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開墾

 軽々と、大岩が吹っ飛んでいく。

「えいっ! てやっ!」

無邪気なで、キュートな掛け声と共に、また巨岩が舞う。

ちなみに今飛んだのは、僕が七人くらい隠れられそうなサイズだった。

魔法少女、恐るべし。

「おにたん! 次はどれ?」

僕は手をひかれながら、無邪気な土壌開拓超兵器(ユマちゃん)を使って農作物を作る用意をしていた。


「あそこの岩、どかせるかな」

一応聞いてはみるけど、どかせるのなんてわかってる。

ユマちゃんの可愛さと土魔法の前では、この辺りの大岩なんて綿菓子より軽い存在だろう。

「えいっ!」

案の定、勢いよく盛り上がった地面が岩をまたすっとばしていった。


 ふう。畑にするのに邪魔な石は大体なくなったはずだ。

目の前に広がる景色を見ながら、僕は頷く。

畑予定地は、多分100メートルトラックが三つは収まりそうな広さになっていた。

あとはここの土をユマちゃんに耕してもらって、エマ達に持ってきてもらった種を植えればいい。


 エマちゃん一人に任せるのだけが心苦しかった。

でも、本人は思う存分に外で遊べるのが楽しいらしい。

エマちゃんが疲れを見せるようだったらオスタウロスかハチあたりを脅して働かせようと思ってたけど、その必要はないかもしれない。



 岩をどかす作業を遠くで見ていたガイナルさんが、こっちに歩いてくるのが見えた。

「面白い事考えたもんじゃのう。ようもあそこまでの土魔法の使い手を見つけたもんじゃ。じゃが水はどうする」

当然の疑問だと思う。


 触媒魔法は、万能じゃない。

魔力を使って増殖や操作は出来るけど、その効果は維持しないんだって。

魔法で仮に水を増やしても、それはあくまで一時的なものにしかすぎない。

だから、天空大陸では水源になる池を巡って争いが起きていたらしい。

余談だけど大昔は魔法で増やした水を飲んで脱水症状を起こした人が多発したとかなんとか。



 と言う訳で、水は雨に頼るか水源から引いてくるしかない。

だから、この村の畑の農作物は頼りなかったんだろう。

そもそも畑予定地だって、土はすごく乾いてるし、近くにある草木も育ち方が貧弱だ。

でも、僕はもうその原因を知っている。


「今、雨降らせますから」

僕は手をあげて空にいるハチに合図を送る。


『ペナナナナアァァァ~~』


 うまく合図は届いたようだ。

ハチが乗ってるはずのルンポリンが、大きく身震いを始め……


 ――ぴちょん。


 あの白い皮に溜め込んだ水分が、雨となって乾いた大地に降り注いだ。

取り合えず耕した土と水があれば、今より食糧事情はましになるだろう。


 ルンポリンは水分を吸って皮(?)に溜め込んでいる。

そして、ちょっとしたショック……例えば震動なんかで溜め込んだ水をこぼしてしまうようだ。

何となく言葉を理解しているフシのあるルンポリンに水を撒き散らしてくれるように頼んでみたら、思いのほかうまくいった。

テルテル坊主が雨降らせてちゃ、世話ないけどね。


 お爺さんはびしょぬれになりながらも、嬉しそうに頷いている。

「ほほう、こりゃ面白いのう。あのデカいのもまた、お客神として崇めねば。モンスターを崇める日が来るとはのう。じゃが」

ガイナルさんは表情を引きしめる。

「農作物が育つまではどうする」


 これまた、当然の疑問だろう。

作物の種は沢山持ってきてもらったけど、すぐに育つ訳じゃない。

何度もエマ達に食糧を盗ませるのも無理があるだろうし、このままじゃ食糧は足りなくなる一方だ。

でも、あのルンポリンにはもう一つ力がある。

「グロウーナって宝具を使います。あのルンポリンが持ってるので」


 再びハチにむけて合図する。

ルンポリンはゆっくりと下りてきて、畑にそのぶにっとしたすそを下ろす。

「おお……正に恵みの神じゃのう」

ガイナルさんが目の前の光景に、驚きの声を上げた。

ルンポリンが触れた地面からは、すくすくと植えた植物が育ち始めていた。


……。

あれ、牧草じゃない?

他の植えてって言ったのに……。

まあ、ひとまずは全部計画通りだよ、うん。



 いや、もう一つ問題があった。

こればかりは事前に解決しないと、先に進めない。

[なんだ? もう頭の中読んだからわかるけどよ。一応聞いてやるぜ]

ルンポリンに、つけないと。名前。

[ほんっとどうでもいいな。必要? おっさんわからないよ、それ必要?]

そりゃ必要でしょ。


「ナナちゃーん!!」

ユマちゃんが元気に、空に向かって手を振っていた。

よし。あのルンポリンはナナちゃんだ!!

[兄ちゃん、あのお嬢ちゃんにだけは甘いなあ……]

おっさんのため息と呟きは、雨音で聞こえない事にした。

これで食糧はなんとかなる。



**魔法省研究所日報**



創立暦三十四年 

五月二十二日


被検体の調整がほぼ完了した。

今まで明らかにされていなかったルンポリンの生態に、驚きを隠せない。

この生物は、眼球以外に決まった形がないようだ。

白い外皮は眼球を潤す為の水分を常に溜め込み、外皮がいくら削がれようとその生命反応に影響は出ない。

これは王家より与えられた『N』を用いた巨大検体でも変わらないが、外的ショックにより通常の検体より多少脆くなる傾向があった。

更に、『N』が与える影響の一貫なのか、巨大検体は思考、判断が他の検体より突出している事もここに記す。


尚、研究メンバーは全員、この日所長に受けた焼肉の誘いを辞退したこともここに記す。


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