実演
魔法か。僕はふと、丁度話題になった魔法について考えてみる。
そもそも僕は、魔法については驚くほど知らない。
この世界では魔法は特殊技能のような扱いで、僕ら観光客が見れるのは観光向けの魔法ショーくらいだ。
『タネもシカケもない、本物のマジックショー』は異世界旅行でも人気が高いし、僕も見にいったなあ。
でも、思い返すと観光旅行中に見た魔法ってほとんどなかった。
[昔は、そんなことなかったんだぜ。おれも引きこもってたからよく知らねえけど、法整備されたって話だったよな。まあ権力側からしたら、使用を規制するのは当然じゃねえか? 魔法は当然武器になる]
うん。今の状況考えたら納得だよ。
でも、何度か戦っている所を見ているのに、一度も戦いで魔法を使うの見てないんだよね。
「ねえ、ミリアさん。ミリアさんが使える最低限の魔法って、どういうの?」
「ああ、わたしが出来るのは、恥ずかしながら簡単な操作だけだ。そうだな……中級免許程度だ、と言えばわかるか?」
いえ、わかりません。
「……ああ、すぐるは外世界人だったか。そうだな、実際に見てもらった方が早いか」
そう言うと、ミリアさんはたいまつに手をかざした。
光が暗い巣穴を照らして、火だけがたいまつをふわりと離れた。
火はゆれながら僕の肩に乗って、駆け回りだす。
うわあ……。
炎がリスみたいな形でちょこちょこ走り回ってるよ。
「わあ……! おねたん、ドラゴンやって! おっきいの!」
隣でユマちゃんも大はしゃぎだ。
でも、うすうす思ってたけどミリアさん多分天然だよね。
超熱いんですけど。
「ははは。ユマ、大きいのはわたしでは無理だよ。増幅は苦手でな」
ははは、じゃないって。熱いって。
「えー。じゃあバーンって! ドーンって!」
ふくれっつらのユマちゃんに、ミリアさんは困ったような顔をしている。
よかった、出来ないんだね。
僕は胸をなでおろす。バーンってされたら危なかった。
[危ないって言うか、死ぬね。ちなみにな、姉ちゃんに害意はないからタンス・マインは発動しないぞ]
なにそれ。
爆殺は免れたけど、仲間に焼き殺されそうなんですけど。
「むむ。おい、ミリア。スグルが燃えているぞ」
魔人さんがやっと気付いてくれたみたい。
僕、結構ピンチです。
「……あっ」
ミリアさんの「やべっ」っていう顔と共に、やっと命を刈る魔物が消えた。
[さっさと消してもらえばよかったじゃねえか]
きっとこれは外世界人である僕にわかりやすく説明したかったんだよ?
何か言い出しにくいじゃん。
天然で殺されそうになった訳じゃない、そう思う事にしよう。
「ま、魔法見せてくれてありがとね」
少し焦げ臭いのを気にしないようにして、僕はお礼を言う。
どのくらい使えるかは何となくわかったしね。
大丈夫、今の僕はきっとうまく笑えてる。
「すまない、近くで見てもらおうと思ったんだが……」
あ、笑えてないかな。
ミリアさん、しょげてしまった様子。
なんか僕が悪いみたいになってるぞ。フォローしないと。
「あの……出来ればさ、今度は火以外で見せてくれると嬉しいな」
「本当に、すまない。やけどはしてないか? 一応、熱も抑えたつもりだったんだ」
なるほど。そういうことも出来るのか。
「ちょっと焦げたけど、やけどはしてないよ」
「そうか、よかった。使えるのはこの程度だ。だから、攻撃に使う事はほとんどない。わたしはどうもうっかりものでな、よく祖父にも怒られたものだ」
で、しょうね。しょげかえったミリアさんを見て、僕は内心頷く。
その天然、命に関わるもの。
ちなみにエマとハチは、後ろで黙ってやり取りを見ていた。
エマはニコニコしてるから、多分はしゃぐユマへその顔を向けていたんだろう。
ハチは……顔中嫉妬で埋め尽くされてた。
[兄ちゃんと魔法でじゃれついてんの、うらやましかったんだろ]
じゃれついてない。
殺されそうになっただけだ。
何だか複雑な思いで歩いていると、後ろからエマが駆け寄ってきた。
「ユマ、そう言やこのあたりって例の場所じゃねえか?」
ユマちゃんがこっくりと頷く。
何かあるんだろうか。
「例の場所って?」
「ユマはよくこのあたりで遊ぶらしいんだけど、変なの見つけたんだってよ」
ユマを抱き上げながら、エマが答える。
「変なの? なにそれ」
「おひげさんがいるの!」
エマのたわわなアレを背もたれにしたユマちゃんが、元気に答えてくれる。
おひげさん、か。
こっちにもいるんだね、幼女に群がる変質者。
**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**
ブガニア連邦王国は建国と同時に、魔法使用者の制限を行った。
統一戦争により多大な死者をもたらした魔法を取り締まる事で、王国の民の平和を願ったのだ。
魔法免許制度の導入は一時は混乱を招いたが、結果的に王国の治安は劇的に改善することとなる。
この免許制度により、職業魔法使いが誕生した。
職業魔法使いは魔法は法律で定められた範囲でのみ利用が認められ、職によって魔法使用が許可された。
また一方で、魔法学の研究を専門的に取り扱う機関もこの時期に設立されている。
これは、歴史ある魔法という文化をなくしてはならないという陛下のお考えによるものである。




