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 白の大地から涙目で走ってきたのは、頭部に毛がない、小さな鼠のような生き物だった。

何とも言えない気持ちになる見た目だね、あれ。

昔は愛されてたけど放置されてボロボロになったマスコット人形みたいな哀愁があるよ。


 あれがそのヌルヌルさん?

[うわあ。あいつまだあの格好でいるのかよ……ほんと気持ちわりい]

おっさんは質問に答えてくれずに何故か引いてる。

でも姿を見て引くくらいなんだから、あれがヌメヌメさんで間違いなさそうだ。


 しかし神様にまともな人っていないんだろうか。あの姿はちょっと味がありすぎる。

何故か頭頂部だけかなり防御が薄い体毛に、魔法使いのお爺さんみたいにふさふさと顔に垂れ下がっている眉毛、そしてその間から覗くダンディーなキリリとした瞳。

顔の両脇から垂れ下がっている耳は妙に長くて、前歯はやたら出っ歯だった。

間違った『カワイイ』を無理矢理詰め込んだぬいぐるみみたい。


[ああ……ありゃゼネマルディがあいつ用にってプレゼントした依り代のはずだ。まだ未練がましく使ってるとはなあ。なっさけねえ]

童貞捨てる為に自分で(・・・)依り代を作った人が言うと、負け惜しみにしか聞こえないね。

[……あ、あと名前間違えてるぞ。ヌルメモな]

わかりやすく話をそらさないでよ。

でもわかった。メモメモさんだね。


 

「そこの人間さん、どぉしてゼネマルディとの関係をご存知なのか聞かせてもらえないでしょうかぁ?」

僕が神様の名前を脳内フォルダにメモっていると、誰かが僕のおしゃれ勝負服チノパン(セミホワイト)の裾を引くものがいた

タイミング的に、その何とかさんなんだろう。

[ヌルメモな]

……覚えたつもりでも思い出せない事ってあるよね。

[覚える気がねえだけだろ]



「人間さん人間さん、僕がゼネマルディと関係があったのはかなり昔のはずなんですよぉ。知ってるはずがないのに可笑しいですよねぇ何で知ってるんですかぁ? 僕、知りたいなぁ」

さすが混乱と怨恨の神。

話し方までねちっこい。

というかおっさんの存在には気付いてないのかな。

[神にも向き不向きってのがあってな、こいつは索敵なんかは苦手なんだ。ちなみにおじさんは戦うのと働くのと、女性に好かれるのが苦手]

そういう心に刺さる自白はやめて。


 それにしても、面倒だな。

おっさんの声は僕しか聞けないみたいだし、僕が通訳しなきゃいけないってこと?

「あのぉ、黙ってられると困るんですよねぇ。しゃべるつもりがないならしゃべらせてやってもいいんですがぁ、それはいやでしょぉ?」

うーん。このままじゃミリアさんを元に戻してもらえないかもしれないし、かといってこの不細工マスコットとおっさんの間を取り持つのはなあ。

[不細工マスコットて。ヌルメモな]


「おやぁ? 神である僕を無視してるんですかぁ」

はあ。

何か面倒な事になりそう。

「連れのお嬢さんがどうなってもいいんですかねぇ、困りませんかぁ? 発狂するほどひどい夢を見せる事だって……」

ネチネチと僕の周りを跳ねながらしゃべっていた振られ鼠は、そこまでしゃべるとパタリと倒れた。

ちょっとペインが強すぎたかな。

[強すぎ何てもんじゃねえだろう目玉飛び出してるぞ……うわあ……。こいつは依り代あるから今の兄ちゃんでもペインが通じるとは思ったけど、ここまでとはなあ]


 カチカチッ。カチチ……カチッ。

一瞬で高ぶった心を静めたのは、随分久しぶりに感じる歯車の音だった。

ちょっと興奮しすぎちゃったみたいだね。

まあ、神様なんだから大丈夫でしょう。

[だから目玉飛び出てるってば。うわあ……]



 まあ失神(神は失われてないけど)してるみたいだし、ミリアさんも元に戻るんじゃないかな。

[まあ、だな。ヌルメモにゃかわいそうだが、元々大して会話にならねえヤツだから遅かれ早かれこうなっただろう。ちなみにそいつの頭がハゲてるのはな、昔ゼネマルディとそいつが付き合ってる時に、あの女が頬ずりしまくったからだ]

いらないよ、そんな豆知識。

逆に心が痛むじゃないか。



「む……? すぐる、そのかわいい生き物はなんだ。天使か」

早速ミリアさんが正気に戻ったみたいだ。

目の焦点も合ってるし、ちゃんと僕を見てくれている。

そして元に戻っても、ミリアさんはミリアさんだった。


 まあいいや。色んな意味でこれがいつも通りだもんね。

「これ、今拾ったんだ。ミリアさん、飼う?」

僕は出目鼠と化したなんとかさんの目をそっと手で眼孔に押し入れながら、陰湿マスコットを摘み上げてミリアさんに向けた。

[混乱と怨恨の神ヌルメモ、な]



**魔王年代記より抜粋**


紀元前二年

緑葉の月


初代魔王の覇道を邪魔するものは、モンスターや憎きブガニアだけではなかった。

閣下の前に立ちはだかるものの中には、『神』と恐れられた存在もあった。

しかし、古より「触れてはならぬもの」と恐れられた神々すら、閣下を止めることは出来なかったのである。

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