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名家


 睨み合う二人。と、腰のあたりから低く大鎌を構えていたお姉さんが口を開いた。

 

「何故裏切る。貴様、名家プリムステインに名を連ねる戦士だろう」


 え。話の流れからして、この名家とか戦士とかってハチの事だよね。あの変態看守、有名人なんだろうか。


「兄がいる私には、由緒正しき家柄など足枷にしかならん。戦に出るのも面倒で地下監獄の職に就いていたが、それももう終わりだ。私の心にブブガニウスへの忠誠心などない! 今あるのは、ご主人様に蔑まれ踏まれ罵られ……ご主人様への忠誠心だけだっ!」


 ……本音ほぼ言い切ってるね。もうなんでもいいや。僕への歪んだ忠誠心のせいで、由緒正しき家柄っていう事実はどうでもよくなった。


 しかし呆れ果てる僕とは対照的に、ハチの返答はお姉さんを怒らせるには十分だったようだ。


「貴様、それでも代々王に仕える武官の子かっ」


 怒りに満ちたお姉さんが、ハチに襲い掛かる。



 さて、お姉さんの鎌がハチを掠めたところで開戦となりました。解説のパビラスカさん。この戦いをどう見ますか。


[あー、ハチが有利だな。ここは普通の酒場よりは大きめだろうが、武器が大鎌じゃアドバンテージは完全にハチにある]


 なるほど、見ればわかる解説をありがとうございます。


[……]


 おーっと、ハチが反撃だっ! 早い、早いっ。目にも留まらぬ前足を使ったラッシュだーっ!


[月夜は狼が赤く染まる、なんて言い伝えもある。獣人になったワーウルフはそんじょそこらの兵隊が倒せるもんじゃねえよ]


 なるほど、完全にハチのペースと言うわけですね!?


[兄ちゃん、ノリノリだな]


 昨日から寝れてないからね、ナチュラル・ハイってやつみたい。


 あれ。おっさん。


[なんだ。もう飽きたのか]


 うん、目の前でバチバチやってるけど眠い。ところでお姉さんが持ってたの、大鎌だったよね?今持ってるの、ただの長い棒に見えるけど。


[なに? おっと。刃が消えたってことはあの大鎌は『ハーヴェス』か。そうなると、前言撤回だな。ハチが危ねえかもしれねえ]


 ハーヴェスって?


[この国がまだ小国だった頃、初代ブブガニウスが手に入れた七つの宝具の一つだな。刈り取る鎌ハーヴェス。特性は単純だが、タイマンでの戦いだとやっかいだぜ]


 えぇ。ハチがやられたら、僕が危ないじゃん。


[……ハチの心配してやれよな]


「ふわああああ」


 返事の変わりに、あくびがでた。眠い。


◆◆◆◆◆◆


 大変だ。なんということか。ご主人様が、私の戦いに退屈していらっしゃる。蔑まれるのはいい。

踏まれるのも好きだ。だが飽きられるのだけは、認めるわけにはいかない。ご主人様にいい所を見せたいのに、攻めきれない自分のなんと歯がゆい事か。


 この女は監獄で倒したハウンドの下っ端より遥かに手ごわい。しかし、それでも負けるわけにはいかなかった。ご主人様に飽きられるのも、私が敗れこの女の凶刃に主君の身を晒すのも、受け入れられない。生きて敵を倒し、またあの蔑みの目で見られるためにも、勝たねばならないのだ!


 女が大きく身を捩り、鎌の柄を握り締めた。大鎌の一撃が、来る。構えからして、下段から逆袈裟に振るうつもりだろう。避けてそのまま、あの柔らかそうな腹を食い破ってやる。


 鎌が、体の脇を通り過ぎる。腕が振り上げられ、女の胴体ががら空きになった。


 ここだっ! 勝負を終わらせて、またご主人様に……


「かかったな」


 胸に走る鋭い痛みと共に、女の声が聞こえた。何かが、私の体を貫いた。



 この、胸を貫く刃はなんだ。何故、女ではなく私が傷を負った。

 この、口に広がる血の味はなんだ。

 私の牙は女には届いていない。であれば、この血は私の血だ。


 女の武器は、あの使い勝手の悪そうな大鎌だけだったはずだ。閉ざされた空間で有利な武器ではない。


「何故、という顔をしているな」


 勝ち誇った声が、鎌を振りぬいた姿勢の女から聞こえた。避けたはずだった鎌の刃は、柄の先にはない。消えた大鎌の刃は、女の腰から生えて私の胸を貫いていた。



**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**


旧ブガニア国には、初代ブブガニウスの治世より代々奉られている七つの宝具があった。

いずれも詳しい来歴は明らかにされておらず、口伝で王族にのみ伝えられている。

宝具は様々な特性を持ち、立国から天空大陸統一まで王国の危機を救った。

その特性は生命の営みに由来した絶大なものと言われており、敵国や反逆者は常にこれに怯えた。

正に王家の秘宝に相応しい宝具だが、名前が明らかにされているのはそのうちの五つのみ。

即ち、耕しのプラウン、撒くスウィード、植え付けのプランタヌ、育むグロウーナ、そして刈り取りのハーヴェスである。


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