表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/96

行方

 先行するエマを追い、僕達は地上へ向かう。

しかし消えた幼女を追う僕達の道のりは、決して楽なものではなかった。


 土魔法が得意なユマはショートカットを続けて地上へ出たようだが、ご丁寧にも自分が通った通路を元通りにしていったらしい。

居場所はミリアさんのおかげで分かるものの、蟻の巣のように入り組んだ地中ではどうしても追うのに時間がかかっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

通路には、皆の粗い息遣いと足音だけが響いていた。

と、エマが前方を指差して振り返る。

「あそこから表に出れるぞ!」

その指の先には、出口が塞がれた階段があった。



 大急ぎで駆けつけたつもりだ。

それでも、ミリアさんがさっきユマの居所を探ってからここに着くまで十分以上はかかっている。

ユマが今どこにいるか、もう一度確認する必要があった。


 ミリアさんが念の為に追跡魔法ルケイトを使って、ユマの居所を調べてくれている。

もし、今いるこの出入り口の傍にいるか向かっている途中ならセーフ。

でも、明らかにそうでない動きをしていれば……。

「……どうやら市場から居住区の方へ移動しているようだ。今の位置からは離れていく」

ミリアさんの言葉は、後者である事を示していた。


「ユマッ!! ……っ! 何のつもりだ、魔人!」

駆け出そうとするエマを、手を引いて魔人さんが止める。

「うむ。焦る気持ちはわかる。だが、待て。状況を正しく見なければならん」

魔人さんの言葉に、魔法で様子を見ていたミリアさんも続いた。

「……この速さなら、捕まってはいないと思う。あちこちへ光の点が揺れている。逃げ回っているようだ」



「ふむ。ならば敵は複数。たまたま強盗団を敵視しているならずもの共が、大規模な包囲網を作れるとは思えぬ。では、あの幼子を追っているのは軍かキーパーズ、そのあたりだろう。すぐには殺されぬ」

エマの腕から力が抜けていく。

「……じゃあ、どうしろってんだよ」

「うむ。あの幼子がいきなり軍やキーパーズに追われる理由はないはずだ。恐らく、魔法光を見られた。見られたとしたら、出るとき。この辺りは既に捜査の手が回っていたのだろう。表にはかなりの数の敵がいるとみるべきだ。ここは、二手に別れよう」

魔人さんは僕らを見回して、言った。


「確かに、ご主人様とグレンザムへ掛った追手がほんの数人と言うことはあるまい」

「ではユマを追うものと、囮役が必要か……どう分ける。私の魔法は追いかけながら使うには向かない。駄犬の鼻を使う方が、追跡は楽だと思うが」

ハチとミリアさんは、元自分たちが所属していた組織だからか飲み込みが早い。

「オレはユマを追う。足止めって言われてもお前らほど強くねえし、早く行ってやらねえと……」

エマは、追跡組を立候補した。

姉の顔を見ればユマも安心するだろうし、きっと追跡組を外れろと言っても聞かないだろう。


「ふむ。では私とハチ、エマで幼子を取り戻しに行こう。幸い私とエマはそこまで顔を知られてはいまい。ハチも今の姿ならば、素性はわかりにくい。死刑囚として手配されているスグルを、ミリアが捕らえた。それで気を引いている間に、我らは幼子を追おう。まあ、私の似顔絵くらいは出回っているだろう。時間稼ぎにしかならんだろうが」

「わかった」

ミリアさんが頷く。

僕も、それに続いた。


「むむ。それにしてもハチよ」

魔人さんが出入り口に向かいながらハチに話しかけた。

「なんだ、グレンザム」

「貴様、スグルに危険な役目を任せる事を、よく反対しなかったな」

「はっ。魔人グレンザムとこの私が、ご主人様には傷一つ負わせられなかったのだぞ。御自身で救出を決意されたのであれば、無駄な心配は不敬以外の何物でもない。ご主人様が幼子を助けるとお望みなら、私は最もご主人様が喜ぶ形でお手伝いをするだけだ」

ハチはそんな事か、と言わんばかりに少し笑う。

「ふむ。では、行こうか」

魔人さんも、なんだか満足げだった。


[兄ちゃんの気持ち、ちゃんと汲んでくれてるじゃねえか。もうちっと優しくしたらどうだよ?]

雑な扱いの方が喜ぶじゃん、ハチは。

それより気持ちを引き締めないと。

僕は少し震える足を一歩踏み出して、皆の後に続く。

これから、初めて自分から戦いに行くんだ。



「ふむ。やはり、あの幼子はここで見つかったのだろう。張り込まれているようだな」

「グレンザム。匂いは見つけたぞ」

先に出た魔人さんとハチが、出口から様子を見ながら言う。

どうやら、いちいち悪い見込みの通りになっているらしい。

今、僕は両手を背中に回して縛られていた。

ミリアさんと二人で、外のやつらの気を引く。

せめて、エマ達がこの包囲を抜けるまで。


「さっさと歩け、この死刑囚がっ!」

ミリアさんが、僕を地下から押し出した。思わずよろけて倒れる。

「何だ貴様! どこから来た!?」

出口を包囲していた男の一人が、近寄ってきてミリアさんに声をかける。

「テロ鎮圧部隊『ハウンド』のミリア・レズドールだ。脱獄した死刑囚を追っていた。こいつがそうだ」

「失礼した、猟犬殿か。どれ、脱獄囚の顔を見せてくれ」


 ぐい。

無理矢理、黒づくめの男の方へ顔を向かせられる。

「うむ、手配書の通りだ。さすがは猟犬殿だ。おい、こいつを捕らえておけ」

掴んだ手が、乱暴に離された。

周りにいた他の男達が、僕を拘束する為に近寄ってくる。

男はミリアさんを見て言った。

「所で、先ほどその穴からチビのミノタウロスが出てきてな。猟犬殿も、その穴から出てきたのか」

「そうだ。その小さなミノタウロスは、知らんな。夜更かしして遊んでいたのではないか?」

平静を装った声で答えるミリアさん。

「……ふむ。魔法を使った形跡が発見されていてな。まあ、捕まえて詳しく聞くとしよう。もう一つ聞きたい。この死刑囚と一緒に逃げたものがいる、と聞いているが……」

やばい。魔人さんと逃げた事、ばれてる。

「今だっ! いけっ!」

男の言葉が終わらないうちに、ミリアさんの鋭い声が、響いた。


「こっちだ、着いて来いっ!」

地中で隠れていた三人が、ハチを先頭に素早く飛び出す。

目の端では、ミリアさんが傍にいる男を鎌の柄で殴りつけているのが見えた。


 出来るだけ僕らが気を引かないとっ。

幸いここは外灯がある、男達の姿もうっすら見える。

ユマを助けるんだ。邪魔なんか、させない。

視界に映るのは、黒い服を着た男が四人。

全員まとめて、ペインを喰らえ…っ!



見て、思うだけっ!!



**新聞織り込みチラシより抜粋**



≪ボナムド商会へ是非ご依頼下さい≫


貴方の悩み、全て解決致します!!

弊社の自慢は、その品揃え!

天空大陸一のシェア率はダテではありません!


武器がない?

土地がない?

知りたい事がある?

人が足りない?


す・べ・て! 弊社で取り扱いが御座います!

お求めとあらばすぐさまご用意致しましょう!


※大変申し訳ありませんが、価格の値引きには応じる事が出来ません。

ご満足頂く為に、弊社はハイクオリティな商品のみを取り扱っております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ