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御使

 エマ達と合流して、一週間が過ぎていた。

畑ではもりもり野菜を作ってるし、食糧の問題は解決出来ただろう。

でも、まだまだ攻勢に出るには準備が足りない。


 この一週間何をしていたか……。

具体的に言えば、住む場所の準備だ。

マレージアの村は、レジスタンスの拠点にするにはあまりに貧弱すぎる。


 食糧の問題が片付いた後ガイナルさんが提案してきたのは、砦の建設だった。

ユマちゃんの魔法を目の当たりにしたガイナルさんは、エマちゃんの力で砦を作れないか聞いてきた。

でも、ユマちゃんは首を横に振っていた。

彼女曰く

「だめー! ここの土、カサカサしててパラパラしちゃうもん!」

だそうだ。かわいい。


 エマの通訳によると、村一体の土は元々粘度不足なんだって。

首都ブガニアの地下は、土魔法で形を作ったら崩れないだけの粘度があった。

でもこの辺りは違う。

ナナちゃんが水分を吸い上げていたせいもあるけど、西部の土は元々乾いていてもろいらしい。

この状態だと地下に一時的に穴を掘る事は出来てもすぐ崩れてしまって、住む事は出来ない。


 同じ理由で、壁も作れない。

作る事は出来るけど、魔力を流すのをやめたらすぐ元に戻っちゃうそうだ。


 守りを固めて攻める機会を待つつもりなんて、ない。

でも最低限の守る場所、帰る場所は必要になる。

西部で合流したレジスタンスの皆さんの全員が全員戦える訳じゃあないんだ。

仲間になったからには放っておく訳にはいかないし、一人でやれる事なんて限られてる。

[まあ、そうだなあ。兄ちゃんの世界に帰るには、宝具を集める必要がある。人手が欲しいし、仲間が多いに越したこたあねえぜ]

そうだよね。わかるよ。


 でもさ、だからって僕がお使いに出されるってなんかおかしくない?

ひ弱な青少年をこんな荒野に放り出すかな普通。

もやしっこなんだよ? 僕。

[自分で言うな。しょうがねえだろ。グレンザムとハチは力仕事に刈り出されちまったしよ。いいじゃねえか、護衛に姉ちゃん来てくれてんだから]

ミリアさん、僕のお供に名乗り出てくれたもんね。

僕が迷子になっても、帰る場所がわからなくなっても追跡魔法ルケイトで対応出来るから、ある意味じゃ適任かもしれない。



 僕が頼まれたお使いは、西部の更に西、『白の大地』と呼ばれる無人地域だ。

無人なのは、その辺りの土じゃ農作物が育たないかららしい。

そして僕のお使いの目的は、その土だ。

白の大地の土と砂に水を加えて混ぜると、すごく硬い壁が作れるんだって。

[兄ちゃんの世界でいう、セメントみたいなもんだな。農作物が育たねえのは、そのあたりがアルカリ性の地質だからだと思うぜ]


 え。僕の知識にそんなのある?

[兄ちゃんの脳内フォルダ「よく知らないけどとりあえずなんとなくかっこつけたい時の知識」の情報を元に、おれが分析した]

そんな変なフォルダ、作った記憶はない。



 お使いを頼まれて村を出たのは、三日前だ。

一人寂しくおっさんとだけしゃべり続けていたら、きっと僕は今頃おっさんになっていただろう。

[なるか! バカな事言ってんじゃねえよ]

なるかもしれないじゃん。

おっさんの境がどこにあるのか、誰も知らないんだよ?

 

 でも僕のおっさん化はともかく、僕に護衛っているんだろうか。

そして、既に数回僕を殺しかけてるミリアさんは、護衛になるんだろうか。

一人寂しい旅路にならなかったのはほっとするけど、色々と疑問が生まれる。

[そうだなあ。この姉ちゃん、護衛っていうより]

うん。護衛って言うより、僕を殺そうとしてるよね。


 ミリアさんとの旅路は、控えめに言って死の旅路だった。

この人は料理が致命的にへたくそだ。

せっかく村から持ってきた食料は、何故かミリアさんの手にかかると例外なく、全て緑色のあんかけみたいなものに仕上がる。

そして、とてもまずい。

口に入れるだけで鳥肌が立つ料理って、中々出来ないと思う。

[毒性がなかっただけ良しとしようぜ]

励ましにならない励ましはやめてよね。


「大丈夫か、すぐる。もう少しだ、この岩山を越えれば白の大地が見えてくると思う」

ミリアさんが、振り返ってそう言った。

幸い、体力の違いを気にしてくれる人なのが救いだ。

ワーウルフであるミリアさんと僕じゃ、基礎的な体力が全然違う。

ミリアさんにどんどん進まれていたら、今頃僕は疲労で倒れていただろう。


 ただ、気遣いの仕方を間違えている。

僕は文句をぐっとこらえて、頭の上に手を伸ばす。

握力も随分限界だった。もうそろそろ、自分の体重を支えきる事は出来なくなるだろう。

「頑張れ、すぐる。これが最短ルートだ。この岩山を回りこんでいたら、日が暮れてしまうぞ!」

から、ミリアさんが励ましてくれる。

でも、励ますくらいなら突然ロッククライミングをさせるのはやめてほしかった。

僕は今、切り立った岩肌をミリアさんとよじ登っている。

既に、地面ははるか遠くだ。

必死に頼み込んで命綱を用意してもらって、本当によかった。



**滅びた西部部族より抜粋**



内乱が長く続いた西部だが、争いの部隊とならなかった地域がいくつか存在する。

白の大地は、その中の一つである。

この地域では農作物が育たず、また位置的にも天空大陸の西端にあることから、この地域で紛争が起きたと見られる記述はどの部族の伝承にもない。


しかし、この白の大地には近隣部族に恐れられる何か(・・)の存在はあったと思われる。

忌避されるべき存在であるという伝承は、いくつかの部族歴史から見て取れる。

挿絵(By みてみん)

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