再戦
パイナからは、何かあった時に備えて転移ドロップ以外にもいくつか役に立ちそうなものを預かってきていた。
その中の一つ、投げ付けると爆発する『ボム』のドロップスであれば、あのゴーレムを粉々に破壊出来るかも知れない。
「ダル、ボムの手順は覚えているな? 用意をしておけ」
「わかった!」
目の端でダルが反応したのを確認し、私は頷く。
このボムの使い勝手があまりよくないのが問題だった。
ボムのドロップスは試しに作っただけのおもちゃのようなものらしく、暴発を避ける為にわざと爆発しにくくしてあるらしい。
ボムは、握り締めると起動して青く光り、点滅を始める。
そのまましばらく点滅が続くが、この点滅の間にボムから手を離すと、誤爆を避ける為に起動は取り消されてしまう。
手に持ったボムが黄色く光り始めると、起爆準備は完了。
この状態でボムを投げ付ければ、ボムが何かに接触したタイミングで赤く光り始め、三秒後にボムは爆発すると、パイナは言っていた。
使い方を覚えるまで三時間ほどかかってしまったが、恐らくこれであっているはずだ。
多分。
チャンスは一度きり。
ダルに持たせているドロップ袋に、ボムは一つしかない。
パイナは試作品だから爆発力がどの程度になるか未知数だと言っていた。
接触してからすぐ爆発する訳ではないならば、動きを止めてから使った方がより効果的だろう。
珍しく頭を使ったせいか、頭まで痛み出した。
この弱った体では、先ほどのように無理矢理力押しをする事は出来ない。
しかし、ゴーレムも片腕を失って、重心が定まっていないようだ。
これならば、うまく攻撃を誘えば勝手にバランスを崩してくれるに違いない。
「イース、カヌ! ボムを使えるようになるまで時間を稼ぐぞ! 私が囮になる。二人であのデカブツの動きを止めてくれ!」
「おう!」
「はいよ!」
返事を聞きながら、私はゴーレムに向かって走り出した。
大雑把ではあるが、のんびり作戦を練っている時間はなさそうだ。
ゴーレムは、ゆっくりとこちらに歩き始めていた。
「ギギ……ギギギギギィィィ!!」
ゴーレムが、私に応えるように吠えた。
そしてその巨腕を振り子のように振るうと、周りにあった木や岩が粉々に吹き飛んでいく。
なんだ、土人形のくせに私を威嚇でもしていると言うのか。
「ギイィィィィ!」
ゴーレムが、腕を背に回して唸る。
そして、そのまま私に向かって、地面を抉るように腕を振りぬいた。
まるで水かけっこでもするような動きと共に、地面は抉られ……
「ぐぬっ……」
地中に埋まっていた石や木が、すさまじい勢いで私の体を裂いていく。
小癪な。
しかしこの威力ならば、私より後ろにいるイース達にはさほど被害がなさそうだ。
そう判断すると、足を止めずに私は舞い上がった土砂の中を駆け抜ける。
もう一度、より近くで今の攻撃を食らえばダメージは更に大きい。
だからこそ、腕を払い抜いてヤツが無防備のうちに近付いておきたかった。
私は、予定通りこいつの気を引く囮になっていればいい。
先ほどのような広範囲の攻撃なら別だが、いくら傷ついた体でもこのノロマの攻撃を避け続ける事など容易いのだ。
ゴーレムは振り上げた拳を下げようとしない。
どうやら私が近付くのを待って振り下ろすつもりのようだ。
もう、ゴーレムの射程距離まで近付きつつあった。
「ギギギギ」
案の定、腕が振り下ろされてくる。
だがただ振り下ろすだけの攻撃など、私にあたるわけがない。
拳を真横に避け、私はそのまま巨大なゴーレムの足元をくぐる。
そう言えば、ボムの起動まではどれくらい必要だったろうか。
ダルが声をかけてくれるだろう。
余計な事を考え込んでいる場合ではない。
「どこを見ている、こっちだ! 貴様などご主人様に愛でてもらうための材料にすぎぬわっ!」
間抜けにも背中に回りこんだ私を見失っているゴーレムに、私はわざと大声で呼びかける。
三兄弟に攻撃の目が移らないよう、ここで気を引き続けるのが今私に課せられた使命なのだ!
ゴーレムは私の姿を見つけると、すぐさまその拳を振り落としてきた。
何度も外しているのを学習してか、少し小刻みに振るうようになっている。
上から、横からと襲ってくる巨岩のような拳を交わしつつ、私は機会を待つ。
「叔父貴!」
イースの声。
二人がやっと追いついたようだ。
これならば。
「いいか! 次に大振りな攻撃をしたら足元に飛び込め!」
少なくとも、足止めは出来そうだ。
あとはダルの用意さえ終われば。
準備にかかるのはどのくらいだったか、それだけが未だに思い出せなかった。
**魔王年代記より抜粋**
紀元前二年
風涼の月
初代魔王に付き従うワーウルフの忠実さは、主君を崇める尊さを表現する例にたびたび用いられる。
しかしその後世に残るほどの忠誠心とは裏腹に、彼の愚鈍さもまた有名である。
彼は初代魔王に関しては三年前の食事の内容まで覚えている類稀な記憶力を持つ反面、閣下が関わらない事に関しての記憶力はあまりにも低かった。
魔王の忠狼のような献身
とは、このワーウルフの傍仕えぶりから生まれた言葉で、主君を第一に考える忠実さを表す一方で、重要な事もすぐ忘れてしまうような愚鈍さを持つ従者にも使われる。




