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混乱

 待って。ちょっと待って欲しい。

僕は何も言ってないのに、何で危険物体マリモが二つに増えてるんだ。

ミリアさんは一体何を聞いてたんだろう。

そして、どうして僕に背を向けてもじもじし出したんだろう。


「や、やめてくれ。こんなところで恥ずかしい……」

……あの人、突然何を言い出してるんだ。

本当に待って欲しい。

もしこれが元僕がいた世界で周りに人がいたら、それはもう白い目で見られている気がする。

僕、ただ両手にぬるぬるマリモを持っているだけなんだけど。

[兄ちゃんの世界では、不思議な物体両手に持っておどおどしてる奴はつかまらねえのか?]

何言ってるの。通報されるに決まってるじゃん。



 そんなことどうでもいいんだよ。

どう考えてもミリアさんの様子がおかしくなってるけど、どうしたらいいかな。

「突然で心の準備が出来てないんだ……。少し時間をおいてからでは、だめか?」

僕は何もしゃべってないっていうのに、マズイ方向に話が進んでいる気がしないでもない。

これなに。これが起きてるの。

岩山登り切ったあたりから、おっさんと脳内トークしかしてないはずじゃないか。

なのにどうして、ミリアさんは頬を赤らめてくねくねしているんだろう。


 僕と喋ってる風なのに、目の焦点も合ってないような……。

それに、皆が険悪になるっていう割には僕には何の被害もないのも気になる。

「ミリアさん?」

試しに呼びかけて見たものの、やっぱり視線は明後日の方向を向いたままだ。

えぇ……ミリアさんに無視されるのは何というか、精神的にクる。


「お、おーい。ミリアさん?」

何とか正気に戻ってもらわないと、さっぱり状況もわからない。

僕はめげずに手を伸ばそうとするが

「ど、どこを触っている!」

この発言はまずい。思わず手を引っ込める。

でもどういうことだろう。

触ろうにもミリアさんに触れるまでまだ結構距離があるはずなんだけど……。



[兄ちゃん兄ちゃん。おじさんわかっちゃったかもしれない]

一体なにが。早く言ってよ。

あの状態のミリアさん、どうしたらいいかわからないんだけど。

[……これだから童貞は情けねえなあ。いいか、あの姉ちゃんがくねくねしてるのはな、おれと同じ神の仕業だ。どうも見覚えあるなあと思ってたけど、思い出したぜ]

ほんっと、ろくな神様いないね。

何故か耳まで真っ赤のミリアさんを見ながら、僕はため息をついた。



[そういうなよ。しかし今回はあの姉ちゃんがワーウルフなのが仇になったなあ。多分、あのくねくねは幻覚でも見せられてるからだろうぜ]

さすがバカの神様だね、わかんないよそれじゃ。

[最後まで聞けってんだよ。姉ちゃんを狂わせてる原因はな、匂い(・・)だ。『混乱と怨恨の神ヌルメモ』って言うやつがいてな、神の中でも陰湿で根暗なヤツだ]



 おっさんみたいなのが他にもいるなんて、異世界には救いがないねえ。

それに、友達になりたくなさそうな名前してる。

[おれもあんまり会いたくねえタイプだなあ、あいつ話が嚙みあわねえんだよ]

とはいえミリアさん何とかしないと、僕の精神が持たないんだけど。

[はあ。気が向かねえ。でもこのままじゃ姉ちゃんがかわいそうだよなあ]


 脳内でブツブツとおっさんが愚痴をこぼしはじめた。

これは、珍しいことだと思う。

おっさんは普段、何だかんだいって協力的なのに、どうしたんだろ。

[いやな、ヌルメモは本当に陰湿でコミュニケーションがとれねえやつでよ。呼び出す方法はあるんだけど、あとが面倒になるのが目に見えてんだよな]

それで渋ってるのか。


 ちなみにさ。

[ん? 何だ、ちなみに何だ]

神にペインって言うのは、通じるのかな?

[お! そうだったな、その手があった。わりいわりい、昔から苦手なヤツだから頭が回んなかったぜ。じゃあ、兄ちゃんちょっと叫んでくれねえか]

ふむふむ。

おっさんの呟きを刻み込み、僕は息を吸い込みだす。



「ヌルメモさあぁん! 愛しのゼネマルディは子供が出来たってさあぁぁぁぁ!」

「ヤメテクレエエェェ」

僕の叫びに答えたのは、白の大地の方から聞こえた悲痛な声だった。

神の世界っていうのも随分どろどろしてるよね。

ゼネマルディさんはヌルメモさんのモトカノなんだって。



**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**


天空大陸には、数多の神が存在する。

人知を越えた恐るべき力をもつ人でないものを天空大陸では「神」と呼び、時に崇め時に恐れた。

彼らはほとんど人の世に干渉する事はなく、それぞれ思い思いに過ごしていると言われている。

旧ブガニア王国のように、神の加護を受けた王国と言うのは天空大陸の歴史を遡っても大変貴重であると言えよう。

ブブガニウス陛下らは、神に求められ覇道を歩んだ一族なのだ。

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