表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/96

尾行


 ミリア・レズドールは怒りに打ち震えていた。目の前に広がるのは、部下達の血の海。彼らは、武力のみで現在の地位を気付いたミリアに対して決して従順ではなかった。影でミリアを蔑み、没落した彼女の家柄すら嘲笑っていた事をミリアは知っている。


 それでも彼らは偉大なる帝王により預けられた大事な配下だった。つまり、目の前の部下の血はブブガニウス十三世の血に等しい。彼女の胸は刺々しい痛みを伴う怒りで支配されていた。


「逃げられると……思うなよっ!」


 手に持っていた大鎌を背に回し、ミリアは走り出す。追うのは、脱獄した死刑囚とそれを手引きした一人の看守。


「駄犬め……殺してやるぞ」


 燃え盛る怒りは、ミリアの胸を焦がし続ける。キーパーズ、テロ鎮圧部隊『ハウンド』の長、ミリア・レズドールの胸を。


◆◆◆◆◆◆


 目指すは、西。僕達の当面の目標は、隠れ住んでいるらしい『マレージア』の生き残り達と合流する事に決まった。


 僕は、ハチが持ち帰った勝負服に着替えながら、魔人さんに詳しい話を聞くことにした。


「グレンザムさんのお義父さんの所へは、どうやっていくの?」


 僕も魔人さんも指名手配されるだろうし、今僕達がいるのはブガニア連邦国で最も栄える中心部だ。目的の場所は、恐らく観光の際立ち入りを禁じられた西の果て。国内を走る蒸気列車を利用しても、丸二日はかかるだろう。


 魔人さんはハチと何か話しているのを止めて、こちらを振り向く。


「うむ。今このワーウルフと話をしていたのだが、やはり私達は既に指名手配されているものと考えたほうがいいようだ。堂々と外を歩く訳にはいかぬだろうし、スグルとワーウルフを抱えて飛ぶのは無理があるだろう」


 重量オーバーってやつかな。


[体力的にも厳しいだろうし、空中で飛べないお前らを抱えるのは危険だからだろ]


 なるほど。何にしても、空の旅はもうごめんだから助かるよ。




 あれ。魔人さんの顔、いつもより更に険しくなってない?

 僕の視線に気付いたのか、心配に答えるように魔人さんは重苦しく口を開いた。


「それと、ゆっくりしている訳には行かぬようだ。スグルの荷物を取り戻す際にワーウルフが起こした騒ぎで、キーパーズのテロ鎮圧部隊が動き出した可能性がある」


 魔人さんの言葉に、ハチはコクコクと頷きながら言う。


「と言うより、動き出してます。追いかけられたので、二人……いや四人ほど血祭りにあげてますから」


 キラリ、と爪をきらめかせるハチ。数も数えられないのか。

 そして、発言からやっかいな雰囲気しか感じなかった。……もうやだ。このバカ犬。


 と、突然廃墟に涼やかな女の声が響いた。


「このバカ犬め。裏切るとはな」


 ほんとバカ犬。お姉さん、もっと言ってやって。


「地底監獄最下層の看守と言えど、無事では済まないと思え!」


 ……あれ。お姉さんなんていたっけ。


[いねえな。敵だろ]


 ハチめ。尾行されたな。



 僕はおそるおそる、声のするほうに目を向ける。その声の主は、酒場の入口に立っている女性だった。


 艶のある長い黒い髪は、後ろで束ねられて腰の辺りまで垂れている。ほっそりとした、しかし引き締まった体には真っ白で糊の効いたカッターシャツを纏い、すらりとした足は黒いパンツスーツによって更に形のよさが強調されていた。


 例えるなら、まさに百合の花。しかし、その百合にはどうやらバラより鋭いトゲがあるようだった。

両手には、人の首も椿の花のようにたやすく落とせそうな大鎌が握られている。


「部下の仇を取らせてもらうぞ! 裏切り者の駄犬め!!」


 鋭い刃の音と共に、構えを取るお姉さん。ハチが血祭りに上げたって言ってたのは、お姉さんの部下なんだ。


 ん。じゃあこのお姉さんが追ってきたのはハチだけ……?


「後ろに匿ってる死刑囚は駄犬の首を切り落としたあとで、道連れにしてやるっ!」


 ……ですよね。やっぱり仲間認定されますよね。


「偉大なるご主人様にまで手を出そうなど、不届きな奴め! ウルフヘジンの力、見せてやる!」


 そして僕に手出しする事を、ハチが許すはずがなかった。



 大鎌を持つ百合の花と、忠実なバカ犬。二人は向き合い、殺意を隠そうともしない。


「ふむ。外も囲まれているようだ。ワーウルフがやるなら、ここは任せて私は外にいる雑魚を片付けてこよう」


 魔人さんはそう言い残し、颯爽と姿を消していく。これは困ったぞ。


[いざとなったら、ペインで切り抜けられるっつーの]


 的外れな事を言うおっさんに、ため息がでた。そんなことどうだっていいんだって。


[なんだってんだ。じゃあ何が問題だよ]


 ほんと、何もわかってないなあ。魔人さんがいなくなったら、誰がバトルの解説するんだよ。


[おれだろ]


 おっさんか。じゃあいっか。



**ブガニア連邦王国建国の歴史より抜粋**


ブブガニウス十三世が統一をなした際、最も恐れたのは反乱と暴動であった。

陛下はこれらを強く統制する為、法整備を急務とした。

全ては国民の安全と、永久の平和の為。

陛下の慧眼は、民草には見通せぬ遥か先の時代まで見通していたのだ。


そして、法の番人として作られたのがキーパーズ。

彼らは犯罪に立ち向かう武力は元より、暴動の阻止と犯罪者の検挙に特化した集団だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ