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荒地

 トワシ駅を旅立って一日半。

僕たちは機関車の西の終着駅、ラトソ駅の近くにいた。

余計な騒ぎを避けるためにも、終点に着く前に列車から飛び降り、駅から離れながら西を目指している。


 荒地とは聞いていたけど、本当に首都と違って何もない。

見渡しても目に付くのは僅かな植物と、切り立った岩山。

植物が生えていると言っても、秩序なく、そして頼りなく育った草木が乾いた土をまばらに彩っている程度だ。


 一応遠くにラトソ駅と倉庫のようなものが見えるが、その他には建物らしい建物もない。

貨物車に積まれていた物資は、あそこで消費する食料かなんかなんだろう。

近くに泉があるはずなのに、土が随分乾いているのは気のせいだろうか。


 魔人さんの義父おとうさんがいる場所はまだまだ先らしい。

歩いて先を目指すのはかなり体力を使いそうだけど、終点でまた騒ぎになるのは御免だった。

『負担が掛かってでも混乱を避けたい』と言い出したのが僕自身である以上、文句は言えない。



 それにしても、本当に人気がない場所だ。

ハチ達の話では、統一戦争後はこの辺りにも街を作る予定だったらしい。

妙に視界が開けているのは、開発をしようとした名残だろう。


 ちなみに開発は、中止になったそうだ。

原因は、巨大モンスターの出現。

そう言えば西に向かう途中で何度かバケモノとかなんとか言ってたね。


 巨大モンスターってどんななんだろう。

西と言えば魔人さんかな。

「グレンザムさん、モンスターってどんな奴なの?」

「うむ。それが、よくわからんのだ」

珍しく魔人さんが困った顔をしている。

「昔は巨大モンスターが西に出る、など聞いたことがなかった。呑んだ男達にも、モンスターの情報はない。そもそも、そんなものがいれば義父ちちを残そうとは思わぬ。」

言われて見れば、確かに。


 じゃあ、ミリアさんなら知ってるかな。

「ミリアさん、モンスターについて知ってる?」

「いや、わたしも巨大で太刀打ち出来ぬ奴、という事くらいしか知らない。巨大モンスターの討伐は軍の領分だからな、駄犬の方がよく知ってるんじゃないか?」


 何でハチなんだろう。

看守の仕事は軍と関係ないだろうし、とてもじゃないけど時事ネタに詳しい知識人には見えないんだけど。

僕は、再び大犬の姿で前を歩くハチにそっと視線を移す。

うーん。尻尾をいつもより激しく振ってる所を見ると、知ってるのかな。

いやだな。期待に応えるみたいで聞きたくない。


 おっさん、何か知らないの?

[おれも聞いたことねえなあ]

そんなだからおっさんはおっさんなんだよ。

いつまで経ってもおっさんをやめれないよ?

知の探求を司れないよ?

[あの、もう司ってます。一応神やらせてもらってますからね。大体な、でかい奴が生きてくにはそれだけの食いもんがいるはずだぜ。この辺りでそんな奴が生きてくだけの食いもん、手に入らねえだろ]

でもいるんだってさ、何かが。


 しょうがない、聞いてみるか。

「ハチ、何か知ってる?」

「ええ、まあ、一応」

あ、ドヤ顔してる。

いや正確には尻尾しか見えないけど、尻尾でドヤ顔が想像出来る。


「そう、じゃあいいや」

「えっ!?」

よほど予想外だったのか、すさまじい速さでハチが振り返った。


 だって、聞いたら負けな気がする。

「すぐる、聞いておいた方がいい。その駄犬の父が、討伐隊の指揮を執っているはずだ」

それで、ハチなら知ってるかもってミリアさんは言ったのか。



 そう言えば名門とか何とか、聞いた気がする。

ハチのお父さんも脳筋だろうな。多分そうだ。

内心頷いていると、ミリアさんから追加の説明が入った。

「信じられないだろうが、そのバカ犬の父はブガニアの軍のトップだぞ。ついでに言うなら、国に四つしかない公爵家の人間だ、そいつは」

「えっ!?」

今度は僕が、予想外の展開に驚く番だった。

 

「雌犬、過去の話はやめろ。今、私はご主人様の為だけに存在するのだっ! この牙も、この爪も、そしてこの毛も……唾液の一滴に至るまで、全てご主人様だけのものだっ! そして、あの蔑みの目は私だけのものだっ! あれ、あの……ご主人様、置いて行かないで……」

何やらかっこつけてハチはしゃべっていたけど、僕は何一つ要らなかった。

だから、取り敢えず先に進む事にした。



 歩く事、三時間。

大分疲れが溜まっていた。

ちなみにあの後しょうがなくハチに聞いてみたけど、巨大モンスターの情報はほとんど持っていなかった。

お父さんとは、あまり仲がよくないらしい。

軍がかなりの苦戦を強いられている事、傷をつけることもままならない敵だと言う事。

ハチから父親への愚痴と共に聞き出せた内容は、この程度だ。


「ふむ。そろそろ暗くなる、今日はこのあたりで野宿になるだろう」

魔人さんが辺りを見渡しながら、足を止めて言った。

「そうだな、すぐるもそろそろ疲れ……ん?」

同じく足を止めたミリアさんが、何かに気付いた様子で空を見上げる。

「これは……っ! ご主人様、さがって下さい!」

ハチもワーウルフの姿に戻り、僕を守るように立ち上がった。


 どうしたのか、訊ねるまでもなかった。

僕の耳も、異常を感じ取っていた。何か、聞こえる。

恐らくミリアさんとハチは、種族の特性を生かしてより早く察知していたんだろう。


『ギ~マル~ペ~ナ~~』


 先日聞いたばかりの奇声が、した。

と言っても、ドロップスで出すようなか細い声ではなく、既にその声はかなり大きくなっている。


『ギイィィ~マルウゥ~ペ~ナアァァァ~~』


 これって……。

[ルンポリンの鳴き声と似てるが、随分でかいな……まさか、巨大モンスターってのは]

おっさんの語りかけ半ばで、薄暗くなりかけの空が突然暗くなった。

何かが、陽の光を遮っている。

[なにぃ!? デカいルンポリンがでたあぁぁぁぁ!]

遂に、ルンポリンの正体を僕は理解した。


 へぇ~。あれがルンポリンかあ。



**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**



ブガニア連邦王国を建国する障害となったのは、敵国や西部部族だけではなかった。

王国の庇護が天空大陸を覆うまで、モンスターの脅威は人々を、そしてブガニア国すらも常に恐れさせていたのだ。

ブブガニウス陛下は知性なき獣に屈服する事を大いに嘆き、軍を以ってモンスターの討伐を進め、遂に

各地で猛威を奮っていたモンスター達はその姿を消した。

このモンスター討伐の任に置いて活躍が際立ったのは、代々王に仕える公爵家プリムステイン家だろう。

その武は『如何なる敵も砕く槌』と称えられた。

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