再会
「姐御、準備整いました」
「姐御、ヤツら本当に迎えに来るでしょうか?」
「姐御、本当にこのヒゲも連れていくんですかい」
「姐御、おっぱいにはさべぎゃっ」
バカ共の報告を聞く限り、作業は順調みてえだ。
幸いユマの子守はパイナが引き受けてくれている。
この分なら、奴らが迎えに来る前に引越しの準備は終わるだろう。
バカがたった今四人から三人に減っちまったが、問題はねぇ。
オレは金棒に付いた血をふき取りながら、オレはまた木箱に座りなおす。
そろそろ、迎えに来る頃じゃねえだろうか。
あいつらが逃げ損ねる所が、いまいち想像出来ねえ。
「……あ、姐御、あれ……」
たった今ぶん殴ったバカの一人、ダルの野郎の声がした。
また仕留めそこなっちまった。でもそれも今はいい。
ダルが指差す方向には、パイナが置いてった転移魔法のドロップスがあったはずだ。
その辺りが今じゃ光におおわれている。
やっときやがったか、あいつら!
魔法光が消えると、案の定奴らがいた。
全員で迎えに来るとは思っちゃいなかったが、いるのはワーウルフ二人じゃねえか。
あの髪の長い綺麗な姉ちゃんと、何故か未だ犬の格好をしてるバカ犬だ。
「なんだなんだ、お前らだけかよ」
約束通り迎えに来てくれた事が少し嬉しかったが、出来るだけ悟られないように二人に声をかける。
だが、なんだか様子がおかしいぜ。
なんであいつら、あんなにビビったツラしてやがるんだ。
「エマ」
ミリアとかいう雌犬が短くオレの名前を呼ぶ。
何があった。まさか、西で何かあったってのか。
「だから何だよ、どうしたそんな深刻な顔して」
「頼みがある」
なんだよ、何だってんだ。
「ばっかじゃねえの? グレンザムが散ったってどういうことだよ!?」
青褪めた顔をしてるから聞いてみりゃ、とんでもねえ話だった。
伝説に聞くあの魔人が、西で散ったなんて信じられねえ。
「誰だ、誰にやられた!?」
「ご主人様が、ご乱心でな」
今度はオスのワーウルフだ。
血の気が引いているどころじゃねえ。
凶戦士、なんて恐れられてるウルフヘジンのこいつが何をそんなに怖がるって言うんだ?
犬……ハチとかいうワーウルフが体を震えさせながら口を開いた。
「頼む、エマ。外の屋台で、うまそうなものを手当たり次第買ってきてくれ!!」
はぁ?
「ばぁっっっかじゃねえの!!?? これから逃げるんだろ、メシ買ってる場合かよ!!」
うまそうなものって、何だ。
何でこの状況で、買い物頼まれなきゃならねえんだ。
「頼むっ! 我々は手配を受けていて、表に出れんのだ!」
ハチの発言に、ミリアまで頷く。
さっぱり、状況がわからねえ。
「無事、西にはついた。グレンザムの知り合いとも合流出来た。しかし、隠れ住んでいる彼らに、満足な食糧はなかった。頼みの綱はお前だけだっ……」
「まあ、予想はしてたぜ。それは牧草をだな……」
西は荒れているって話だからな。
食い物がねえと思って、オレらで食糧は用意してある。
「馬鹿めっ! それではだめなのだっ!!」
ハチの顔が、更に険しくなりやがった。
「ご主人様は、逃亡中まともな食事が出来ていなかったっ! そして、そのストレスはご主人様を思いのほか深く蝕んでいたっ!」
……知らねえよ。
オレの気も知らず、バカ犬は更に吠えやがる。
「貴様、今牧草があればいい、と言ったな。何故、迎えに来たのが二人だかわかるか」
いやいや。わかる訳、ねえだろ。
「グレンザムはな……貴様と同じような事をスグルに言って、ご主人様の逆鱗に触れた。ヤツは今、西の地で白目を向いているだろう」
……魔人が散ったってそれかよ。
心配して、損したぜ。
何となく状況はわかった。
信じる相手を間違えた気がしねえでもねえが、今は鈍く響く頭痛の事は忘れようじゃねえか。
あのもやしが腹をすかせて、仲間を追い立てるほど錯乱してるってことなんだろう。
軽いお使いなら、バカ共を走らせりゃすぐ済む。
それに、西に転移してすぐあの激痛をまた食らわされちゃたまらねえ。
「はぁ。わかったってんだよ。何を持ってくりゃいいんだ」
「スグルは、まともなものが食いたいと言っていた。屋台で適当なものを買ってきてもらえると助かる。それと……」
「何だよ……まだなんかあるのか。あぶねえ目に会いたくねえんだ、早く転移させてくれよな」
要求にうんざりしながら、オレはミリアを見る。
「肥料と種も欲しいそうだ。それと、ユマの力も」
なんだなんだ。何をするってんだ。
**歴代魔王名言集より抜粋**
食とは、国の礎である。
栄養を摂るだけに飽き足らず、生活の楽しみでなければならない。
食を大事にせぬならば、そのものは滅びるがよい。
初代魔王スグル・イタミ




