり目を閉じると、頬に異常な熱さを感じた。

「あ、熱、熱! え? なんすか?」

「アンタねー、勘違いもほどほどにしなさいよー? せっかくコーヒー温めてあげたんだから持って帰んなさいよ!」

「あ、缶」

「うるさーい」

「ごちそうさま!」


 俺は逃げるように店を後にした。

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