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巣穴

 ミノタウロスの巣穴は、予想よりずっと広かった。

ここは彼らの居住区と交通路の両方を備えているらしい。

たいまつの火と、所々に埋め込まれたランタンで視界も割と開けている。

まあ、あのでかいオスタウロスが普段使うんだし、大きな道になるよね。


 たいまつを持って先頭を歩くのはエマ。

ミリアさんと僕は、その後ろに続いている。

僕の隣には、大きな犬。これは変身しているハチだ。


 さっきまでいた廃墟からこの巣穴まで、そこまで距離はない。

もちろん変身する必要はなかったんだけど、ハチが「ご主人様に是非お散歩に連れて行って頂きたい!」とかなんとか大騒ぎしたので、諦めて隣を犬の姿で歩いてもらっている。

ちなみに、この『犬への変身』と言うのもウルフヘジン特有の能力で、ミリアさんは出来ないらしい。

貴重な能力の無駄遣いだよね。


[ついでに、黙らせるためにペイン使った事もちゃんと回想しとけ]

僕はやってないよ。

テーブルにでも、後ろ脚の小指ぶつけたんじゃないの?



 それはそうと、巣穴に入る時に一つ感動した事がある。

魔法をやっと、ちゃんと見れた事だ。

[あー、確かにありゃ土を触媒にした魔法だな。そういやペインは見えねえし、魔人のとこじゃ転移陣使っただけだったもんな]

うん。

何もない地面が両脇にスライドドアみたいにずれるのは、ちょっと感動した。

あんなに近くで本物の魔法見れると思わなかったよ。

[兄ちゃんも魔法、使えるけどな]

え……? ああ、この悪ふざけみたいな下らない奴?

[……いつか偉大さを知れよな]

そんな日は、多分来ない。



このままおっさんと話をしていても、また喧しくなるだけだろう。

いつも聞き流すのも悪いし、話をそらすことにしよう。

[おれに悪いって感情はそれで埋まるのかよ。大体兄ちゃんはな……]

「ねえ、ミリアさん。どたばたして聞きそびれたけど、本当に僕について来ていいの?」

実は少し気になっていた。

話を聞く限り、テロ鎮圧部隊の部隊長の一人ってエリート公務員みたいなもんじゃないんだろうか。

色々と複雑な事情があるみたいだけど、あっさり仕事を捨てて反逆者の仲間入りしていいのかな。


 ミリアさんが、驚いたような顔でこっちを見る。

「家族とか、いるんでしょ? ミリアさんの家、色々大変なんじゃないの?」

「ああ、そう言う事か」

質問の意図が伝わったらしく、表情を少し緩めた。

「気にするな、わたしはもう天涯孤独の身だ。母は私が幼いうちに亡くしているし、祖父も四年前、無念のうちに逝ってしまった。知っての通り、父は政府の陰謀で既に処刑されているし、没落貴族を相手にしようなどという奇特な男もいないので独身だ」


 なるほど。

でもやっぱりちょっとわからない。

「誰もいないなら、何で嫌な思いしながら頑張ってたの? それに頑張ってたのに、あっさり今の立場手放しちゃっていいの?」

「ハウンドは、レズドール家再興の為の足がかりだ。祖父は己の活躍で得た伯爵の地位に誇りを持ち、没落した家名を何とか再興させたがっていたのだ。だからわたしはどのような扱いを受けようと、不遇の身を嘆くより認められようと思った。それだけの話だ。父の仇がわかった今、もうあそこはわたしの居場所ではないし、未練もない」

きっぱりと、ミリアさんは答える。

その顔には、後悔は少しも見えなかった。


 しかしミリアさんの容姿なら、周りの男が放って置かないと思うんだけどな。

[それは、本人に聞いてみないのか?]

聞ける訳、無いじゃない。

こういう時にフラグ建てられないから、童貞なんだよ?



◆◆◆◆◆◆



 グレンザム・ダイゴノアは一人の少年を見つめていた。

ミリアの隣を歩くひ弱な少年、スグル。

彼は一体、何者なのだろう。


 異世界との行き来が始まっている事は知っていたが、異世界に住むものが全てあのような男であるとは到底思えなかった。

グレンザムは、過去に『呑む』事で数多の民族文化を取り入れている。

数多の民族の思考パターンに当てはめてみても、スグルの事を理解するだけの材料は持ち合わせていなかった。


 まず魔法が、異質すぎる。

それに神を体内に宿すなど、聞いた事もない。


 何より、精神性が全く理解出来なかった。

人を殺せはしなそうだが、傷つける事自体にはためらいはない。

無慈悲な冷酷さを見せる事もあれば、誰かを思い遣って涙する事もある。

老獪さを見せたと思えば、無邪気な子供としか思えぬ行動を取ったりもする。

一見支離滅裂に見える行動ではあるが、強い目的を持った上での行動ではあるようだった。


 グレンザムはトンコツ・ラーメンを手に入れたら、すぐ別れるつもりでいた。

しかし、垣間見える異常性に期待してしまったのだ。

自分がかつて敗れた王国を滅ぼせるのではないか、と。


 思わず身が震える思いだった。

想像を絶する、肉を越え骨に響くような激痛を思い出して。


 そして、思いを馳せる。

トンコツ・ラーメンとは…そしてカエダマとは、一体どのような代物なのか、と。



**ブガニア新聞より抜粋**


創立暦三十四年 八月一日 朝刊


『強盗団にご注意』

首都ブガニア近辺で、強盗団による被害が発生している。

強盗団の犯行は正に神出鬼没であり、地中を移動して犯行を繰り返していると考えられている。

保安部は強盗団を魔法取締法違反と断定し捜査を進めているが、以前足取りは掴めていない。

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