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 僕は、ずっと考えてた。ブガニア国が魔人を利用するのは何の為か。ハチが言っていた『テロ』は、誰が起こしているのか。魔法の不正利用者に対する厳罰は、どうして定められているのか。


 答えは一つ。間違いなく、反政府勢力は存在するはずだ。


[ほー、兄ちゃんもただのバカじゃねえんだな]


 おっさんに素直に感心された。なんか言い方が不愉快だけど、まあいいや。


 僕のいた世界も、平和じゃない。それに、戦争とか時事ネタに対する理解は就職活動では必須なんだよね。


[ま、兄ちゃんの考えは間違ってねえと思うぜ。魔人グレンザムを利用してるのは、一個人じゃなくて、王国そのものだ。国を挙げて目に付かない場所に囲ってるんだからな。これが貴族や議員個人が囲ってるなら、自分の反対勢力を倒す為、なんてのも考えられるが国が囲ってるなら話は別だ。国民に知られたくねえ共通の敵、つまり反政府勢力、レジスタンスがいると見て間違いねえだろ]


 うん。僕はこっちの事何も知らないからね。魔王になるなら、そういう人たちの協力を仰ぐのが手っ取り早いと思ったんだ。



 はっきり言って、今取れる最善の方法だと思っていた。でも、頭の中に勝手に住みついた神様は早速問題を告げてくる。


[大きな問題があるな]


 ないよそんなもの。完璧なの。


[あるってんだよ。魔人はそいつらを殺してたって考えるのが自然だろ。案内されてすんなり言う事聞くのか?]


 あ……。


[レジスタンスなんてのは、わざわざ命の危険冒して権力に楯突くような跳ねっ返りなんだよ。力で手伝えって脅しても、言う事聞くもんかねえ]


 そっか。魔人さん自身がレジスタンスの敵でも可笑しくないもんね。仲間になってくれ、なんて頼んでも聞いてもらえないかも。



 ハチみたいに従順になったりしないかな。


[ありゃ種族の特性だからな。稀なケースだと思っとけ]


 そっかぁ。期待は出来なそうだね。まあ考えててもわかんないし、取り敢えず替え玉券を見てよだれ垂らし続けてる魔人さんに聞いてみよっか。


[そうだなあ。お前の頼みに頷いてくれたはいいけど、その状態でずっと放置して脳内会議してたもんな、おれ達]


 魔人さん、ごめんね。僕は心の中でそっと詫びた。


[誠意なんざかけらもこもってねえけどな]


 うるさいよ。



 僕は替え玉券を再びちらつかせながら、魔人さんに質問してみる。


「グレンザムさん、一つ聞いてもいい?」


 魔人さんは替え玉券にそっと手を伸ばしながら頷く。無表情ながら、体全身にうきうきした感じが現れていてなんだか胸が痛い。


「あのさ、グレンザムさんは反政府勢力のいる場所、知ってるんだよね?」


 再び、こくりと頷く。


「それって、魔人さんが政府に依頼されて倒しに行ってたから?」


「む。それは違う」


 魔人さんはやっと普段の陰鬱な雰囲気に戻り、首を振った。


「私は確かに、反政府勢力の討伐を依頼された事はある。私の手で滅んだ組織もいくつかあるが、お前を連れて行くのは全く違う場所だ」


 そうか。レジスタンスはいくつかあるんだ。


[政府の監視が厳しくて、結束出来てねえのかもなあ]


 なるほどね。


 でも違う場所ってどういうことだろう。


「どこに連れてってくれるの?」


「正確には、反政府勢力としての力はないと思ってくれ。案内するのは、西部部族の生き残り。私の義父達だ」



 あれ。地下監獄で聞いた話だと滅んだんじゃなかったんだっけ。


[おれもてっきりそうだと思ってた。確か魔人がいた部族『マレージア』は滅ぼされ、ピアーニャ・ダイゴノアは処刑されてるはずなんだがな]


 魔人さんはうつむきながら、疑問に答えるように話を続けてくれる。


「妻は処刑され、私は捕らえられた。しかし、義父と、僅かな仲間はまだ生きている。捕らえられる前に私が隠したのだ。全てを助ける事は出来なかったがな……」



 そういうことか。確かに、魔人さんの義父なら信用出来そうだ。仲間と娘を殺されたんだもん、そりゃ政府の言う事なんて聞きたくないよね。よしよし、なら早速案内をしてもらおう。


 少し先行きが明るくなってきた気がして、僕はほっと息をつく。しかしいつの間にか接近していた魔人さんは、真剣な顔で僕を見て、がしりと肩を掴んだ。肩を掴む腕は力が篭っていて、僕に鈍い痛みを与える。


「レジスタンスを探すくらいなのだから、憎きブガニアに牙を向くつもりなのだろう。お前の恐るべき力は既に見た。頼む、義父と私の無念を晴らす為にも力を貸してくれないだろうか。私一人では、圧倒的な物量の前になす術がなかった。しかし、お前となら。それに、トンコツ・ラーメンにカエダマがあれば……」


 ああもう。せっかくの真剣なシーンが台無しだよ。


[しょうがねえだろ、強くなれるうまい食いもんだ、みたいに理解されてるんだから]


 どれもこれも、ブガニア国に一矢報いる為って訳だね。


 まあ貴重で絶大な戦力が手に入る事に変わりはない。僕は魔人さんの端正な顔を見返しながら、頷く。


「わかった。僕は元の世界に戻る為に、この国を滅ぼして魔王になる。必ず就職してみせるんだ。力をかしてくれる?」


 魔人さんも、頷いて応えてくれる。


「ああ。一度は敗れた身だが、妻の仇を討てるなら力を貸そう。それと義父の下に到着した折には、カエダマの約束を忘れずに頼むぞ」


 こうして、未来の魔王とかつての魔人は目的を共にする仲間となった。


[就職とメシの為にってのが、いちいちしまらねえなあ]


 おっさん、せっかくいい所なんだから邪魔しないでよ。



**グルメ探訪録「グレ歩き」より抜粋**


※「グレ歩き」とは、謎の美食家グレ何某が外世界日本を訪れた際に記したとされる食事記録である。

不思議な事に、この作品ではある一つの料理についての記録しか残されていない。

他の料理に対する記述は破棄されたのか、はたまた盗まれたのか。

真実は今では誰もわからない。


ラーメンには、不思議な魔力がある。

麺とスープがかもし出す可能性は無限であり、またラーメンを作る全ての要素には理由がある。

スープを作る行程、麺の形状、具材のサイズに食感。

全てが、極上の一杯を作り出す為に計算され作られているのだ。

中でも素晴らしいのは、やはりトンコツ・ラーメンだろう。

一杯を作り上げるハーモニーと、広がるバリエーション。

ラーメンの種類は数在れど、トンコツ・ラーメンを超えて私の関心を引くものは未だ無い。

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