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 窓から差し込んでいた夕日は、もう沈みきっていた。

幸いこの辺りは夜通し賑やかな場所らしく、夜でもうっすらと明りが倉庫の暗がりを照らしている。

僕達は今、タイミングを見計らっていた。

目指すは三十分後に近くを通る、乗客のいない貨物車。


 貨物車は、トワシ駅には停車しないで通過するらしい。

キーパーズの追跡を振り切るには、確かにその方が都合がよさそうだ。

狙いは、トワシ駅から西に抜ける線路にある大きなカーブ。

そこに差し掛かった貨物車は、脱線しないように減速せざるを得ないらしい。

「ご主人様、嗅ぎ慣れた装備の匂いがいくつか。やはり外はキーパーズ共が配備されているようです」

倉庫の出口で様子をうかがっていたハチが、首だけで振り返って言った。


 僕達の西部への脱出を許す気はない、か。

「そっか。のんびり向かうって訳にはいかなそうだね……どのくらいいるか、わかる?」

「かなり多くの気配を感じます。この様子だとかなりの数でしょう」

やっぱり。

こういう時に交通機関や関所から抑えるのは、僕らの世界でも定石だ。


「ふむ。予想通り既に嗅ぎ回っている、か。容易く抜け出せはしないだろうな。ハチとミリアはそろそろ向かったほうがいいかも知れん」

「ではいこうか、駄犬。道ぐらいわかっているんだろうな」

「馬鹿にするなよ貴様……。ここを出て右へまっすぐ、突き当りを右に、そして左だっ!」

うん、間違ってる。

「全部逆だ、バカ」

ミリアさんが、恐ろしく白けた顔でそう言った。



 いよいよ出発だ。

倉庫の潜戸から出るハチとミリアさんを、僕と魔人さんで見送る。

「ご主人様、くれぐれもお気を付けください」

「無事でな、すぐる」

二人が、交互に声をかけてくれた。


 危ないのは地上から行く二人なのに。

僕の心配してる場合じゃない、と言いたい気持ちをぐっと堪える。

二人の顔つきが、本当に僕を案じているように見えたからだ。

「うん、気をつけてね。特にハチ、ミリアさんに迷惑かけないように」

「畏まりました」

「後でな」

「うむ」

僕達は、短く言葉を交わす。

再開の無事を祈って。


 ――ばさり。

振り返ると、魔人さんが見覚えのある羽を広げていた。

「ふむ。我らも行こうか、スグル」

僕は、こくりと頷いた。



 一際目を引くのは、遠くに見える様々な色のクリスタルの光だった。

おっさんと出合った繁華街が比べ物にならないような、強烈な原色の光。

[派手なもんだねえ]

感心したような声が、頭の中に響く。

あれが、トワシ駅の傍にあると言っていたカジノだろう。


 夜風が強烈に当たる中で視線を落とせば、宿屋が広がっている。

この辺りはカジノに訪れた観光客が泊まれる宿屋街として有名なんだそうだ。

宿からこぼれる明りと外灯で、宿屋街もカジノ付近ほどではないが明るい。

ただ、ハチ達が駆け抜けるルートは追っ手に見つかりにくいように人気の少ない道を選んでいるらしい。

「むむ。既にハチ達はキーパーズに発見されているようだな」

魔人さんの声に、慌てて目を凝らす。


 やばい。

確かに、路地裏を駆け抜けるハチ達の後ろには制服を着たキーパーズが群がっている。

幸いまだ囲まれていないようだけど……かなりの人数だ。

おっさん。

この距離なら、ペイン使えるよね?

[見えてるからな、大丈夫だぜ。ついでにハチ達の事も気にしなくていいからな。兄ちゃんが見て、思った相手だけを痛めつけられる]

よしっ……。

見てっ……思うだけだっ!



 ハチ達を追っていた男達が、突然地面に転がるのが見えた。

小さく悲鳴も聞こえる。

どうやらペインはちゃんと届いたみたいだ。

「ふむ。やはり便利だな、その魔法は」

魔人さんも気にしていたのか、背後から少し安心したような声がする。


 でも……。

「いたぞ、あそこだ!」

「道を塞げ、指名手配の二人がいるぞ!」

「裏切りもの共目、待てっ!」

建物の影や暗がりの中から、どんどん追っ手が増えてくる。

地上を走るハチとミリアさんの足は、止まりつつあった。



**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**



ブガニア連邦王国建国から二十年、既に治世はなされていた。

反乱はなくなり、民が平和に暮らせる統一王国は無事完成したのだ。

国民は皆肥え、国土は豊かになる一方であった。

そんな中で統一から二十年を経た国家を賑わせた事件が、二つあった。

首都ブガニアの端に建設された国営カジノと、涙魔法『グリムルの鎌』の完成である。

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