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疲れ

 ウロコを持ち帰ってから、三日が過ぎていた。

過ぎた三日で僕が何をしていたかと言うと、何もしてない。ほとんど寝てた。

と言うか、熱を出して寝込んでいた。


 無駄ダンディが重要な政府側の人間だとわかった僕たちは、穏やかな交渉(主にエマが担当した)の結果、拠点に同行頂くことに成功していた。

一仕事終えた僕は、早く元の世界に帰りたい一心で戻ってすぐあちこちに顔を出して状況把握や村の手伝いをしようとした。

でも、周りのみんながそうはさせてくれなかった。


 畑に行けば追い返され、会議に顔を出そうものなら説教され、挙句の果てにユマちゃんと遊びに行けば『ベッドに横たわるぬいぐるみの役』でおままごとに参加させられる始末。

村の人たちも口々に僕の顔を見ると休め、休めと言って部屋に押し込むもんだから、僕は自分の名前がヤスメになったのかと勘違いしそうだった。



 皆が僕を休ませようとしたのは、あまりにもひどい顔をしていたかららしい。

寝不足に働きすぎに、なれない環境での大騒ぎ。

体がクタクタになるには充分だったんだろう。


 横たわって目を閉じた後のことは、あまり覚えてない。

と言うか、熱を出してうろうろしてた時のこともほとんど覚えてない。

僕が覚えてるのはみんなにあしらわれた事と、いつもは無駄話に付き合ってくれるおっさんまで今回ばかりは相手をしてくれなかった事くらいだ。

おっさんが僕を無視した恨みは、その他もろもろと併せて一生持ち続けることだろう。

[……あんまりだ。おじさんはな、ゆっくり休ませようと思ったの]

それはどうもありがとう。

この恨みは一生忘れません。


 ちなみにハチが一緒に寝ましょうだの暇な時間の相手でもさせましょうだの言って来るかと思ってたけど、それもなかった。

[あいつ、えらい心配そうな顔してたぜ。よっぽど兄ちゃんが具合悪そうに見えたんだろ]

珍しく食欲もなかったし、調子悪かった事は否定しないけどね。

頭痛も寒けもなくなったけど、寝すぎたからか未だに体がだるい。

[まあ、ゆっくり休めって。どうせ落ち着いたら、王国潰しに行かなきゃならねえんだからよ]

今度の休みに職務経歴書書こう、みたいな軽いノリで国を倒す話しないで欲しい。



 ベッドから体だけ起こしておっさんと久しぶりに無駄話をしていると、誰かが部屋のドアをノックした。

「起きとるか、魔王殿」

ひょっこりドアから顔を覗かせたのは、ガイナルさんだった。

様子見に来たんだろうけど、返事を待たずにドアを開けるならノックする必要はないと思う。

そういえば僕のお爺ちゃんも良く似たようなことをしていたな、と変な記憶が呼び覚まされた。

「起きてます。何かありましたか?」

ガイナルさんがわざわざお見舞いに来るのは、どことなく違和感がある。

僕の調子を知るだけなら無視子(ナーマ)さんあたりに頼めば済むはずなのにどうしたんだろう。


「魔王殿が寝てる間に、色々まとまった話があってな。まず、おぬし等が出かける前に、グレンザムを北に送り込んでおった。北に反乱分子の生き残りがいないか探しに行かせたんじゃが、一昨日戻って来てな。宝具が一つ手に入った。反乱軍の生き残りも、一人いたそうじゃ。グレンザムが連れ帰ってきたんじゃが、別嬪さんだったぞ。あとで会うといい」

なるほど。魔人さん、勝手に美味しいものでも食べに行ってるのかと思ってたけどちゃんと仕事してるんだ。


「ああそれとな。ウロコは充分手に入りそうじゃわい。パイナが喜んどったぞ、おぬしに礼を言っといてくれと言われている。連れ帰ってきた頭取(・・)、いやゼネットじゃが……」

そこまで言って、ガイナルさんは言葉を切る。

目が鋭くなったのは、多分気のせいじゃない。

「あやつは一々、うるさいのう。尋問しようにもいちいち喧しいわ、済まぬと詫びて泣き出すわ、手を焼いとる。ひとまず今はマーメイドとの交渉係をやってもらっとるぞ」


「……娘さんの事は?」

ガイナルさんにとって、四大公爵家は憎い相手のはずだ。

あのおじさんがそんなに偉い人なのかは疑問だけど。

「毒気を抜かれてしもうたわ。そもそも、話を聞けば出歩いてばかりで仕事をまともにしてはいないようだしのう。ワシがうらむべきはヤツの先代で、あやつではない。ああそうじゃ、面白い話を聞けたぞ」


 連れ帰る以上は多少ひどい目に合う事も考えてたけど、どうやらこの分だと無駄ダンディは元気らしい。

それはそれでうっとおしいけど、ひとまず続きを聞こう。

「面白い話?」

「うむ。南に宝具のありそうな場所があってな。調子が戻ったら、行ってくれんか」

宝具は元の世界に戻る鍵になる。手掛かりがあるなら……

と、僕が答えようとしたその時。

「ガイナル。ご主人様は休んでいただく。南には、私がいこう」

空気を読まず、突然割り込む声がした。

ドアの枠を背もたれにして腕組みをするハチの姿にイラッと来た事は、言うまでもない。




**ブガニア新聞より抜粋**


創立暦三十四年 八月二十八日 朝刊


体調不良にご注意。


ここ数日、都内医療院を訪れる患者が増加傾向にある。

患者の多くは新種の伝染病である可能性があり、ブガニア医療師会は調査を進めている。

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