爆発
隙だ。隙を作らなければならない。
大振りな攻撃でなくとも、イースとカヌに当たれば致命傷になりかねない。
何とか足元にもぐりこませるだけの時間を稼ぐには、小癪にも小刻みに攻撃を繰り返すこの状況を打破したいところだ。
どうすればいい。
ゴーレムに疲れる様子はないが、一方で私はどんどん体力を削られている。
デカい攻撃を早く出してくれればいいが、この分ではジリ貧になってしまう。
どうする。どうにかうまく攻撃を誘う方法は。
それにしても、ダルは準備がまだ終わらないのだろうか。
唸りを上げて振り下ろされる拳を、後ろに跳んでかわしつつダルの方をちらりと見る。
ダルのじっと手元を見つめている様子からすると、まだ準備は整っていなそうだ。
イースとカヌも、ゴーレムの背後からこちらの様子を今か今かと伺っているのが見える。
せめて、攻めるタイミングさえ見出す事が出来れば。
要はあの拳が二人に当たらない位置に持っていければ、あの二人は足元に飛び込む事が出来る。
ああ! わからぬ!
立て続けに頭を使っているせいか、吐き気までしてきた。
こんな時ご主人様がいれば……あの醒めた目と心底幻滅した顔で見つめてもらえれば、それだけで私の体に力が漲るというのに。
そうすれば……。
「……ふ。そうか」
そこで私の脳裏に、ふとつい先ほどのある光景がよぎった。
さすがはご主人様だ。遠く離れていても、私に絶えず力を与えてくれる。
おあつらえ向きの方法が一つ、あるではないか!
私はゴーレムの拳を交わしながらも、周囲に目をやる。
地面を、森を、そして木々の頂を、入念に確認する。
先ほどと同じ失敗は許されない。
そして、勝機は見えた。これならば、うまく隙を作れる。
「叔父貴! ダルから合図だ!」
まさに絶妙のタイミングで、イースが叫ぶ。
ご主人様の加護は愚かな脳筋兄弟にまで及ぶというのか。
「イース! ダルを呼べ! 仕掛けるぞ!」
私はそう叫ぶと、先ほど見つけた中で一番手ごろなツタを拾い上げ、ゴーレムに向かって走り出した。
私の頭に浮かんだのは、先ほどのゴーレムとの戦いの事だった。
あいつはしっかり、私を認識して攻撃している。
声を張り上げて叫ぶイース達に反応しないところを見ると、ヤツは私を優先すべき敵として認識しているに違いない。
であれば、先ほどのように頭上に飛び上がれば!
「うおおおおぉぉっ!」
ゴーレムの腕を伝って駆け上がり、私は出来る限り高く飛び上がる。
だが、まだだ!
私はゴーレムが暴れていても逃げようとしなかった木々を足場に、更に、更に高く跳がる。
「イース! カヌ! 用意しろ!」
そしてそのまま、地上にいるはずの二人に向かって叫んだ。
森を突き抜けるほど高くまで跳んだ私の真下にいるゴーレムは、その拳を突き上げるべく、地に着きそうなほど低く攻撃の構えを見せている。
ここまでは予定通りだ。
先ほど片腕を砕いた時と同じ反応に、少しばかり私は安堵する。
片腕を失い重心が不安定な今、あの大きく重そうな拳を私に向かって突き上げれば、さぞ倒れやすくなっているに違いない。
あとは……。
「ギイイィィイ」
既に落下しはじめた私に向けて、ゴーレムは勝利を確信したかのような不快な唸り声をあげていた。
あの拳さえうまく避ければ、ボムで吹き飛ばしてやれる。
木々の枝葉を生きている片腕で掴み、跳んだ勢いを落とす。
ゴーレムめ。
私は腹をくくると、重力に引かれるがままに頭から落ちていく。
「こいつが私に拳を突き出したら、思い切りひっくり返せ! いくぞ!」
イース達が走り出すのが見えた。
もう片腕、くれてやろうではないか!
殴りあわなければ、動かぬ右腕ほどひどくはなるまい。
何とか、あの拳をいなして隙を作る。
あの二人の怪力とボムの威力を信じるしかない。
「ギギイッ!」
ゴーレムが目の前を塞ぐような巨拳を突き出してくるのが見えた。
これをまともに受けてはまずい。
私は掌を前に突き出し、身を捩って衝撃を和らげる用意をする。
「今だっ!!」
「「おおおおおっ」」
イース達の咆哮が聞こえると同時に、私の体は衝撃に見舞われた。
「ぐあぁっ!」
接触。
避けるつもりで身を捩って尚、すさまじい威力だ。
しかし、左腕はまだ動く。
ゴーレムの拳を転がるように落ちていく私の耳には、
「ふんばれ、カヌ!」
「おうよ、兄貴!」
と言う、二人の頼もしい声が聞こえた。
重心が上に寄ったゴーレムは、片足に取り付いた二人によってその体を傾けられていた。
「重てぇぇぇぇ!」
「ぬううううぅ!」
しかし、押しが足りない。
ゴーレムをひっくり返すには、もう一押し必要だ。
私はその一押しをすべく、動きの鈍い体を地面から起こし、再び走り出す。
ゴーレムは情けなくも、片足を踏ん張って身動きが取れない。
「くらええぇぇぇ!!」
私は勢いをつけて飛び上がると、思い切りその胴体に体当たりをする。
もう、殴るのも蹴るのも面倒だった。
地響き。
ゴーレムは最後のタックルで完全にバランスを崩し、前のめりに地面に倒れた。
「ダル、ボムを頼む! イース、カヌ! 走れ!!」
規模がわからぬ以上、巻き込まれる可能性も否定出来ない。
「叔父貴、いくぞ!」
脇で様子を見ていたダルは、そういうと黄色く光るボムを放り込んだ。
倒れたゴーレムの左肩と頭の間あたりに落ちたボムは、赤く光を放ち始め、その光はどんどん強くなる。
もう後ろを見てはいられなかった。
鉛のように重い体を引きずって、私は走る。
ひとつ。ふたつ。頭で数える。
みっつ。
そこまで数えたその時、背後からは背中越しでもわかるような赤い光があふれ、そして轟音と暴風が吹き荒れた。
あまりの衝撃に倒れこんだ私は、爆発が収まったのを確認して振り返る。
ゴーレムが倒れていただろう場所には、残骸らしいものは何も残っていなかった。
「すっげぇ……」
「あのヒゲ、とんでもねえもん作ってたんだな……」
「これだけの威力あるなら、叔父貴はあんな無茶しなくぶへっ」
ダルの発言は最後まで聞こえなかったが、言いたい事はわかる。
私は拠点へ戻ったらパイナを締め上げる覚悟を決めつつ、その場に倒れた。
**ブガニア新聞より抜粋**
創立暦三十四年 九月四日 朝刊
南部で謎の爆発
九月三日昼頃、南西で謎の爆発が観測された。
迷いの森付近で起こったと見られているが、テロ行為の一貫であるかどうかは不明である。
尚、同日にマネルダム家のワイバーンが南西に飛び立つのを見たとの報告が相次いでいるが、マネルダム家はこの爆発との関与を否定している。




