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水壁

 先ほどまでの様子とは打って変わって、おひげさんは意気揚々と部屋の奥に引っ込んでいった。

何を持ってくるんだろ。誰かわかるかな。

「ねえミリアさん、ドロップスって何?」

「いや、わたしもはじめて聞くぞ。簡易魔法など、聞いたこともない」

あれ、知らないんだ。

ミリアさんがダメならハチはまず知らないだろう。

エマとユマちゃんは部屋の道具を使って遊び出してるし、多分知らない。

魔人さん……も少し首を傾げてる所を見ると、ドロップスが何なのか知らなそうだ。


 と、なると。

おっさん、知ってる?

[いやあ、初めて聞くぜ。そもそもが、簡易魔法なんて単語はじめて聞く。何もって来るか楽しみだなあ、あいつは見所があるよ]

なんか嬉しそうだね。

自分が作った魔法に理解があって嬉しかった?

[ああ。せっかくくれてやった相手が地味だなんだって文句ばっかりだからなあ]


 いやいや。

皆には詳しい内容言ってないから、褒めてくれるんだよ。

こんな地味な魔法の効果、聞いたことないもん。

効果、もう一回言ってみなよ。

[タンスの角に小指をぶつけた痛みを与える、だ!]

豆腐の角に頭ぶつけてお亡くなりになっちゃいなよ、おっさん。

[何だそれ……? ああ、ことわざね。『ルンポリンの角が刺さってくたばれ』と同じ意味、か。ひどいこと言うなよ兄ちゃん]

いや待って。

前もチラッと出たけど、そのルンポリンって何。


「お待たせしたでやす!」

僕がルンポリンの謎を解き明かそうとした正に今、おひげさんが戻ってきた。

両手で抱えるような大きな箱を持っている。

きっとあの中に、ルンポリ……いやドロップスが入ってるんだろう。

「さあ、ご覧下さい!  これが、あたしが開発したドロップスでやす!」

僕達は、おひげさんが持つ箱を覗き込む。

そこに入っていたのは、色とりどりの……

[アメちゃんだな]

アメだった。



 ぎっしりと箱に詰められていたアメちゃんを見て、僕はおっさんにもらった賢者の涙を思い出していた。

「なるほど、賢者の涙にそっくりだな」

ミリアさんも頷いている所を見ると、賢者の涙ってみんなこんな形なんだろう。

「へへ、まあ実際に使ってみて欲しいでやす。皆さんの中に、魔法が不得意な方はいますか?」


 おひげさんの質問に、ハチがピッっと前足を挙げた。

「おや、わんちゃんですか。人の言葉がわかるとは賢いでやすねえ」

「失礼な事をいうなヒゲっ! 私はご主人様の下僕、ワーウルフだっ!」

「なっ!? ウルフヘジンでやすか、こりゃ驚いた。まあいいでやす、じゃあウルフヘジンの旦那、これを噛み砕いてみて欲しいでやす!」

ハチは言われるがままに、おひげさんが差し出したアメちゃんを口に入れて噛み砕いた。


 光。魔法光がハチの口からあふれ出した。

光が収まると、変わらぬままの姿のハチがいる。

……失敗作?

「皆さん、そんな目で見ないで欲しいでやす。失敗じゃないです」

そういうと、おひげさんは床に落ちていた小石を手に取り、ハチに向かって投げつけた。

うわあ、いいフォーム。

当たったら痛そう……。

と思ったが、結構な勢いで飛んでいった小石が、分厚い水の幕みたいなのに遮られて止まってる。

「どうでしょう!? これは、一度だけ水魔法で防御壁を張る事が出来るドロップスでやす!」

両手を大きく開きながら、おひげさんが言う。

ただ、その傍には水の膜が破れて水浸しになっているハチがいた。

これ、毎回壁を張るたびに水浸しにさせられるのかな……。


「ふむ。触媒なしで水魔法を使うとは、面白い。これは一度使ったら、もう使えぬのか?」

「そうでやす。ただ、この『ウォーターウォール』のドロップスはまだいくつか作ってあるのでドロップスを割ればその分、利用可能でやす!」

「なるほど。魔法を使えぬ駄犬に試させたという事は、利用者の魔力や魔法の技巧には左右されない、という事だな?」

「その通りでやす!」

なるほど。

使い捨ての便利アイテム、みたいな感じかな。


 ちょっと面白そう。かっこいい魔法とかあるかな。

「それって、他にどんな種類があるの?」

「例をあげるならば、投げ付けると爆発を起こすものや、落とし穴を作るやつ、歌がうまくなるやつでやすかねえ。あ、ひたすら二時間奇声を上げ続けるやつも作ってあるでやす! 転移をするなら、転移魔法を込めたやつなんかもあるでやすよ! ただ、これは出口になるドロップスを転移先に置いておく必要がありますが」


 歌と奇声は、いらないかな。

「どのくらい作ってあるの?」

「んー、効果が高そうな奴を優先して作ってあるでやす! ウォーターウォールや歌がうまくなる奴はそこそこの数があるでやすが、爆発する奴は一個だけでやすねえ」

あれ。この人、重要度おかしい。

と言うか、嗜好が似た人を僕は一人知ってる気がする。

「ドロップスって、パイナさんが作ったんだよね?」

「そうでやす! 以前、古本屋で見つけたこの資料をヒントに、独自に編み出したでやす!」

そう言うと、おひげさんは箱の奥に仕舞ってあった古ぼけた本を取り出す。

表紙には、『最強の魔法目録』と書かれていた。

[あ、あれおれのネタ帳だわ。大昔に失くしたんだよなあ、中身は大して覚えてねえけど]

でしょうね。だと思ったよ。



**魔王年代記より抜粋**



紀元前二年

緑葉の月



初代魔王の出現と同時に世に知らしめた新しい文化に、簡易魔法の存在が挙げられる。

これらはドロップスと呼ばれ、魔王軍が旧ブガニア国を圧倒する一助となった。

魔法の熟練度が低いものでも自在に魔法を使う事が出来るドロップスは、少数で大国を築いた旧ブガニア国に立ち向かう兵士達を大きく支えたと言われている。

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