表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/96

牛乳

――ガシャッ。ドカッ。


 男たちが廃墟のあちこちをひっくり返している。

この分じゃ、見つかるのは時間の問題だ。

でもここを切り抜けるにしても、ペインでどこまで戦えるって言うんだろう。

[それについちゃ心配いらねえよ、兄ちゃん。いい加減に信用してくれよ。特別製中の特別製でな……]

「お、いたぞ」

……はあ。

見つかったみたい。


 少し離れた所から、覗き込まれていた。

角を生やしている、体格からして多分男みたいなのが一匹。

あんな全米ヘビー級王者を弾き飛ばしそうな体格の女の人がいるとは、思いたくない。

なんというか、牛みたいだ。

というか、あれ牛だな。鼻輪してるもん。

「なんだあ、どっかのガキか?」

牛さんがしゃべってる。

[……はあ、また説明聞いてもらえなかった。ありゃミノタウロスだな]

ほー。あれがねえ。

[じゃ、つかまる前に倒しちゃおうぜ]

はいはい。

後はもう慣れたものだ。


 見て、思うだけ。

いつも通り、牛さんへ痛みを届ける。

僕の目からは稲妻が走りそれが牛さんを穿つっ!

[穿ちません]

穿たないんだって。

「っ。っっつ! っっっっ!!」

牛さんが足を押さえて歯を食いしばってる。

わかる、わかるな。声が出ない痛みってあるよね。


「おい、どした」

「なんだなんだ」

「姐御、おっぱいもませブシャッ」


 ……やばい。ぞろぞろ集まってきた。

アメフト部の部室みたいなむさ苦しさだよこれ。

「あん? お、いたぜ。テーブルの下に隠れてやがる。こいつが何かしたな」

また、覗き込む牛の顔。

鼻輪の先にドクロつけてるよ、はは。

おっしゃれー。

さて。全部で七人、かな。

出口はあいつらの後ろにしか、ない。



 どうやって逃げよう。

ペインがあるって言っても、一人倒してる間に捕まったらアウトだ。

[おいおい。一人にしか使えねえと思ってんのか?]

え? 違うの?

[違う。ちょうど全員固まってんだ。全員見える所に出て、ペインを使え。もう隠れてても無駄だよ、兄ちゃん。あの筋肉の塊どもだぞ]

おっさんの言葉に半ばやけっぱちで、テーブルから這い出る。

うん、やっぱり七人。

みんな厳つい鼻輪してるね。あと、一人顔がボコボコの奴がいるね。

どれどれ。

ターゲット、ロックオン!

「いっけえええええっ!」

[兄ちゃん久しぶりに声出したな]



 結果から言うと、ペインは七人全員に効いた。

全力(?)でやったからか、皆床で転がりまわっている。

そして僕は、絶賛ピンチを迎えていた。


 大事な事を、すっかり忘れていた。

ここに入ってくる前の会話で、こいつらは何て言ってたか。

一人ボコボコになってた牛さんは、誰にやられたのか。

「ばぁっかじゃねえの? 部下共を倒して、勝った気かよ」

もう一人、肉壁に隠れていた。

背後にはどうやら、雌牛さんがいらっしゃるようだった。



 ピンチ。ピンチである。

どうやらいつの間にか回り込まれていたらしい。

何より、あのプロレスラーも裸足で逃げ出しそうな体格をもった女性(?)が本当にいる事に驚きだ。

声はかわいらしいのになあ。

「てめえ、なにしやがった。このバカどもに、何しやがった」

ブオンッ。

声と共に、重量のあるものが振り回される音。

絶対にピンチだ。見えないけど。


 どう答えたものか。

と言うか、答えたところでその『ブオンッ』で『ブオンッ』されちゃうんじゃないかな。

困った。困ったぞ。

「……だんまりかよてめえ。何されるかわかったもんじゃねえ、手足くらいは砕かせてもらうぜっ」

っ!

……っ!?

あれ。

砕かれないぞ。

[兄ちゃん、振り返ってみろ。大丈夫だっての]

おっさんの言葉に、思わず僕は首を傾けた。



 罪悪感。罪悪感しかなかった。

どんなスゴイ、スッゴイのがいるかと思ったら、筋肉達磨なんてとんでもない。

振り返った先にいたのは、涙目の可愛らしい少女だった。


 目をうるうるさせながら、少女は痛みに耐えている。

いや、耐えれてない。震え具合が尋常ではなかった。

豆腐を頭に乗せたら面白い動画が撮れそうなくらい、プルプルしていた。

といっても、頭に豆腐を乗せるのは難しそうだ。この子もやっぱり、角生えてる。


 そして……。

[すっげえ]

おっさんが思わず、声をもらす。僕も同感である。

目の前の少女の胸部、すっげえ。

ベルトを巻きつけたような服装の彼女に、思わず視線が釘付けになる。

プルプルなんてもんじゃない。

ブルンブルンだった。



 でも、何で痛がってるの?

この子の事、僕見てないはずだけど。

おかっぱ頭を撫でたい衝動に駆られながらも、何とか僕は現状を把握しようと思考を戻す。

[ああ、そりゃ一段階レベルがあがったからだな]

へ?

[兄ちゃんがその目で見なくても、害意を持って攻撃しようとした奴に痛みを与えるようになったんだよ。名付けて『危機反応型自動反撃魔法タンス・マイン』だっ!いいか、タンスの角に小指をぶつけるのは、タンスに向かって足を進めるからじゃない。気付けばタンスは、そこにあるんだ]

うん。

何言ってるか全然わかんないや。



**初級魔法入門より抜粋**


※本書はブガニア連邦王国が法で定める、魔法講習で使用されていた教本である。

魔法免許講習の内容は難易度によって変わるが、どの受講者も全て必ずこの教本で魔法の基礎を学んだ。


――――以下引用


諸君がこれより学ぶ『魔法』は、その性質を二つに大別する事が出来る。


①触媒魔法

基礎を学んだものならば、ほぼ全てが操る事が出来る魔法である。

効果の大小は使用者の技量によって左右されるので基礎の何たるかを本書でよく学び、魔法免許所持者として安全で快適な魔法生活を送って頂きたい。


②涙魔法

触媒を必要としない、珍しい魔法である。

初級魔法免許講習のみの受講者は涙魔法の取得、使用は法律で禁じられている。



尚、初級講習の受講内容は①の触媒魔法に限られている。

初級免許保持者は、安全を第一に魔法の取得及び使用を心がけて頂きたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ