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 男たちの悲鳴が響く中、ハチ達の背中が小さくなっていく。

出口があった路地裏では、先ほど僕の顔を検めた男たちが痛みに転げまわっていた。

これで追跡組の三人は切り抜けられるだろう。


「今の悲鳴はなんだ!?」

「脱獄した死刑囚か!?」

「おいこっちだ、逃亡していた死刑囚がいた! 係長を呼べっ!」

どうやら建物の上や路地の外にもいたらしい。

悲鳴を聞き付けた黒づくめ達が、次々と僕達の方に駆け寄ってきていた。

何だか忍者みたいな奴らだ。


「すぐる、ここは頼む。わたしは上から来る敵の相手をしよう」

ミリアさんが壁を駆け上っていくのを僕は見送る。

結構な数がいるみたいだし、出来るだけ派手にあばれるつもりなんだろう。

でも、困った事があった


 手、縛られたままなんですけど。

僕、突き飛ばされたまま起きれないんですけど。

ミリアさん、僕の事見て声かけたのにノータッチっておかしくない?

[はぁ]

ため息ついてる場合じゃないんですけど。



 一人でうごうごしていると、忍者もどきの一人がこちらへ寄ってくる。

「ん……? 何だこいつ、縛られてるじゃねえか」

はい。縛られてます。

「おい、死刑囚はここだ! 他の奴らはやられてる!」

はい。僕がやりました。

「ふん。おとなしいじゃねえか。処刑される覚悟は出来たか?」

いいえ。出来るだけ集まるのを待ってただけです。

[ペイン使うのに支障ねえだろ、さっさとやれよ。悲鳴あげてくれるように、思いっきりな]


見て、思うだけっ!


「い……っっってえええっ!」

狙い通りの大絶叫。

視界の端に入ってた何人かも、巻き添えにあっている。

ミリアさんが、路地裏の入り口側を向いて倒してくれたおかげだ。

「どうしたっ!?」

「何だ、何をされた?」

「死刑囚にやられたのかっ!」

周りにいた奴らが、どんどん僕の前に集まってくる。

いいぞ、これだけ視界に入っていれば……


見て、思うだけっっ!


「っおおおおぅっ!」

「あ……、あ、これ無理だわ」

「ぬあああああああああっ!」

次々激痛に倒れていく男たち。

ちなみに、冷静に痛がってたやつが一番ダメージがありそうな顔してた。


……あれ。もう来ないね。

[あの姉ちゃんの方にも行ってんだろ]

「死刑囚めええ!あっ……あああっ」

あ、まだ後ろに一人いた。

たった今タンス・マインでひれ伏したけど。


 さて。ミリアさんは大丈夫だろうか。

僕は目の前で倒れている奴等にペインでトドメを刺しながら、ふと思う。



「すぐる! 無事か!」

お。ミリアさんが降りてきたようだ。見えないけど。

無事ですよ。あなたに倒されたままですけど。

身動きが取れない僕を覗き込むように、ミリアさんの整った顔が現れる。

「さすがだな、すぐる。この人数相手に無傷とは」

「うん、それより……」

それよりこれ、解いて。

「上にいた奴等が、何人か逃げた。追跡組の方に向かったのかもしれない」

「あの……この縄……」

「いつまで寝ている。すぐ追うぞ、すぐる」

あの……。




◆◆◆◆◆◆


「係長!」

慌てた様子で、係長と呼ばれた男の下へ駆け寄る、いくつかの陰。

すぐる達の元から逃げ切ったボナムド商会の男達だ。

先だっての潜んだ様子はなく、どこか荒々しげである。

「どうした。標的を発見したか」

対して、呼ばれた男はあくまで冷静に問う。

「はい。ですが周辺にいた仲間がやられました。やったのは、姿を消した猟犬、そして恐らく死刑囚です」

「恐らくとはどういうことだ」

「それが、横たわった死刑囚の前に立った仲間は全て悲鳴を上げながら倒れたのです」


 係長は一瞬考える間をおいて、更に問う。

「魔法を使うと聞いているが、それか」

「いえ。魔法光は一切ありませんでした」

「前に立つものが倒れた、か……発見したのは二人だけか」

新たな質問に、別の影が進み出た。

「魔人の手配書に似た男が逃げた、という報告があります。しかし死刑囚に大方が倒されてしまい、ゆくえはわかっていません」

「二手に分かれた、か。帰るぞ」


「は?」

部下達はあっけに取られた様子で、上司を見る。

「採算が合わないだろう。怪我人一人の見舞金にいくら払うと思っている。これ以上の戦闘は、赤字を増やす事にしかならない。政府の依頼は、魔人と死刑囚発見の補助のみ。仕事は終わりだ、発見した事だけ誰か伝えて来い。少佐は助からぬだろうから、柱まで行く必要があるな」

男はそう言うと、拠点の引き上げを部下達に命じる。

『係長』と呼ばれる男の名は、コーエンと言った。

ボナムド商会暗部の精鋭を率いている男である。




**週刊スッパヌキより抜粋**



≪スクープ! ボナムド商会に潜む闇!!≫


あのボナムド商会には、きな臭い噂があることをご存知だろうか。

王国全土に店舗を構えるこの商会は、多角的な経営によりマネルダム家に次ぐ資産を築き上げた。

だがこの商会には、実は公にされていない闇がある。

武器、人、土地。

所謂『金になる』と言われている市場を総なめにしているこの商会が隠している闇とは!?

次号より、週刊スッパヌキ記者が潜入捜査で得た驚愕の事実を掲載していくので乞うご期待!!!



――この特集は、公開されることはなかった。

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